依頼について会議します
「武器を買うお金は残してるんですの?」
「あ」
金髪美女イエナの問いに間抜けな声で反応してしまって、サーシャとミヤにすごい顔で見られた。
「だ、大丈夫お金使い切ったわけじゃないし! ちょっと覚えてなかっただけ! 大丈夫! それに今日、チート回数も増えたんだよ」
「えっなんで。誰かと意気投合したの?」
あっはっはサーシャは面白いこと言うなぁ。
「起こんないよそんな怪奇現象」
「え? そ、そう……?」
なんだか気まずそうな顔をしてるサーシャに、私は動画視聴アプリを画面に開いたスマホを取り出す。
「この板はたくさんの人につながっててね。この板を通じていろんな人が私を知ってくれたんだ、ごめんなんでもない!」
すごい顔で見られてた。
インターネッツなんて通じるわけないよね……と侘びしくスマホを【ストレージ】にしまう。
サーシャは首を傾げつつも、私に笑ってうなずいた。
「まあよくわからないけど……回数が増えたならよかったわね」
「うん。大事に使わないと」
残り21回。
前世からの縁は残り一つだ。
サーシャたち三人と、チャンネル登録してくれた十七人。
それが私の持つ今の「つながり」のすべて。
チート能力の詳しいところを知るためにも、今度は余さずちゃんと使っていこう。
と心に誓っていると、サーシャがジッと私の顔を見ていた。
「次の依頼、一緒に行くってことでいいのね?」
「え、うん」
「よかった。土壇場で嫌がるんじゃないかと不安だったの」
にっこりと破顔するサーシャ。
「考えすぎにゃ」とミヤに笑われてクスクスしている。
私も笑ってしまう。
見透かされていて。
……正直、この期に及んでなんなんだと自分でも思うけど。
まだちょっと逃げたい気持ちがある。
でも、これは人と一緒にいるだけで不安になる、ぼっちガチ勢な私の本能みたいなものだ。
みんなと一緒に行ってみたいし、チートの力を借りてみんなの役に立ちたい。三人と仲良くなりたいって気持ちも、私のなかには同時にある。
どっちも本当だ。
だから、どっちに乗っても嘘じゃないし――今の私は、今まで怖くて選べなかった道を選びたいと思っているんだ。
サーシャはみんなの前に紙を広げた。冒険者ギルドから発行される依頼表の写しだ。
「明日は魔物討伐に行くわ」
「えっ」
ちょっと肝を潰す。
チート回数が増えた私だけど、当初の約束では明日はチートなしで冒険者してみるという約束だったのだ。
なんでそんなアグレッシブな依頼を……とひるむ私に、サーシャはにっこり微笑んだ。
「大丈夫、ちゃんと考えてるもの」
サーシャいわく。
たとえば薬草採取では、天然魔力を吸わせて栽培している畑まで森の奥を進まなければいけない。おまけに貴重品を扱う依頼なので、仕事に時間制限もある。
小間使いのような壁外活動の依頼はフォルトが未だ仮免許のため選択肢が限られてしまう。
「その点、危険だからこそ自分たちでリスク管理のできる魔物退治は、むしろちょうどいいの」
「ゴブリンの巣穴に乗り込め、とかになると思いがけないトラブルが多いようですけれど」
イエナが肩をすくめる。
私はちょっと怖くなって尋ねる。
「ちなみにゴブリンって人間襲う?」
「基本的には逃げるわね。自分より大きい獲物を襲うことは滅多にないわ。どうして?」
「いや……最近、ゴブリンがヤバい話をよく見かけるから……うん、大丈夫ならいいよ!」
「? 人的被害はあんまり聞いたことないけど……」
不思議そうなサーシャはともかく、話を終わらせる。
要するにこの世界での魔物の危険度はそのくらいってことだ。まあ一般人が【ファイアーボール】の魔法を使えるような世界だもんね。
「ゴブリンより、今回の相手になるイミテートのほうが厄介にゃ。イミテートは容赦なく人を噛み殺すからにゃ」
「イミテート?」
「フォルトも戦ったことあるわ。この辺りの個体は狼の顔をしているやつ」
ああ、あの気持ち悪いのか! サーシャを取り囲んでいた化け物たちだ。
私がチートのせ【ファイアーボール】で焼き払った。
イエナがうなずいて補足してくれる。
「キメラの一種で、いろんな姿が存在しますわ。生命体を見つけると襲いかかり、殺した死骸に取り憑いて苗床として、遺伝子を混ぜ合わせたキメラの出来損ないを生み出す特定危険種ですの」
「マジでやべえやつじゃん」
「まあ、大丈夫よ。親株を探す依頼じゃないから、苗床から生み出された胞子を倒すだけ。森の奥まで入らなければ育ったやつはいないから」
「育ったやつ……ってサーシャと一緒に戦ったウェアウルフみたいなやつか」
あれが胞子って、でかすぎる。
「でかいだけにゃ。一対一なら余裕で勝てるにゃ」
ミヤは胸を張るけれど。
……全然、一対一じゃなかったんだよなぁ……。
「具体的な目標は、明日武器を買ってからね」
サーシャが笑ってまとめてくれる。
と、ちょうどそのとき威勢のいい看板娘さんが料理を運んできた。
でかい大皿に串揚げ、焼き肉、野菜の卵とじにサラダをどっかんどっかん盛り合わせた全部入り。
大皿をテーブルの中央に据えてサーシャは嬉しそうに頬をゆるめる。
「じゃ、明日の冒険の成功を願って乾杯しましょうか」
「まだ水来てませんわよ」
「あれ? ほんとだ」
目をぱちくりとさせるサーシャ。
そんな彼女に、ミヤがいたずらっぽく笑う。
「これでいいにゃ。これ使おうにゃ」
と言って示すのは。
お肉の串揚げだ。
「肉パーティみたい……」
「フォルトは苦手かしら? わたくしはこっちのほうが好みですわ。精がつきそうで」
イエナがニヤッと笑って串揚げに手を伸ばす。
サーシャも苦笑混じりに串を持ち。
そうなれば私も持たざるを得ない。
「それでは、にゃ! 次の冒険の成功をねがってー!」
まるで円卓の騎士が掲げた剣を重ねるように。
串揚げの尖端をみんなで触れ合わせる。
『乾杯!』
「うあっ!? 衣が飛び散りましたわ!」
「ちょ、ミヤ強く当てすぎ!」
「にゃはは! 豪快なほうがいいにゃっ!」
明日はみんなで街の外だ!




