蒼髪幼女と接触します!
……蒼髪幼女は、すぐには襲ってこなかった。
草原の真ん中まで来て、門番さんからも見えにくいかな、というあたりまで来て街を振り返る。
街の空中に立っていた幼女は私と目があった途端、
しゅん、とジャンプした。
おぉ……っきく放物線を描いて、私の前にスタァーンと軽やかに着地する。
全身をしなやかに弛ませて着地の衝撃を逃した。
猫みたいなやっちゃな。
「ステイ! 待て!」
蒼髪幼女はキョトンとした顔で私を見ている。
私は「待て、話せばわかる」のポーズで身構えた。
また腕を噛まれたらたまったもんじゃない。
……けど、どうも襲ってくる気配はなかった。
幼女が動かないことを幸いと、私は彼女の足をよく観察する。
(やっぱり。怪我してるな)
サーシャと一緒に見かけたときにはなかった傷だ。
見た感じ、嚙み傷っぽい。
赤黒くただれた傷は小さく、けれど深くまでやられているような色の黒さってことだ。
「効くのかわからんけど……いい? 待てだよ!? そのまま大人しくしててね!?」
気持ちだけで伝われ! とばかりに言い聞かせてにじり寄り、さっき買った薬を取り出す。
「痛みで噛みつきやしないか……?」
幼女は私の手を見て警戒はしているが、黙って耐えている。
びくびくと逃げそうになる足をつかんで、買ってある瓶詰め蒸留水を【ストレージ】から取り出す。
「じっとしててね」
優しくかけて傷口を洗い流していく。
噛み傷は傷口の奥に細菌が入り込んでいるかもしれないので、無理に消毒しようとすると傷口を痛める。
それよりは血圧で菌を押し流してもらったほうがいい。
タオルで傷に触れないよう優しく拭いたら、買ったばかりの軟膏を出す。
「……なんか『スティックのり』みたいな形状になってんな」
片手でも開けやすくて扱いやすい。しかも手がべとべとしない。ちょっと塗りすぎちゃうのはご愛敬。
ともかく、傷口に軟膏をそっと塗る。
「……これでいいんかな」
べちょっと塗りたくられた軟膏を見る。
これで傷口が保護されるはず。
蒼髪幼女の様子を窺う限り、……少し楽になってそう。これ効きが早いのかな。
包帯をやや広めにぐるぐる巻いて締める。
傷口は刺激しないようにしつつ、上下のところはキツく締めて圧迫止血を仕掛けてみた。
本当は心臓より高い位置に傷口を置いて、不要な出血は抑えてもらいたいんだけど。
噛み傷は、傷の場所が肉の中にあるので手当が難しく出血も止まりにくい。治りも悪い。
現代では抗生物質も投与されるくらい感染につながりやすいもの。
この環境では、清潔に保って栄養をとって安静にするのが最善だ。
生前の友、犬のジョンは噛むような子じゃなかったけどさ。
牙持つ生き物と暮らすなら相応の知識は必要だからね。
「こんなもんか。よしよし。なぁんだ、大人しくできるじゃん」
幼女を見ると、むずがゆそうな顔で包帯を見ている。
「……外しちゃダメだよ!? わかってる?」
幼女は私を見た。
もしかしたら、けっこう言葉わかるのかもしれない。
私を噛み殺しかけたヤベーやつだけど。
「栄養はあんまりなさそうだけど……野性味あふれる人食いには合うでしょ」
私は【ストレージ】を開いて、買ったばかりの燻製肉を両手で持つ。――デカいなこの肉。
幼女の目が輝いた。心なしか前のめりになって、でもまだ動かない。
こぶし一つ分くらい、ナイフで切り分けて幼女の口元に運んだ。
「もう動いていいよ。これあげる」
「あふ」
幼女はベーコンに噛みついた。
がふがふと食べている間に、私は辺りを片付けて足音を殺して立ち上がる。
ソソクサと逃げ出した。
よしセーフ。命拾いした。
「……しかしなぁ」
私はふと首をひねる。
最初にビーフジャーキー。
二度目でサンドイッチ。
そして今回は傷を手当してベーコンだ。
「これは餌づけじゃないのか」
よくないなぁ……野生動物(動物ではないけど)に餌付けすると、襲ってきてよくないんだぞ……。
でも自分が食われるよりマシだ。
うむ。やむを得ない。
街の門まで戻ると、門番のおじさんが安心したようにニッコリ微笑んでくれた。
「おかえり。用事は済んだかい」
「無事終わりました。あの、ちなみに街の空って結界的なもので守られてたりしますか?」
「ん? あぁ、よく知っているね。そう、魔物は空にもいるから、街を見えないフタが覆っているよ」
やっぱりな。あの幼女はべつに虚空を歩いていたわけじゃない。
でも。
そうだとすると、あの子は本来、普通に街まで来たかったことになる。
結界に遮られていただけだ。
……いったい何しにきたんだろう。
まさか私を探しに来たわけじゃあるまいし。
ストーリー展開に先駆けて二本目の動画を投稿します。
今日明日じゅうに公開予定!(追記します!
追記
https://youtu.be/3Ay6FrbEc2w
TRPG「ソード・ワールド2.5」を扱ったネタで投稿いたしましま!
初回動画と同時に収録しておいたものです。よろしければよろしくお願いします!




