仲良くなるって、なんですか?
サーシャさんが私を見て言う。
「言っておかないと砕けた話し方にするタイミングをなくすタイプでしょあなた。今から丁寧語やめて」
「は、はい」
「はいじゃないにゃ」
「うす」
「どこの方言ですの?」
ミヤさんとイエナさんにも言われてしまった。
(いやでも、そんな急に……なんか後ろめたくない?)
わけもなくビビり散らしていると。
私の腕をちょいちょいとつつかれる。
ミヤさんが机にあごを載せて上目遣いに私を見ていた。
「ミヤたち友達にゃ」
にやあ、と見透かしたように笑って。
「この先もずっと、さん付け丁寧語がいいのなら、無理にとは言わないにゃ?」
「……がんばるます」
痛いところを突かれまくった。
距離感のつかめない私にとって、「このくらいで行こうよ」と事前に示してくれるのは結局ありがたさしかないのだ。
「ところで」
サーシャさん……サーシャが私を振り返って小首を傾げる。
「それだけ強いと冒険者の階級はどのくらいなの? 鉄級? 銅級まで行っちゃう?」
「いやいや、普通に仮免です。近日中に本認定されるはずって聞いたけど」
「えっ!? わたくしたちより下に数えられてますの?」
「まーそんなものじゃないですかね」
チート能力がなければなにもできないのだ。なんとか回数を回復させないと依頼どころじゃない。
「四回でも心許ないのは変わらないよ。街に帰ったら効果切れちゃうし」
「帰らなければいいんじゃにゃい?」
なんて脳筋な解決法……。
「考えないでもないけど、お腹空いちゃって……。他にも時間がキーになっているかもしれない。っていうか、しまったな。一回くらい実証に費やせばよかった……」
抜かった。
この手の小説ではふつう、冒頭は能力把握の実験に費やすものじゃないか……。
ステータス画面とか謎の直観でだいたい分かるから気楽に構えていた。
私が声もなく悔やんでいると、サーシャさんが苦笑混じりに首を傾げる。
「しばらくはチートに頼らず地力で勝負したほうがいいかもね」
「えぇー……強化しないと怪我するかも」
「じゃあ冒険者なんてやるんじゃないの。心配しないでも、怪我したら私が治してあげる」
まぁ……また回数がなくなったときに、頼れるものがないのはツラい。
自分でも戦えるようにしないといけないだろう。
「ミヤが体術を見てあげるにゃ。こう見えても天剣流の師範……の弟の直弟子の一番弟子にゃ」
「マウントポイントから遠くない?」
「攻撃魔法にかなり適性があるようですし。魔法はわたくしが見て差し上げますわ」
ミヤとイエナがそれぞれ申し出てくれる。
サーシャが二人と私を見比べて、
「私は……?」
悲しそうに自分を指した。
「えっと」
支援魔法は私には縁もゆかりもない。
「料理とか……教えて?」
「任せて!! 得意よ!」
パアっと笑顔を輝かせて胸を張った。
かわいい。
「ご注文のチーズパスタお待ちィ!」
給仕の看板娘さんが景気よくお盆を掲げてやってきた。
ガバッとイエナが身を乗り出す。
「ナイスタイミング! ちょうど話がまとまったところですわ。食事にしましょう!」
「賛成にゃー! 腹が減っては会話はできぬにゃ」
チーズのとろける濃厚な香りに諸手を上げて喜ぶ二人。
サーシャは苦笑してうなずいた。
「そうね。続きは食べながらしましょうか」
サーシャが取りまとめ、ミヤが脊髄でしゃべり、イエナがとぼけた返事をする。
そんな完成された三人の輪に、
「ね。フォルトはどう?」
私が混ぜられていて、とても不思議な気分になる。
手元の、トロトロにとろけたチーズが鉄板の上でパスタに絡まるお皿を見る。
「……このチーズパスタ、めちゃくちゃ美味しい」
「でしょう!? そうなのよ。ここのチーズはビックリするくらい美味しいの!!」
「にゃにゃ。アツアツで食べるのが最高にゃ〜!」
幸せそうに微笑むミヤに、愕然とする。
「……えっ。ミヤって猫舌じゃないの?」
「ミヤのなにを知ってるにゃよ!? 先入観はいけないにゃ! ……舌を下歯茎の根に貼りつけるカンジで、舌先をつけないようにすると熱さで痛くなりにくいにゃよ」
「マジでか」
-§-
みんなの話をいろいろ聞いてお腹いっぱいになってご機嫌な夕食から、おうちに帰って。
「そうじゃねぇんやが……!」
私はベッドに突っ伏した。
いや何も間違ってない。チートに頼らず実力を高めるのは大切だ。友達もできた。(まさか私に友達ができるなんて!!)
でもそれはサーシャやイエナ、ミヤたちが優しすぎるだけ。根本的な問題はなにも解決していない。
だって……四回は、四回だ。
それしか使えないし、使いきったら使えなくなる。
ゼロから鍛え直すとして。
その間の生活はどうするの?
結局のところ、やりたいことが増えただけだ。やるべきことは変わらない。
「うん。でも、ちょっと頑張れるぞ」
私のチート回数が増えれば、またなにかあったとき三人を助けられる。
そう思えば前向きに取り組めるというものだ!
「いよっし! ちょっと収録しよ!」
起き上がってパソコンを手元に引き寄せる。
音質が死ぬほど悪くて金属みたいなかすれ方をするのは、どうもノイズキャンセリングをかけすぎているからみたいだ。
加工をすべて切って、もとの音質を最大限保つ作戦にする。
「……聞き取れないことはない、くらいにはなった……かな……?」
けれど、やっぱり喋りはダメダメだ。
人間、急には変われない……。
明日はミヤと朝練だ。……大丈夫かなぁ……?




