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人間とは。  作者: Daisuke
2/2

曖昧な存在には定義を付けるべきであろうか

よろしくお願いします。

 気が付くとそこには、ただ何もない、荒れ果てた地があった。

 四つん這いになった僕の周りにある破片のような何かはきっと建物の跡なのだろう。しかしそれを判断する材料はどこにもない。

 誰もいない。何もない。それは清々しい光景でもあり、またおどろおどろしい光景ともいえた。

 その光景に、恐怖を覚えた。

 人間がいない。人間と言う存在が「ない」ということだ。

 そしてそれは、自分自身の存在を疑う始末となる。


 僕の目は何かに潰されたはずだ。

 僕の体は津波にのみ込まれたはずだ。

 僕の意識は、もうなくなっていたはずだ。


 感覚があるという感覚に、恐怖と言う感覚が植え付けられる。



 見えるはずがない光景が、目の前に広がっている。

 聞こえるはずがない風の音が、目の前に届いてくる。

 感じることのない土の感触が、手に届いている。



 恐怖のあまりに叫ぶ。訳が分からなくなって叫ぶ。


 僕は、何もない何かに向かって、言葉にならない言葉を叫んだ。


 これまでに感じたことのない矛盾の中で、泣き、叫んだ。



 そしてその涙も枯れる頃に、僕はいつの間にか眠りについていたらしい。

 もしかしたら、最後に見た景色は夢なのかもしれない。

 自分自身が曖昧な存在になって、この世に最期の挨拶をしに行っていたのかもしれない。

 そう思って、目を閉じた。

 悪い夢を、さっさと覚ましてしまうように。



 目を開けると、そこは教室の中。


 窓から海の見える、いつも通りの教室。


 しかし確実に違う点がある。



 僕の席が無い。



 しかし時間は流れ、生徒は存在している。



 僕の存在が認識されていない事を除けば。



 HR担任が来る。見覚えのある先生だ。いつもの挨拶を始める。

 しかし、津波に襲われた日とは違うものをもう一つ見つけた。



 恋愛をしている者がいない。



 いや、それどころか、クラスメイトほぼ全員が顔を合わせていない。

 いつもの挨拶も、どこか新鮮味がある。それを僕が立って眺めているという光景には、違和感しか覚えない。

 これは、奇妙と表わさなければ一体何だというのか。

 その奇妙な光景を横目に、僕は、海を眺めていた。

 今はまだ、穏やかな海を。

ありがとうございました。

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