勇者と悪敵の日常
この世には必ず敵というものがある。いわゆる悪だ。
そして俺がいる世界の人間の敵といえば魔王、悪魔、堕天使、死神、魔女だろうか。
話は変わるが俺、エルスは勇者だ。俺は敵を倒し、平和な日々を送っている。
今は大量の食べ物を持って山の峠にある家に向かっている。鳥のさえずりや川のせせらぎが聞こえる自然に囲まれた木の家。家の隣には桜があり桜吹雪が舞っている。
少々大きいので高かったが俺は金などすぐ集められる。この世界にはまだ魔物が住んでいてギルドの依頼を達成して金は貰える。
そしてなぜ俺が大量の食べ物を持っているのかというと
「ただいま~」
『おかえり~!』
家の玄関を開けるとそこには一つのソファーを占領してる魔王と、その反対側のソファーに座って本を読んでいる悪魔、帰ってきた俺に飛びつく小悪魔、床でごろごろしている堕天使、壁の隅っこで座っている死神、二階から降りてきた所々顔に煤が付いている魔女がいる。
「早く飯くれぇ!」
「お前は牛肉でいいだろ」
投げた巨大な骨付き牛肉を生で骨ごと食べるこの魔王はゴルゼ。脳筋のバカ魔王だ。性別は一応男だ。通常より体を小さくしてるらしいがそれでもデカい。
「ねぇエルス私のは~?」
「お前はチョコが欲しいんだったな」
俺にずっとくっついて板チョコを食べているこの小悪魔はメア。小悪魔どうりの悪戯好き。性格は女。俺より背は低くて小さい羽がある。悪魔は普通物を飲み食いしないがメアは甘いものが好きなのでよく菓子やフルーツをあげている。そのせいかかなり好かれている。
「ふん、同じ悪魔として恥ずかしい限りだ」
「まぁまぁ、お前も水くらい飲めよ」
メアにイラつきながら本を閉じ、ペットボトルの水を受け取ったこの悪魔はデルモ。プライドが高い悪魔だ。性格は男。俺より少し背が高くて、メアと違って羽はない。本人とメアいわく、かなり上級の悪魔らしい。
「じゃあ私は水とリンゴが欲しいわ」
「ほらよ」
顔に付いてる煤など気にせずにリンゴにかぶりついているこの魔女はベーナ。魔法研究と実験とリンゴが好きな魔女。性別は言わずとも女。俺より少し背が低いが被っている帽子で高く見える。
「オレにはなんかねーの?」
「飴でも舐めてろ」
投げた飴玉を取り、口に入れたこの堕天使はルフェル。めんどくさがり屋の堕天使だ。性格はこれでも女だ。背は俺と同じくらい。大きな黒い翼を持っているが今は消している。少し強気なやつだ。
「ぼ、僕も、飴欲しい」
「ほい」
ルフェルと同様に飴玉を口に入れて幸せそうな顔をするこの死神はルセネ。フードを被っていて人見知りな死神だ。性格は女。背はメアより少し高いくらいだ。鎌をいつも持ち歩いていて、幽霊と話すのが好きらしい。
「ベーナ、これ冷蔵庫に入れとくから昼飯作ってくれ」
「了解~」
「それとゴルゼ!肉を散らかすな」
「いいだろエルス、それくらいよぉ~」
「片付けろ。今すぐにだ」
俺はゴルゼを睨めつける。
「ったく」
「あとメア!口の周りにチョコ付いてるし俺の服に付くから離れろ」
「ぷぅ~、いいじゃん別に~」
そう言いながらメアは離れた。
俺は巨大な冷蔵庫に食料を入れてソファーに座った。
なぜ勇者の俺がこんな敵を従えてるかというと遡ること半年前、俺は魔王討伐に向かった。その道中で会ったのがメア、デルモ、ベーナ、ルフェルだ。俺は正々堂々とこいつらを聖剣で倒した。そうして魔王のゴルゼも倒した。そのあと俺はこいつらに人間に危害を与えないように強固な契約をして仲間、いや友達になった。
それと俺がこいつらを従えてるのは契約を結んでいるのもあるがもう一つある。それは俺とこいつらの絶対的な力の格差だ。言ってしまえば俺はチート級の力がある。
俺はこいつらを余裕でボコボコにした。それで命乞いをされ契約し、今に至るわけだ。
人間に命乞いをするってこいつらのプライドはちょろすぎだ。デルモも最初は拒否していたがさすがに死ぬのは嫌だったらしい。俺がとどめを刺そうとすると引き下がった。
仲間になって欲しいところではあるが皆それぞれ自由に行動している。飯の時以外は。なので友達ということにしている。
敵もこうなってしまえば可愛いものだ。こいつらにはできるだけ人間に近い姿にしろと言って皆魔法で人とほぼ同じ姿にした。だが顔や皮膚が異様なところがある。
ベーナは一応人間だし、メアとルフェルも元々人間に近い体なので違和感はないが、ゴルゼは肌の色も顔も変だし、デルモは人間っぽいが所々体が尖っている。
まぁこいつらももう人間に危害は加えないし友達的にはやっていけそうだ。
「できたわよ~」
しばらくしてベーナが昼ご飯のスパゲッティーを作ってテーブルに置いた。
「肉だぁ!」
「うるせーよ!黙って食うぞ」
ルフェルがゴルゼに怒鳴る。いつものことだ。
「いただきまーす」
デルモとメア以外は椅子に座りスパゲッティーを食べる。
「俺食べたら町の近くに住み込んだドラゴンを追い払ってくるから」
「どんなドラゴンなんだぁ?」
「多分リムドブルムだろうな」
よく見かけるドラゴンだ。
「そうかぁ。俺様は食べたら寝るから起こすんじゃねーぞ」
「誰もお前なんか起こさねーよ。オレは適当に外で遊んでるわ」
「ぼ、僕は墓場に行ってくるよ」
「私はまたこもって研究かしら」
「デルモとメアはどうするんだ?」
「俺は悪魔界に行ってくる」
「私はエルスについていきたいけどベーナのお手伝いしてる~」
「そうか」
俺たちはスパゲッティーを食べ終わりベーナが片付けをする。
「じゃあ俺は行ってくるからな~」
「あっ、エルス。ついでにドラゴンの鱗を4、いや5枚と、あと適当に蛙を一匹捕まえてきて~。念のため解毒剤も買ってきて」
「お前は一体何を作ろうとしてるんだ」
「メアちゃんの惚れ薬」
「ちょっとベーナ!」
「言っちゃいけなかったんだっけ?ごめんね~」
「なるほどな。チョコが欲しいって言ってたのは惚れ薬の材料か」
「そうよ!私が噛んだチョコが必要だったから全部食べるの我慢したのに~!」
「残念だったな。じゃあ行ってくる」
俺は山を下りて町に向かった。
「はぁ~、町の人の手伝いもしてたらもう夜になっちまった。勇者も疲れるな~」
こうして暗い山を歩いていると勇者になる前のことを思い出す。
幼いころの俺は弱かった。夕方、山にある親の畑が魔物に荒らされてるのを見つけてなんとか追い払おうとしたが、勝てるはずもなく返り討ちにされた。その時は父が駆けつけて助けてくれた。
その次の日から俺は強くなりたいと思い、少し遠くの巨大樹の森へ毎日行き木剣で木を斬ろうとした。誰かを守るためには強くないといけない。そう思いながら木を斬ろうとしていた数年後のとある日。俺は木剣だけで巨大樹を斬った。もちろん木剣も砕け散ったが、その時俺はもっと強くなれると思った。そのおかげで今はチート級の力を持っている。
「今思うと木剣で巨大樹を斬ろうなんてバカなことしようと思ったな~。でも今となれば」
俺は足元にあった少し太い木の枝を取って近くの木のほうに向けて振った。すると物凄い風と共に木は綺麗に斬れ、倒れた。
「こんな木の枝で衝撃波を出せるようになったもんな~」
俺は木の枝を道の横に投げて家に向かった。
「ただいま~。って誰もいないのか」
「僕がいるよ」
「うわっ!ビックリした」
いつの間にかルセネが隣にいた。
「お前影薄いし格好が怖いんだよ」
「ご、ごめん」
「悪気はないからいいけどよ。みんなは?」
「ベーナさんとメアさんは上、ゴルゼさんは下で寝てる。あとの3人はまだどこかに」
「いつもどうりだな」
二階に上がるとベーナとメアが真剣に何かを作っている。邪魔するのも悪いので降りようとすると
「わぁ!」
「うおっ!」
目の前にメアがいて俺はしりもちをついた。
「ねぇビックリした?ビックリした?」
メアが嬉しそうに俺の顔を覗く。
「ああビックリしたよ!」
今日は何回ビックリするんだ。
「にっひひ~。これ飲んでみて~」
メアの手にはドロッとした茶色い液体が入った試験管がある。
「なんだこれ?」
「私が食べたチョコレートが入ってる惚れ薬」
「誰が飲むかよ!てか惚れ薬作るの諦めたんじゃねーのか」
「諦めるわけないじゃ~ん。なんとか他の材料で作ったの。エルスは私の物なんだから」
「エルス帰ってたのね。今ご飯作るから」
ベーナが気づいて一階に降りていった。
「とりあえず飲まないからな。わかったらベーナの手伝いしてこい」
「は~い」
俺も手を洗いベーナの手伝いをする。メアに惚れ薬を混ぜられないように監視しながら。ルセネも暇なので手伝った。
「これで完成か?」
いつも人数が多いので大量に作っている。
「ええ。机に運んで」
「美味しそうだね」
「早く食べようよ~」
「でもみんないないし」
すると玄関が開きルフェルが帰ってきた。
「たっだいま~。お、ちょうどじゃん」
「おかえりルフェル。あとは」
「戻ったぞ」
デルモがいつの間にか家に戻っていた。
「あとはあとバカだが」
「肉の匂いぃ~!」
ゴルゼが地下から上がってきた。
「お前は肉しか興味ねーのか」
「でもみんな揃ったし」
皆ソファーに座った。
『いただきまーす』
メア以外は酒を注ぎ飲む。
「っぱぁ~。やっぱ酒は最高だぜ!おらエルス!オレにもっと酒を持ってこい!」
「それより肉だぁ~!」
「そんなに焦らないの。まだまだあるから」
「この酒は中々美味いな。やはり人間も捨てたものではない」
「デルモさん、このお酒はこのおつまみが合いますよ」
「ねぇエルス~、私もお酒飲みたーい」
まったく、なんでこんなやつらと友達になったんだろうな。金もかかるし変なやつらばっかり。でも
「よし、お前ら!肉でも酒でも食べて飲んで食べまくれぇ!」
『おぉ~!』
最高に楽しい友達だ。今夜はぱぁ~っとはじけるか。
明日はどんな楽しいことが待ち受けているのか。