けじめの戦いその一
「よく帰ったな」
宿に着くとヤグラさんが出迎えてくれた。清掃は終わったらしい。
「まるで会うのを知ってたようですね」
「そりゃな。おめぇは直接行かんだろうが、あっちは町の長。うろちょろするおめぇをほっとけねぇだろ?」
「やるつもりか」
サクラダも奥から出て来た。よく無事でいたな。
「勿論ですよ。このままにしても不幸にはなっても幸せからは程遠い。どうせ続く不幸なら今終わらせても良いじゃないですか」
その言葉にサクラダもヤグラさんも小さく笑った。なんでさ。
「おめぇみてっとショウを思い出すよ。あれもジレンマを抱えてたけど、自分の信じる物があってそれが譲れないから戦い続けた。例え相手が拒んでも、な。その傲慢が正しいかどうかは後の世にしか分からねぇ」
「歴史家の評価を気にして不幸に浸る気は無いですよ。僕は僕の生きたように生きる為にここに居る」
そう、今は何でか知らないけどこの世界に来てチート能力も貰って、別の星で色々経験して戻ってきて。その代わり星の意思に会えっていうお願いをされてるけど、行き方まで指示されてないから僕の生きたいように生きて辿り着く。そうあの人を見て決めた。その覚悟無しにあの人と渡り合えない。
「なんじゃ接吻したくらいで急に偉そうになりおって!」
「そ、それは関係ないっす!」
ヤグラさんにそう言われてラティを見ると俯いてるし、そう言えば手を握っていたのでゆっくりと離し天井を見る。
「まぁええ。覚悟してるなら先にやるべきものがある」
「な、なんです?」
「おらたちを倒していけ」
またイジられるのかと思ったら、ヤグラさんもサクラダも真剣だった。そりゃそうなるか。自分たちも方法は違えどこの町を救おうとしている。僕のやろうとしている方法は認められないけど、それしかないかもしれないとも思っている。
「分かりました」
二人の本気を受けて立ち破ってこそあの人とも渡り合えるだろう。避けられない勝負だ。それから僕らは町の外れの空き地に移動した。草木も無く邪魔な物は何もない。
「先ずは先輩の俺からだ」
「得物は?」
サクラダは皮の軽鎧と鉢巻きくらいしか目立った装備は無い。ボウガン壊したけど予備は無いんだろうか。
「鬼を見て爺さんを見てれば分かるだろ? 元々そうじゃない」
なるほど、ボウガンは都合で持ってただけで本来の得物は自分の体。
「道理で僕が勝てた訳だ。手加減するなんて人が悪い」
「すまねぇな。格下だと思って甘く見てた。今までの借りを返してやる」
中腰になり右拳を突き出し構えた。僕もそれに合わせて構える。ゆっくりと間合いを詰める。互いの領域が接触した瞬間、右拳を引いて左拳を突き出す。
「おぉ」
つい感嘆の声を上げてしまう。サクラダの今までの行動とは違い、居合い抜きのように突き出した拳とは逆の拳を高速で突き出して僕の拳に当てる。牽制で出したので僕の拳は弾かれる。残った右拳を突き出して来たのを半身になって避けて手首と肘の辺りを掴み、投げに入る。叩きつける前に僕の背中を台にするように蹴って前へ飛び、その勢いと手を小さく素早く震わせて僕の掴みを解いた。
「何とまぁ互いにやるもんじゃの!」
ヤグラさん大喜びである。こっちからしたら嫌な話だ。本当に格下で甘く見てたのを理解せざるを得ない。あんな抜け出し方があるなんて。それも咄嗟に。
「御前やっぱおかしいぞ」
「そっちこそ」
今度は互いに様子見せず突っ込んで間合いを潰す。サクラダの右の居合い拳の一撃を避け懐に入り込むと、膝蹴りが飛んで来た。予想していた手なので右腕を潜る様に避けて後ろを取ろうとするも、素早く切り替えされ距離を取られる。待ちを徹底するのかと思いきや攻めても来た。流石シルバーランク。
「嬉しそうな顔をするなよ先輩に対して」
「すいませんつい」
そういうサクラダも笑っている。ただ喜んでばかりも居られない。倒さなければならないんだから。あの居合い拳は勿論一級品でチート能力と別の星での経験が無ければ顔に何度も入ってた。だけど本命はあれじゃない。ちょっとずるい気もするけど、ヤグラさんに稽古を少し付けてもらったから分かる。そして頭首のあの感じ。全ては崩す為。投げ抜けなんて朝飯前だろう。
小さい頃から叩き込まれたものを捨てられないはずだ。投げで決めに来る。
「どうぞ」
「ふざけるな!」
左腕を差し出し挑発した。それに対して直ぐに間合いを詰めて僕の腕を取る。やっぱり投げか。
「お兄様!」
背を向けて投げる態勢に入っていたサクラダ。ラティの声と同時くらいに肘が僕の鳩尾へ向けて動いたのを見た。手で遮るのは間に合わないので体を急いでくっ付けて威力を殺しつつ、膝蹴りを右臀部に当てつつ左足を曲げてまたに入ろうとしたサクラダの左足をブロックする。
「さぁっ!」
僕は中腰より深くしゃがみ、あいている右手でサクラダを抱え、左方向へ捻り一緒に倒れ込む。
「それまでじゃ」
「なんで!」
サクラダに右腕は封じられているけど倒れた時に素早く両足でサクラダの足首を押さえている。
「その態勢でどうする? 恐らくにーちゃんはあいた右でおめぇの脇腹を叩き続ける。おめぇが与えたダメージを負ってて威力が少し弱くなっても長時間やられればしめぇだ。……この負けはおらにも責任がある。投げを教えちまった。にーちゃんの身体能力をもってすれば、読んで先回りも可能だろう。知らなかったらもう少し出来たろうがな」
ヤグラさんの言葉を聴いて僕は拘束を解き立ち上がる。




