星降りの町その一
「取りあえず交代で睡眠を取ろう。この先まともに寝れるかどうか」
僕の提案にラティも頷き、ラティが先に寝た。森の中はそれ以降はとても静かでとても暇だった。なので僕は師匠との鍛錬を木を相手に復習して時間を過ごす。イメージトレーニングの相手は勿論師匠だ。だけどまだ欠片も本気を出してない師匠なので、どうしても完全に頭の中で僕が対応できるレベルに自動的になってしまう。一度で良いからみたいなぁ師匠の本気。でも見たら死にそうだけど。
暫く木を師匠に見立てて鍛錬の復習をしていると、気分的なものなのか研ぎ澄まされた時、二刀を持った人物が浮かんで来た。師匠と同じように攻めるもあっさり僕の首筋に剣が置かれる。まるで優しく手を置くようにスッと。死合であれば首は飛んでる。冷や汗を拭いつつ、結局明け方まで鍛錬をしてしまった。当然のように一発も当てられず終了、仮眠を取って僕らは町へと行く。
「これ紹介状です」
森を抜け草原を抜けると高い塀が見えた。近付くと入り口では検問が行われていて、衛兵に紹介状を渡す。すると怪訝な顔をして雑に紹介状を返された挙句、顎でさっさと行けとやられた。随分と歓迎されてるなぁ。
「ギルドが嫌いなんでしょうかね」
「どうかね。……っとここがギルド?」
地図を見てギルドまで行くと、そこは小さな一軒やで飲み屋も併設してた。うちと比べると小さいものの、人は多い。ただどうも飲んだくれてる人が多そうだ。
「こんにちわー」
カウンターに挨拶しに行くと、金髪の強い癖毛にそばかす目付きの鋭い女性が肘を吐いて居た。挨拶にも視線を向けるだけだったので紹介状を出したけど一瞥した後差し戻された。
「あのー」
「うちは平穏そのものよ。デラウンの冒険者ギルドにはそう伝えて頂戴」
面倒だと言わんばかりに溜め息を吐かれた後、そう言って僕らを犬でも追い払うように手を振った。ラティに袖を引かれたのでそれ以上は何も言わずに立ち去った。
「なんだろうね、あからさまに可笑しい」
「聞いていたのとまるで違いますわね。冬になり山が普通の人の行き来を禁じているとは言え。観光でも稼いでいると言うのは嘘だったんでしょうか」
嘘ではないのは商店街や軒先を見ればわかる。御土産屋に宿屋にものぼりがある。そりゃそうだデラウンにはそんなのは無いけど、あれば観光名所として呼び込んで経済効果を期待したいところだろうし、していたはずだ。
「この分だと休める場所もなさそうだなぁ」
「聞いてみましょう?」
ラティと共に宿屋を当たるけど、断られ続ける。ただしあのギルドの人とは違って、今は人を泊めてご飯を出す余裕が無い様だ。デラウンと違い迂回して荷物を入れるルートが今年は雪が多く降って潰されてしまい、現在その場所を雪解け後の対策の為に町の人間が工事に借り出され人でも不足しているようだ。素泊まりで良いとは言ったんだけど、宿としてのプライドが許さないらしい。
「お金出すのになぁ」
「そういう問題ではない、という話なんでしょうね面倒ですけど」
最後に残った少し年季の入った宿に入る。内装もそのものだけど、何だか草津とかの老舗を思い出すような感じの宿で僕は気に入ってしまった。
「なんだい?」
ごめんくださいと声を出すと、奥から着物を着て少し腰が曲がっているお婆さんが出てきた。白髪は綺麗に整えられて頭の上でお団子にしかんざしのような物を挿している。綺麗な皺の御婆さんは特に意地悪そうにも、こちらを怪訝な感じで見ても居ない。
「あのー泊まりたいんですが」
「泊まるのは良いけんどもよ、飯が出せないしババアとジジイしか今は居れないもんでよ、世話できねぇけんどもよ、それでも良いかい?」
僕とラティは顔を見合わせて笑顔になる。十件断られた末のオッケーだからとても嬉しい。当然構わないと伝えて二階に案内される。




