雪山を越えて
「これはあまり長居せずに直ぐ旅立った方が良さそうですわね」
セオリのほっぺたを引っ張っては離しを繰り返し後頭部を叩いて気が済んだのか、椅子に座って一気にお茶を飲むと席を立った。僕もそれに合わせて一気に飲み干し席を立ちカウンターに移動する。
「待ってよ! ……あっつ!」
「早くしなさい! 置いていきますわよ!?」
何だかラティもリュクスさんルートに陥る気がしてならない。セオリ、恐るべし……。
「耳に入ったと思うけど一応ね、これはシルバーへの昇格試験よ。仮試験は町に行くまで。町の名はネルトリゲル。町への行き方を書いた紙と地図、紹介状はこれね。向こうに早馬で出してるから無くしても入れるけど無くさない様に。行く時は裏から出なさい。気をつけてね」
ミレーユさんは顔を近付け早口で説明してくれた。僕はドキッとしつつも頷き紹介状たちを掴んで裏口へ回る。
「お兄様待ってください!」
通路で足踏みしつつ待っていると、直ぐにセオリの手を引いて来た。
「地図を見せてくださいまし」
地図を渡して三人で見る。ここから東にへ一直線のようだ。途中鉱山の休憩所もあるから、道はまだマシな方ではあると思うけど、この時期の雪山越えとなると中々骨が折れそうだ。
「野宿の用意をしなくてはいけませんわね。セオリはお兄さんのところに戻って待っていなさい? 特に冬の山に体力皆無の貴女を連れてはいけませんわ」
そうラティに言われてセオリは腕を組んで天井を見上げ唸る。
「ていうかさ、これ普通に行くならこの道を通るんでしょ? 山を迂回して行けばいいじゃん」
「……貴女聞いてませんわね話。これは仮試験なんですよの? ズルして良い訳がありませんわ」
「ルートってそれじゃなきゃいけないの?」
僕は行き方の紙を見る。そこにはルートはこれに限らず、と書いてある……良いのか? そんなんで。
「ルートは別にこれでなくても良いらしい。ただ迂回だから時間掛かるんじゃないの?」
「ようは荒れ地から砂漠、森を抜けて行けば良いんじゃない? 砂漠には途中に町があるし」
砂漠の町と聞いて僕らはバツが悪くなる。放置したまま出てきちゃったから寄れるはずも無い。
「残念ながら雪山ですわね」
「えー!?」
「だから貴女は実家にお帰りなさい? 野宿も野宿、下手をすると氷付けの死体と枕を並べるんですからねぇ」
悪い顔してニヤリと笑うラティ。セオリは今度は僕の陰に隠れる。
「いや嘘とは言えないんだよなぁこればっかりは。だから安全を考えてお兄さんところに行っててよ。お土産も買ってくるし、雪が解けたらまた行こう? ね?」
そうやさしく説得すると、暫く考えた後しょんぼりしながら頷いた。その後セオリを屯所へ預け、僕らは裏手を回って家に入りリュックに荷物を詰める。非常用のストックの食料や固形燃料それにテントや毛布など、大荷物だ。
「行きましょうお兄様」
準備が終わりそのまま僕らはベッドで寝て明けるか明けないか、空が薄ら明るく見えるくらいの時間に起きて軽食を取りつつ家を出る。裏手裏手と移動し、更に地下道も使って町の東の関所に辿り着く。
「お疲れ様です!」
「おぉ康久君か。話は隊長からもギルド長からも聞いているよ! 今日は見ての通り晴れているが雪崩には気を付けてくれ。後雪山とは言え敵が居ないとは言えないから気をつけるように」
警備兵の人たちとも顔見知りになっているので、関所も問題なくパスし雪山へと入る。暫くは雪と樹が合わさった良い感じの景色だったけど、標高が高くなってくると段々樹は低くなり草も疎らになっていく。
「こんなところで戦いたくはありませんわね」
「ホントにね……」
二人ともそうは思っていたけど口にはずっと出さずに居た。けど頂上まで日が真上に来るまでに来れたので安心してラティの口から出てしまった。これはフラグ立ったんじゃね? と思うけど口にはしない。本当にそうなるのは嫌だから。




