夜の闇に呑まれて
――スキル・限界突破が追加されました――
――スキル・極限が追加されました――
――スキル・八極が追加されました――
うるさいうるさいうるさい! 僕は感情の無いヴェルダンディの声がシステムメッセージのように頭の中に流れて来て発狂しそうになる。どこまで人を馬鹿にすれば気が済むんだ!
「くそぉあああああ!」
僕は叫んだ。今までで一番大きな叫びだと思う。生まれた時の泣き声よりももっと大きな声で叫びながら黒鎧に襲い掛かる。
「ぐぁ!」
黒鎧の大剣使いは僕の押しに負けたのか、馬ごと吹き飛ばされる。チャンスだ! 馬に足を挟まれている!
「でやぁああああああああああああ!」
叫びながら倒れている所まで走りそして近くまで来ると僕は飛び上がる。これでとどめだ! お爺さん仇を討てるよ! 顔が引きつるくらい頬骨と口角は上り心から笑みを浮かべながらトゥーハンドソードを振り下ろす。
その時、突然前方から地面を舐めるように突風が飛んできて斬りかかる僕を無情にも押し戻し、勢いが殺されそのまま地面へと落ちる。
何もない砂漠に下から舞い上がってくる突風って何なんだ!? またあのサディストの嫌がらせか!?
「ウヴォァアアアアアアアアア!」
またしても耳をつんざくような咆哮が空気まで揺さぶる。この砂漠なんなんだ……凄い生き物大集合会場なのか!?
何か大きな影がこっちに向かって飛んできてる。僕は取り敢えず距離を取った方が良いと判断し後ずさる。
「クソッ!」
通り過ぎる途中で声が聞こえたので視線を向けるとさっきまで命と引き換えにしてでも仇を討とうと考えて斬りかかった黒鎧の大剣使いがまだ馬に足を挟まれていた。
お爺さんを殺したコイツをこっちに飛んでくる奴の餌にしたらどんなに良いだろうかと考えずには居られない。
「殺すなら殺すがいい」
身動き取れない状態で偉そうに言ってるけど僕が殺せないと思って煽っているのか。覚悟を示せというのなら……僕は黒鎧の大剣使いに向かってトゥーハンドソードを構える。
言葉とは裏腹に黒鎧はもがいて出ようとし始め馬も起き上がろうとしていたが全く動けないようだった。
惨めだ……なんて惨めなんだ。他者の命をあっさり奪っておきながら自分がいざ奪われる側になるとこんなにももがいて死から逃れようとしている。命乞いまでしてくれたら容赦なく振り下ろせるのに。
僕は馬の体の下にトゥーハンドソードを差し込むと、剣の腹を馬に当て梃子の原理で浮かせようとする。砂漠だから大きくは持ち上げられないけど少し隙間を作れば出れるはずだ。
何とかしようと頑張るも砂で梃子の原理は難しいかと思いつつ悪戦苦闘しながら例の影を見ながら僕を見る黒鎧を見ると、こんな奴は殺す価値すらないな、とそう思ってしまった。
あんなにさっきまで殺意を抱いていたのに、あまりに惨めな様を見てコイツも生きる為に必死なんだなと冷めてしまった。
こんなのは放っておいて今は飛んできた何かをどうにかしないと。扇風機の強を顔の前で浴びたような風が何度も前から吹いてくる。
そしてズズン、という音と振動がこっちに伝わってくる。
うわぁ……めっちゃ翼広げてる……。なんていうか竜そのもので竜以外何者でもない。体もでかく距離があるのに山にしか見えない。あれをどうやって倒すのか。
「早くしろ!」
「担げ!」
僕が何とか浮かせた黒鎧を今まで遠くで傍観していた黒鎧の仲間が引き摺り出す。そして奴らは黒鎧を他の馬に乗せるとそのまま逃げていく。
何だろうあんな立派な鎧や武器を持ってるのに凄まじくカッコ悪い。もう次会っても顔も思い出さないだろう。呆れ果てつつデカい竜と向かう。
僕も逃げたいんだけどなんかもう良いかって感じ。馬鹿馬鹿しい。どんなに偉そうにしてもカッコつけても豪華な鎧着ても結局はそれ以上の脅威にあった時、恥も何も無く自分が生き延びる為に逃げるんだ。どこまで行っても何をやっても結局はそうなる。
お爺さんは何の為に殺されたんだろうか……。
僕は自分の手に握っていたトゥーハンドソードが消えているのに気付く。
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