引っ越し
「あ、あの……」
暫く後ろの二人の取っ組み合いと言い合いに辟易してイライラして全く冷静になれず、気付けば日暮れまで空を見上げてしまった。
「す、すいません今すぐどきますんで……って、あ!」
声の方向を苦笑いしながら謝罪しつつ振り替えると、そこには五十代くらいの髭を生やしたイケメンオジサンがいた。家の建築をお願いしていたアンガスさんだ。
「お久しぶりです。大分時間が掛かってしまい申し訳ない」
まさに天の助け神の恵みか! ここでアンガスさんが来てくれたとなると……。
「完成したんですね!?」
僕の問いに微笑みながら口髭を触りつつ頷くアンガスさん。マジでなんて良いタイミングなんだ! 僕は狂喜して歓声を上げつつ取っ組み合うラティとセオリを引き離し、二人を高い高いしておろし抱きしめ、その後万歳した。
「荒くれさんたちも御久しぶりです!」
アンガスさんの後ろに居た荒くれさんたちにも手を伸ばし握手した後抱きしめ感謝を伝える。
「いやぁ皆さん本当に良く来てくれました!」
「ミレーユさんから追い出されたって聞いてね。我々も今日急ピッチで完成させた。早速引っ越しできるぞ」
「じゃあ運びます!」
「俺たちも手伝うぜ大将!」
荒くれさんたち、そして家を建てるのに協力してくれた冒険者の人たちも一緒に僕たちの荷物を、家が建っている場所まで運んでくれた。町が用意してくれた高位ランク者が住む住宅街。これから人が増えれば塀を広げたりして拡張していくようだ。作業をしている人が沢山通り過ぎて行く。
「冬のうちは俺らみたいのにはここでの仕事は本当に助かるんだ。大将の御蔭で冬は少し豪華に暮らせそうだぜ」
荒くれさんと一緒に荷物を運ぶ時そう言われた。こうやって経済って回ってるんだなって実感出来るとは思っても見なかった。
「これ、この膝当ても大将が前に倒した砂漠ミミズの皮をなめして作られたもんなんだ。御蔭で膝も痛めず作業出来たよ」
何だかこそばゆくて後頭部を掻く。こんな風に討伐をして素材が生かされてるのを初めて見る。誰かの役に立つのはやっぱり嬉しいもんだなぁ。セオリもそれを直に伝われば変われる気がする。僕だってこうやって変われたんだし。
「いえーい! ここ私の部屋! 研究室!」
「ふざけるんじゃないわよ!」
姉とか妹とか居ないけど、姉妹の喧嘩ってあんなに女性の総合格闘技みたいなんだろうか。
「取りあえず最新式の立て方で立てた。はっきり言うが、山が崩れる地震でもなければ壊れないし、火事以外では復元しやすいような仕組みにもしてある」
火事が今のところ一番怖いんだけどな……。
「鉄を余裕を持って使うには今の時期厳しいが、季節が変われば鉱山も活発化するしその時に特別室を依頼してもらえれば作れるよ」
「ありがとうございます。多分依頼します」
「後床の張替とか壁とかそういうのがあったら俺たちに言ってくれよな!」
「荒くれさんたちを指名してお願いするよ。取り合えず荷物を置いたらギルドにご飯を皆で食べに行こう!」
歓声が上がり荷物の入れ込みがあっと言う間に終わる。そしてギルドでギルド長やミレーユさん、休みの警備兵の皆も集まって朝までお祭り騒ぎ。その後うちで皆雑魚寝して次の日目を覚ました後、ギルド長による杮落としの祈願が行われた。神主さんみたいな服装をして、白い笹のような植物を手に振り盛り塩を玄関において皆で一礼。一本締めの後解散となった。
「さぁ頑張って稼ぎますわよ」
「そうですね……」
残金を確認するとびっくりするほど無い。勿論暫くの食費や食料の蓄え、ギルドへの先払いもしてあるのでまだ大丈夫だけど余裕ではない。
「まぁまぁ頑張りましょうよ、ね?」
へらへらしながらラティの肩を掴みそういうセオリ。いつものが始まり僕はスルーしつつ、銀行に預けている額を見る。今までこんなの見なかったけど、暮らすって大変なんだな……爺さんや婆ちゃんはホントよく僕を育ててくれたよ……聖人なのかと疑うレベルだ。




