セールスでも引き継ぎは大事
「ちょ、ちょっと!」
のんびりと食事をしてデザートを食べていると、脇を通った人が急に僕らのデザートを引っ掴んで貪り食べた。フルーツやお菓子とかこの後出掛けるので多めに置いていて、余った分を包もうと思っていたのに全部食べられた……なんだこの人はと思ってその人物の顔を見ようと視線を向けると、朝僕がギルド前で拾った行き倒れの人に見える。
「あー! 美味しかった!」
「あー! 美味しかった! じゃありませんわよ……! 他人の食料を勝手に食べるなんて。この時期に食べ物は高価なんですのよ……!?」
ラティは目を据わらせ声を低くして相手に対し怒りを露にする。その人物は眼鏡をくいっと持ち上げ
「ケチ臭いですね新進気鋭の冒険者なのに。儲かってるんでしょう?」
煽る行き倒れの人。立ち上がり引っ叩こうとするラティを抑える。僕らは冒険者だから依頼が無かったり依頼を達成出来なかったらその日は一銭も入らない。そう言う日も当然ある訳で。しかも冬だから食べ物の値段は春夏秋に比べて高くなってる。ビニールハウスも無いから備蓄から市場に出回る分、そして今は一つだけになった輸送ルートから入ってくる分しかないので自然と価格も値上がりしている状態だ。
「あのーもうどっか行って貰って良いですか?」
苦笑いしながらそう告げるも、視線が天井を向いたまま黙っている。何なんだこの人は。
「ああそう言えば私貴方達を呼びに来たんだった」
「帰れ!」
掌を叩き思い出したように抑揚も無く言う行き倒れの人に、ラティは食い気味で怒鳴る。ああもうめちゃくちゃだよ。
「よく分からないけど帰って? 呼んでないからこっちは」
「あー、えーっとそう言う訳にはいかないんすよね。隊長に行けって言われて」
半笑いで言う行き倒れ。最早喧嘩売ってるだろ。
「良いから帰れ!」
「ちょっと貴方達!」
終いにはミレーユさんがギルド職員の人たちとこちらに来て行き倒れを回収してくれた。
「ああ……私の楽しみにしてたお菓子とデザートが……」
ここ最近厳しい仕事が多いし流通も鈍化しているので、楽しみと言えばお菓子とデザート。マダムのところにも顔を出したりするけど、それでもしょっちゅうお邪魔しては迷惑を掛けるので我慢していたりするラティ。それを思うと激怒してもしょうがないと思う。というかよく堪えてくれた。
「あ、あの~」
あれから気分を変えようと放牧地のマオルさんの家で新鮮なホットミルクを飲みに来た。好物のビスケットも持参して、マオルさんたちとお茶をしていると不味いのが来た。白銀の装飾の凝ったプレートアーマーが身を縮めてすまなそうに僕らの前に来た。
当然のようにラティは無視。僕はどうしたものかと考えてしまった。あまり向こうの肩を持つのは出来ない。ラティは相棒だから当然ラティの方が大事だし優先すべきだと思っているからだ。
「おぉおぉ警備隊長どうしたこんな山奥まで」
「座ってくださいな。お茶お入れしますわ」
「いえ、自分はこのままで」
マオルさん夫妻の言葉にも恐縮しっぱなしのリュクスさん。当然ラティの機嫌も悪いまま。ただこのままだと話も進まないし、僕としてはリュクスさんは話の分かる人だし仲良くもしたい。
「リュクスさん、あの人は一体」
少し間を空けて僕はリュクスさんに尋ねると、すいませんでした! と大声で言いながら頭を下げた。
「本当に申し訳ない……何というか全てにおいて私の不徳の致す所というより他無い! 君たちにお願いする立場でありながら、有り得ない無礼。あれにも厳しく言って聞かせた……つもりだ」
最後の方めっちゃ心許無い感じで消え去りそうに言ったリュクスさん。あの行き倒れの人誰なんだろう。
「御身内さんですか?」
「ああ、ああそうなんだ。どこでどう間違えたのか不肖の妹で……思うまま育ってきた所為か、礼儀作法を何処かに何故か置き忘れてしまい」
「あらあら。名家のお嬢様でしたのねあの無礼な方。マダムとは大違いですわ」
ラティがそう言うと、リュクスさんは更に恐縮して小さくなっていく。マダムとも何か関係があるのだろうか。




