現れた敵
徐々に近付いてきたのは黒い馬に乗り黒を基調としたごつごつした鎧や軽そうな鎧を着込んだ集団だった。こちらには気付いていないようである程度近付くと馬を止めた。
「なんだ雑魚か」
黒いつるっとした軽そうな鎧を着た人がそう吐き捨てた。背中には弓を背負っている。目が釣り上がっていて怖そうだ。
「こんなのはどうでもいい。ここに居た奴はどこにいる」
黒いごつごつした鎧を着た短髪緑髪で顔のごつい人がそう言いながら周りを見渡した。背中には鎧に合わせたごつい斧を背負っていた。
「本題はそれだ。こんなものはどうでもいい」
五人の真ん中に居た人がそう言う。馬に乗っているのに地面に付きそうなほど長い大剣を下げ、鎧もきめ細かい装飾がされていて一目で偉い人なんだと解る。
ただ頭も鎧をつけていて、フェイスマスクのように顔が見えない感じになっていた。
「そうですな。それを見つけましょう。残飯漁りなどそこの村の連中にでもやらせればよい……ですが高めのものだけ後で抜いていきましょう。」
背中に大きめな盾と穂先が十字になった長い槍を背負った黒髪で長髪細面の人がそう促した。僕は目的が僕なのかもしれないと思いそれを聞いて出て行こうとしたけどお爺さんに止められた。
「おい、おらに何か用か?」
お爺さんは僕を止めた後直ぐにあの人たちに姿を晒した。
「……なんだまたてめぇか」
弓を担いだ奴が直ぐに弓を背中から取り、構えた。
「止めろ。こんなじじい狩ってどうするんだ」
「そうです。見たところ目ぼしい物も持ってないようですしね」
しゃべっていた三人を手で止める真ん中の人。そのままお爺さんに近付いてくる。
「ここに誰かいたか?」
「いねぇなぁ。食われちまった」
「嘘はためにならんぞ」
「てかなんでここにそんなのが居るって思ったんだ?」
「貴様に答える義理は無い……のだが良かろう。教えてやる。今日ここに現れる者が役に立つと聞いて来たのだ」
どういう事だ……? 僕がここに来る事を知っている人が居た? それに役に立つって何だ?
「誰に聞いたんだ?」
「貴様が知る必要のない方にだ」
「そっか別に良いけんどもよ、兎に角居ねぇんだから残念だったな」
「嘘を吐いて何の得がある?」
「何?」
僕の後ろに何か居る、と思って振り返る。そこに居たのは端のほうに並んで武器を何も持っていなさそうだった人だった。頭にターバン、顔に仮面をつけていて表情や性別がわからない。
「下らん真似を」
「やめれ!」
お爺さんの声に前を向くと、お爺さんは武器を近付いてきていた鎧の人へ向けて構えた。
「馬鹿止めろじじい!」
意外にも制止する為に怒鳴ったのは弓を構えた目つきの悪い人だった。その声に驚いて視線を向ける間に近付いてきていた鎧の人は瞬きをする間もなく背中の大剣を引き抜き振り下ろしていた。
他の人は急いで制止しようと動いていた。僕の後ろに居た人も僕を突き飛ばしてお爺さんを引いて下がらせようとしていた。
「私に剣を向けるなど」
砂煙が上がって視界が優れない。それでも解る。影が。大剣は地面からゆっくり上がる。その跡には二つに割れた影。
僕は恐怖よりも涙がこぼれお腹の底から湧き上がってくるものが徐々に僕の前身と頭を塗りたくって行く。それはただの怒りではない。ヴェルダンディを殴りたいその気持ちとも違う。
そう……僕はアイツを殺したい。
「待て!」
小さな声で僕の前に立ち塞がる影がある。だけどそんなものは僕には関係ない。アイツを殺す。
「うぉおおおおあああああああああ!」
出した事もないような声を上げながら僕は大剣を両手で握りしめ立ち塞がる影を右から回り込んで避けながら馬に乗る影へ向けて切りかかる。
「愚かな」
そう絶対馬鹿なんだよなぁ……さっきまで何も出来なかった癖にべそ掻いてた癖に……! でも、優しくしてくれたんだあのお爺さん。何かしなきゃ、何もしないまま居られない。
剣の腹同士がぶつかり合う。だけど僕は引かない押し返す! 僕を吹き飛ばそうと相手の大剣が力を入れて押し返してくる。
だが負けられない、このままやられたら吹き飛ばされて死ぬ。せめてコイツをぶった切る!
「なるほど……やはり貴様か」
相手はそう呟いて納得したようだけど力をゆるめたりしない。それどころか更に力を入れてきた。
負けられないんだよ! 僕は!
「仕方あるまい。私に剣を向けた。この私にだ。それは死なせてくれと懇願する者以外あり得ない。貴様の切っ先は私の過去を刺激した。それだけで十分死に値した!」
凄い早口で最後の方は怒鳴りながら言っていた。剣が少し離れたと思った次の瞬間更に強い力で当てられる。一瞬怯んだけど負けられない! と気合を入れて押し返す。
「なんだ貴様は……なんなんだ!」
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