それから
「どうやらそっちは片付いたようだな」
「随分と呑気ですね」
「お前程じゃないさ」
後ろの方を指さされたが見る気はない、と言うか見るまでも無いので今は目の前の問題を片付けなければならない。僕は直ぐに変身し相手に合わせる。だが、前までと違い死ぬ苦しみを経なくとも変身出来てしまい驚く。
そこで改めて全て終わったんだな、と感じた。もうネットもコンビニも、あの体に悪そうなお菓子や飲み物に触れる機会も永遠に失われたんだなと思うと、得も言われぬ寂しさを感じてしまう。
「そう言えばまだアンタたちが居たわね……リベリ、カグツチ」
「私たちと戦うと仰るなら手加減は致しませんわよ? 今は特に」
「その通りです許せません」
「私なんて置いてかれ続きで不満爆発です!」
可笑しいなぁ……前の二人に対して向けられているとは思うんだけど、僕も含まれてるような気を感じているよ?
「威勢の良い御夫人たちだ。だが今俺たちは争うつもりはない」
「そうだ。ただ別れを言いに来たのさ」
「別れ、ですか?」
「そうだ。この星の俺たち人間が住んでいるエリアは数パーセントにも満たない。それ以外は他の種族が支配している地域だ」
「変な奴に押されはしたが、二度とそうならなくて済むように腕を磨いて来る」
「……そうなると短い別れになりそうですね」
僕がそう答えると二人は楽しそうに笑った。リベリさんは元々、強い相手と鎬を削って自分の強さと生きている実感を得たいタイプだから、旅に出るのは分かる。カグツチも似た感じなんだろうな。
僕もエルフの村付近を旅してミツバチ族とかと会ったりハイアントスパイダーたちと交流したりして、人間以外にどんな種族が居てどんな文化文明を築いているのか見てみたいなっていう気がしているからとても分かる。
今のところ倒すべき敵は居ないので、現れる前に鍛えておきたいなとは思っている。と言うか目の前にいる二人が強くなったと思ったら、僕の前に来ない筈は無いから鍛えないと駄目だろう。
「俺たちはこれから西の方角へ旅してみようと思っている」
「母上には感謝しております。丈夫な体にしていただいたお陰で食あたりを気にせずに居られるのは有難い」
「感謝するところそこなの?」
「それは大事ですから」
呆れるルナに対してガハハと笑うカグツチ。確かに食あたりしないってのは大事だ。どんな場所でも栄養になりそうなものがあれば試みられるって凄いと思う。僕も死にはしないが死ぬ苦しみは味わうので安全な食の大切さ有難さは身に染みている。
「こないだは後れを取ったが、何れその首貰い受けるぞ」
「僕も止まるつもりはありませんから」
リベリさんと変身したまま握手をし、カグツチとも握手を交わし二人を見送った。まだまだ世界は広い。未知の種族や戦法など山ほど存在するのかもしれないと思うとドキドキする。元の世界に帰れないのは残念だけど、この星でこの世界で生きて行くと決めたのならとことん前を向いて生きて行こう。
「よーし僕もやるぞ……ってあれ」
両手を握りしめて俯くと、何やら足に鎖が巻かれてるんだが……。
「犯人確保!」
「犯人確保です!」
なんだ犯人確保って。何処で覚えたそれ!
「取り合えずこのまま連行します良いですね? 答えは聞いて無い」
「ホント困っちゃいますよね私と華さんなんて二回も置いてきぼりにされて」
「え、ちょっ待って! 普通に歩くからこれ外してぇ!」
何故か良く分からないが鎖が外れない。どういう仕組みになってんだこれぇ! 一生懸命叩いたり引っ張ったりしてるのにびくともしない。変身しているのに……こんな馬鹿な!
「普通に歩かせたらどこ行くか分からないからね」
「そうですわ。山ほど仕事があるんですから先ずはそれを片付けて頂いて、その後私たちに感謝の気持ちとして扱き使……じゃない滅私奉公してもらいますわ!」
割と僕は皆に良いように使われた面もある気がするんですけど気のせいですかね気のせいですよねきっと……。納得いかないので本気で抵抗してるのに全く取れない。こんなのが出来る人は一人しか思い当たらないんだけど何故?
「おう、戻って来たか」
僕は変身が解けてしまったにも拘らずそのままデラウンまで引きずられ、冒険者ギルド前まで行くと師匠が待っていた。デラウンの町自体に人が山ほどいてこないだとはえらい違いである。
「これ師匠の仕業ですね」
「当たり前じゃろ。お前さんには仕事が山ほど残っておるんじゃ逃がす訳なかろうて」
師匠についてルナたちも再度移動し、僕も引きずられ続ける。皆は僕を見ているが見なかったことにして去って行った辛い。
そこからデラウンの議会場に収監され戦後処理についての仕事を山ほどこなす。兵士の御悔やみは少なかったから良いが、参加しなかった領土に関して再配分案を作り通達が一番大変だった。再配分と言えば聞こえは良いが実質領地を減らし、参加した領地に対して増やすのだから受け入れるはずも無い。
はいそうですかで済ませられるはずも無いので戦い統一するしか現状道が無いので軍を再編し戦争に備える。軍議に参加していたソウコウ様からソウビ王よりこちらの地域を統一する許可を与えられ、更に協力も惜しまないと言う伝言を貰ったのでカイテン軍もそのまま参戦してもらえるのは有難い。
勿論それだけでなく、僕が統一し新たに起こした国と同盟を結んだ後で今回の戦争に協力した分の報酬を支払うよう言われた。統一する気なんて一切無かったが、これも済ませておかないと多くの人たちが困るのでやるしかない。
「僕はこの星から居なくなるはずだったのになぁ……」
結局練兵や再編をしながら再配分案を先ずは西側へ送ったが返答は直ぐに来た。手紙では無く使者を斬り殺して。それを受けて直ぐに出立。こちらの怒りは凄まじく、また竜神教を滅ぼしたという勢いに乗ってあっさり一つの領地を制圧。
そこから次々西の領地を制圧し、次は北と東の参戦も同盟もしなかった領地に同様の書簡を送り、同じような返答をしてきたので順次制圧して行った。ルロイは結局竜神教が勝つと思ってガノンさんを無理やり更迭し、新しい市長を立てたものの僕が来て制圧。他は基本友好的だったので少し減らすだけで終わった。
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