真相に近く
それを聞いてクロウは絶叫する。神と自らを言う男が見せる感情的な姿に少しだけホッとする。この男にもこんな感情がまだ残っていたのか、と。これまでの仕打ちを思い返してみても、人を人とも思ってない気がしていたし。
「お父様、もうこれ以上他人を巻き込むのはお止めになってくださいまし。あの人が最初から望んで居たなら自分でしたでしょう?」
「ああ、ああその通りだ! だが……!」
クロウはそこで止まる。同化していた時にクロウの心の隙間が見えたが、この世界を作ったのは息子さんの復活の為ではない。だがそれに似たような行動を取る為に姉をこの世界に引きずり込んだし、パルヴァも同じ理由らしい。最後まで知りたかったが中々ガードが固くてそこまで辿り着けなかった。
「おい行けそうか?」
「問題無い……って言いたいけどやって見なきゃわからないな」
変身を解かれてしまったクニウスが駆け寄って来て声を掛けてくれた。咄嗟に飛び退いたものの激しい動きをしても平気かどうかはやって見なきゃ分からない部分がある。ダメージを受けただけでなく、僕が使わない力も使用したのもあり筋を痛めているかもしれない。
「そっちは?」
「分かってるのは今のところ変身出来そうもないって点だけだ」
「じゃあパルヴァとラティを頼む」
ラティの方に視線を向けると竜から人の状態に戻りへたり込んでいた。急に強大な力を使ったから疲れたのだろう。ここからはまた僕が先頭に立って戦う番だ。幾ら神様とは言えミレーユさんの御蔭で弱まった様だし、弱気になる前に出来るだけしないと。
「康久たちが戦っている間、ミシュッドガルド先生にも手伝って頂きお父様の次元結界は破壊しています。どうか観念してください」
「何故だミレーユ。僕は君たちの為を思って……」
「私はあの人との子や孫を守らねばなりませんから」
「……あの子は今何処に居る?」
「お父様の人脈を辿っても分からぬように暮らしております。誰の記憶を垣間見たのか分かりませんが、”康”の文字だけでは辿り着けないでしょう」
「東洋に言ったのだけは分かっている。あの子を追い回した連中は僕の手でこっちに落としたしね」
「イギリス人の小説家を目指していた農夫やアメリカ人の俳優をこの世界に連れて来たのは実験の結果ですか?」
「流石魔術師学園一の才女にして魔術師会の筆頭に近いと言われた君だけはある。僕の目的を何となく分かっているようだね」
「パルヴァがヒントになりましたから」
クロウの背後で構えミレーユさんと挟むような形を取りながら二人の会話を聞く。康の文字がクロウの孫に関係していて、康をコウと読めるからコウさんが選ばれ僕も康の文字が入ってるし野上の件もあるから選ばれたのだろうか。
ミレーユさんが言った様な魔術による偽装を、クロウは最初から疑ってチョイスし片っ端からあたってる可能性もあるな。
「まさか漢字とは参った」
「日本語は世界でも難しいですからね。民族性も隠匿を好む。脅しや魔術では通じない」
「今も神秘を抱える国か……あんな剣があったのも僕対する警告なのかもしれないね」
クロウは不意にこちらを向き直る。それに反応して三鈷剣が目の前に現れたので握り構えると、変身したままで呪術法衣も現れ体に着ていた。
「驕っていたつもりはあまり無かったんだ。だが良い感じで進んだので油断したのは否めない。ここは潔く撤退しよう」
「逃がすか」
「お父様、逃がす訳には参りません。ここで大人しく倒れてください」
「無理だと分かっている話をするものじゃないよ? 僕を仕留めたいなら僕の精神体がある場所まで来ないと駄目なのは君なら分かる筈だ」
「そのカケラである貴方を捉えれば良いだけでは?」
ミレーユさんが僕を見たので構えると同時に三鈷剣が光り、左手首に縄が出現し一番先には尖った苦無のようなものが付いていてそれがクロウに飛んで行く。クロウはそれを寸でのところで姿を消して避ける。だが縄は消えたクロウを追って進む。
「しつこいね」
「私も居るのをお忘れなく」
クロウが呼び出した槍を構えながらミレーユさんもクロウを追う。あちこちに出現するクロウを縄もミレーユさんも正確に追い続けていた。二人とも凄いなぁと思いつつ出番が来るまで気を掻き集めてダメージの回復に努める。
クロウの出現位置が分からない者が援護すれば逆に邪魔になると分かっているようで、クニウスたちも邪魔にならない様待機していた。
「今度ばかりは本当に困った。まさか自分で呼び込んだ人間と息子の嫁に追い詰められるなんて」
「潮時と言うものですお父様。御覚悟を」
「冗談。こんな時の為に僕は康久に移ったんだ」
「彼の体に先ほど掛けられたものは槍で解除してあります。この星に来る前のものもウルドたちによって解除済み。コウに接触させることで貴方の仕掛けの解析が出来ましたから」
「あんな短期間で解析と解除が出来たのかい? 流石は欠片とは言え先生だな」
どうやらこの星に最初降り立ってから砂漠の町に着いた時には何か仕掛けられていたらしい。それを別の星で活動中だった転生の先輩でもあるコウさんに僕を接触させ、反応させて解析して解除したのか。
「康久はウルドに対して怒った方が良いよ? 君のチート能力が低いのは僕の設計じゃないからのようだ」
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