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異世界狩猟物語  作者: 田島久護
竜の都編

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燃え盛る情念

「お前になど分かるまい。愛する者を奪われた人間の気持ちが」

「奪うくらいの度胸は無かったんですか? 乱を誘発させて無関係な人間を巻き込めるならそれくらい出来たんじゃないですか? それもしないでそんな話されても理解し得ないですよ」


「幸せそうな顔をしていた彼女を奪うなど」

「幸せそう? 元々ミリーとギャラックの貴族殺しが原因で、その罪を許してもらう代わりにあの人は王の元へ嫁いだ。以前から才能を高く評価されていたのがあってこそ。そうなれたのもパーティを組んでいた友人たちの御蔭だと思ったのもあるでしょうし、殺さなければならなかった事情を知り辛い気持ちを無視して王の提案を断れる人なんですか? そんな人が貴方の惚れた女性なんですか?」


「五月蠅い黙れ!」


 馬から飛び降りて桜刀華を引き抜き大斧を受けた。だがまともに受けてたら手が動かなくなるかもしれないと咄嗟に思い刃を斜めにして逸らす。馬鹿力だとは思ってたけどそれが強化されているようだ。


あの顔の模様は恐らく怨念を糧にその人間の力を増幅させる呪いだ。姉に取ってこの人の感情も大きな餌になったのだろう。今その模様が炎のように赤く染まり始める。


「サスノ! 何をしている!?」

「喧しい!」


 丘陵で偵察をしながら作業指揮を執っていたデラックさんが金色の鎧に身を包み、馬を駆って現れた。槍の一撃を繰り出すも大斧によって弾かれ、体が泳いでしまう。


「何故だサスノ、何故今更謀反など……。王のお心遣いを知らぬお前ではあるまい?」

「お心遣いだと!? 態々妃も子供もいる男が更に女を欲して奪っていき、奪われた俺に対するお心遣いなど侮辱以外の何ものでもない!」


「ならばあの時どうすれば良かったと言うのだ!? ミリーやギャラックが起こしてしまった事件を納める為にはライラが嫁ぎ王室に貢献する他無かったのはお前も承知している筈!」

「問答無用!」


 馬を口笛で呼び寄せ僕もデラックさんに協力しサスノさんに攻撃を加えて行く。怨念の力は凄まじく、元々強力だったサスノさんの力を更に倍増させていた。


「う、うぉおおおおお!」


 自暴自棄になっているのか緩急も無く攻撃をしてくるサスノさん。やがて馬が邪魔になったのか飛び下りると馬を切り伏せてしまう。そして泣き叫ぶような雄叫びを上げた後、炎の模様から火が吹き出し全身を包む。


「サ、サスノ!」

「全て……全て灰にしてやる……! 何もかも塵一つ残さん!」


 サスノさんの肉体は怨念の炎に包まれそのものとなった。唖然としていると目の前に光の粒子が踊り始め、三鈷剣が実体化する。最早普通の人間には殺せない存在になってしまったのか……あの頃の豪快に笑うサスノさんはもう……。


「デラックさん、後方へ行って兵たちの指揮を頼みます。ここは僕が受け持ちますから」

「しかし……」


「友として引導を渡せますか?」


 酷な言葉を告げる。だがそうしなければデラックさんは下がれないだろう。一瞬でも鈍ればこの世界の人間であれば間違いなく死ぬ。それを説明する時間は無いので、一番下がり易い言葉で言った。


デラックさんは少し間を置いた後で小さくスマンと言い残し馬に乗って去って行った。走り去る音を聞いて完全に聞こえなくなると同時に僕は三鈷剣を手に取る。サスノさんもデラックさんを敢えて追わないのは思う所があるからだろう。


「その憎しみも今日で終わりにしましょう」

「ぬかせ!」


 炎の化身となって全て燃やしても、人の形を形成し鎧を着た状態に見せ斧を握るサスノさん。憎しみに身を焦がしても戦士でありたいという矜持の為せる業なのだろうし、自分でもそう長くは持たないのを知っているからなんだろうなとも思った。


もう後戻りも出来ないなら、最後まで戦士として戦って死にたい……そんな思いが伝わってくる。三鈷剣は想いを汲んだのか、光の粒子を剣身に多く纏わせ目を閉じても瞼に残るほど強い光を放つ。


「いざ尋常に」

「勝負!」


 人間を捨てたサスノさんの動きは馬よりも早く動いて間合いを潰し、腕をしならせ斧の部分の炎を振り下ろして来る。最初は戸惑ったが切り結ぶうちに徐々にその動きにも慣れて来て避けるのも容易になったが捉えきれない。


サスノさんは熟練の戦士であり死闘を潜り抜けて来た猛者だ。体が変わっても戸惑わずに動かせ更には人と違う動きで避ける。どうしたらあれを捕えられるんだ!?


―怨念を滅せよ―


 頭に声が直接聞こえると、右手首に縄が現れ前に手を突き出すとその縄の先端は苦無のようなものが付いていて、サスノさんを突き刺さんと飛んで行く。真っ直ぐなので避けられてしまったが、縄はサスノさんの体の周りをぐるぐる回った後で締め付け行動の自由を奪った。


「ぬ、ぬおおおおお!」


 解こうと逃れようと暴れるサスノさん。それを縄はしっかり縛り逃さない。僕はゆっくりとサスノさんに近付き


「どうか安らかな眠りを」


 僕はそう告げながら縄の隙間に三鈷剣を突き刺した。暫くすると炎は消え元のサスノさんの体が現れた。三鈷剣の計らいなのか怨念が消え失せたからなのか分からないが、その体を縛っていた縄は解かれ、初めて会った頃のように笑顔で微笑んだ後、光の粒子となって消えて行った。








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