第一騎士団長ジークフリート
「何か問題でも? こちらが掲げた理念理想はとうにご存じのはず。まさか知らずに我らの道を妨げようとしていたのではありますまいな?」
「いやいや御尤も。なれば軍を引かれるが宜しい。我らが本部までご案内致しましょう」
「御冗談を。ダルマにカーマにと見れば分かるが、今のブラヴィシ様の御傍に善からぬ者が居て暗躍しているのは間違いない。兵を率いてブラヴィシ様をお救いしこの窮状を打開し、全ての信者に安寧が訪れるようせねばならぬ故、貴公らこそ道を開けるべきだ」
僕の言葉に心当たりがあるのか先頭の男以外は動揺を隠しきれない。それを感じ先頭の男は後ろの男たちに視線を送り動揺を納めるよう睨んだのだろう、すぐさま元に戻った。そして笑顔でこちらに向き直ると深い溜息を吐く。
「勝手な思い込みで乱を起こしたようですな野上殿。ブラヴィシ様の御傍には我らが居るので分かるが、ダルマもカーマも貴殿と同じような思い込みで暴発したに過ぎない。粛正と呼ばれるものも、処断された者たちは元々反逆者」
「なるほどそれは面白い。あのエンカク様が如何なる理由があって反逆したのか伺いたいものですな。かの御仁は敬虔な信者であり、あの方が粛清されたからこそ動揺も大きかった。デラウンのギルド長に対する処分とは意味合いが違う」
「それは貴殿のように専横があると考えて」
「では何故首都は閉鎖したままなのです? あなた方が全軍でここまで出てこられた理由は? カイテンの兵がこの隙にも首都を攻撃戦としていますのに」
「何を馬鹿な」
「専横が無いと知っているのは貴殿がその主だからでは無いのか?」
「無礼な! 何を根拠にそのような!」
ブラヴィシの傍にいるのは姉だし専横も糞も無いのは知っている。ダルマも実験の為に確保したに過ぎず、カーマは元々そうだった。ちなみにカイテン軍のは嘘だし全軍かどうかもしらない。相手が虚を突かれるような、ありそうなものと確実に否定したいようなものを食い気味に問うことで苛立たせてみた。そして最後に騎士としてやるべきものをしてないのを指摘する。
「と言うか貴殿は何処の何方なのかな? こちらは貴殿を存じ上げないのだが。騎士として名も名乗らぬなど笑止千万! 礼にも劣るのではないか? それでよく竜神教だ竜騎士団だと言えるな……それこそが傲慢の証!」
最初は余裕があり上から見下したような感じで来ていたが、言葉を交わして行くうちにこちらのペースに巻き込まれてしまったと気付いたようだ。全員が血の気の引いた顔をしている。
「ご、御無礼仕った。私は竜騎士団第一騎士団長、ジークフリートと申す」
「これは困った。第一騎士団長ともあろうお方が騎士としての礼節を忘れて問答に臨み、我らを説き伏せようとは……。そのような傲慢な状態でブラヴィシ様の近くに居たからこそかような事態を招いたとお思いになりませんか?」
「わ、我々は傲慢など」
「エンカク様は人格的にも多くの民に慕われ自らを律し模範となってダルマを収めたお方。その御方が背信せざるを得なくなった理由を今一度考えるべきでは無いのか? ジークフリート殿。貴殿が望むなら少しの猶予してもいい。首都へ行きその真意を確かめてはどうか」
「ほ、他の者たちとも協議してみよう。今日のところはこの辺りで」
すごすごと引き返すジークフリート。リベリさんに代わる第一騎士団長と聞いていたが、政治手腕を買われて据えられたと言うのが分かる。僕を丸め込んで先制パンチを喰らわせたかったのだろうが、騎士としても礼節を逸してる上にこの状況を理解してないような発言が目立っていて空振りもいいところだ。
内輪の権力闘争には強いのだろうが、彼のような男が上にのし上がる様な組織ならどの道長くはなかったのだろう。この戦乱が収まったら竜神教も確実に新竜神教に飲み込まれるに違いない。
僕はその場を後にし皆のところに戻るとその話をして、投石器等の建設を今のうちに急がせた。
「宜しいのですか? 閣下。彼らに猶予をお与えになると言ったそうですが」
「建設するだけです。戦は起こしてませんから」
ジュンインさんに問われて答えると、笑顔で頷き現場の指揮に戻った。向こうは首都に対してアクションを取るだろうが、梨の礫だろう。無為に時が過ぎるだけ。籠城しているのにその過ぎる時は重すぎる。
現場の兵士や小隊長クラスはその行動に苛立ちを抑えきれるか。元々首都とも満足に連絡が取れず、僕らが迫って来ても開かない状況に不安を感じていない訳が無い。その上ジークフリートの現場をかき乱す様な行動が追い打ちとなって不信感が増大し、造反する者たちも出てくるだろう。瓦解するのを待っても良いが、どうするか。
「閣下、ジークフリートとお会いになられたのですか?」
「ああ……どうした?」
僕の報告が終わり皆が其々の仕事をする為動き出し、人が居なくなってから残っていたイトルスにそう問われたので答えた。
「先日お願いした件、どうかご了承頂けないでしょうか」
イトルスは思い詰めた顔で僕の前に立ち頭を下げた。一度却下されたものをもう一度願い出て来るなんて珍しい。
読んで下さって有難うございます。宜しければ感想や評価を頂ければ嬉しいです。




