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異世界狩猟物語  作者: 田島久護
竜の都編

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炎の花

「最早何も語るまい」

「そうでしょうね」


 アルタの主でありアイノ・チャップマンの父親でもあるウラジン・ナハトムジークは、屋根を飛び下りこちらに向かってくる。クアッドベルが姉に唆された結果とは言え、良く知る斬久郎さんと娘を生贄に捧げてしまったウラジンさんに対して掛ける言葉も無い。


あちらもそれを望んでいないだろうから同意した。生きるべきだ等と言うつもりはないし、僕としてはウラジンさんと拳を交えるだけしかできない。その中でこの人は結論を出す気なのだろう。


「少し見ない間に良い拳士になったな」

「お褒めに預かり光栄です」


 最早語るまいと言った生来の頑固者であろうウラジンさんが、言葉に出す程強く慣れたのなら良かった。前に手合わせした時は全く相手にならず圧倒されてしまったから、それから比べると大分成長したと自分でも思う。


認めたからなのか、ウラジンさんは更に素早く動き唸りを上げて拳を僕の急所目掛けて繰り出して来たが、何とか風圧も計算に入れつつ避けながら移動する。どうやらあの花の下へ行かせたいようだ。かなり心苦しいが、それで何か変わるとも思えない。野上の術の中でも禁忌に当たる術を使用している。


本来であれば術者の命の危険があるので使われない。それを簡略化し使いやすくした上でクアッドベルに実行させたのだろう。魔術粒子(エーテル )の代わりに地下に押し込めたカーマの人たちの命を使って。


「俺を哀れむな」

「失礼しました」


 腕を交差させて拳を受け止める。衝撃波が通り過ぎ後ろの建物を破壊した。呪術法衣の御蔭で体内を突き抜けず薄い防御幕で受け流せるが、無かったら立っていられない。


「何でも見透かしたような顔をするな姉弟揃って気に食わない奴らだ」

「知っておられるのですか?」


「あれはもうそう長くはもつまい。お前に対する呪詛を延々叫んで教団本部をうろついている」


 想像したくないが簡単に想像出来るのが恐ろしい。それをラティの体を使ってやるところにアイツの糞っぷりが現れているなと思わずにはいられない。


「ちなみに今実質竜騎士団(セフィロト )はジークフリートが動かしている。俺のアルタも接収されて暇になった」

「餌を貰ったら用無しって訳ですね」


 ウラジンさんのこれまでで一番早く力強い拳が飛んで来て、間一髪横へ避ける。アイノさんがこの術を起動させる為の生贄として最適であった、そしてそれがカーマである必要があった。姉としたら自分の力を一切使わずに起動でき、多くを葬れるのだから是非とも使いたかったんだろう。


だが起動した後の状態を知ればキレるだろうなぁ。人の想い意思までは思うようにならないんだから。


竜騎士団(セフィロト )も最早残り少ない。敬虔な者はもう一人しか残っていないからな」


 クニウスもリベリさんもそうでないと知っているんだろうな。と言うか首都を閉鎖した時からもう竜騎士団(セフィロト )なんて形骸化してたのかもしれない。今残っている人たちも何を信じて良いやら分からないだろうな。


「俺が気になっているのはお前に対するあの女の対応だ。何故お前の好きにさせ首都まで導いているのか」

「手ずから殺したいんじゃないですか?」


「あの女がそんな殊勝な女に思えるか? 俺が見た中でも悪魔中の悪魔、汚泥を他人に飲ませてケラケラ笑うような真の悪魔に見えるが」

「間違いないですね……」


 僕自身、姉に対する怒りや憎しみが無い訳が無い。この命に代えても必ず消滅させる。その術も師匠から貰っていた。ルナにも後を託しているから万端ではあるが……何処かで見下し冷静ではないのかもしれない。落ち着いて相手の狙いをキッチリ見定めないと駄目だな。


「何にしてもあの女の良いようにされては堪らない。取り合えずお前は下がれ」

「何故です? あれは貴方には倒せない」


「倒さねばならん。あれには俺のこの世で一番大事な者を取られたままだ。妻も死神に取られた上に上積みされるなんて冗談じゃない。この武を飾りにさせたくはない」

「そう言う問題じゃないんですよ。アレはこの星にとっては裏技です。色々な思惑があってこの星から一旦消えてしまったモノを、別の方法で生成し利用したものなんです」


「だからどうした? そんなものは糞喰らえ、だ」

「そうですか」


 僕は呪力と気を放出し加速、ウラジンさんの鳩尾に三鈷剣の柄を叩き込み浮かせた後、そのまま胸板を前蹴りし吹き飛ばす。正直ここまで来て何が罠かと言えば全部罠だろう。野上の禁忌を使うなら恨みは絶対に欠かせない。


人の中で強烈なエネルギーを生み出す怒り、そして持続する恨み。これらを生成するには戦を起こしたり非道な行いをすれば足りる。そして今それは全てある。


それら全てを絶つには首都へ行くしかない。だが出来れば少しでも恨み辛みの類は増やさないよう進みたいなとは思っている。ウラジンさんは死にたいし死にたがっているが、それを叶えないのは僕の姉に対するささやかな抵抗だ。


「さてと……さっさと終わらせようか」


 三鈷剣を持ち直し、切っ先を花に向ける。ウラジンさんの攻撃によって道は開かれていた。自分で通るつもりだったんだろうが有難く利用させてもらおう。


「アイノさん」


 見知った顔が柱頭にありこちらを向いた。そしてそれと同時に地面から根が襲い来る。決着を付けようと言う合図だろう。最早斬久郎さんも居なくなったから思い残しは無いと。


三鈷剣を強く握ると剣身に紅の炎を纏い、根に対し振ると瞬時に燃やして灰にした。次々に襲い来る根を灰にし根元まで近付く。すると三鈷剣が振動し始め炎の渦を巻き起こす。僕はそれを見て


「どうか安らかに」


 そう上を見上げて行ったあと、三鈷剣を地面に突き刺した。少しして地面も振動を始め、根を張る部分から炎が噴き出す。


「@?‘|!”#&%!」


 巨大な花に纏わりつくように根から出た炎は走り、最後に花冠を包み込んだ。それは炎の花のようになり燃え続ける。やがて飲み込んだ人々の怨念を燃やし尽くしたのか花と共に炎も収まり三鈷剣も僕の中へと戻って行った。








 

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