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異世界狩猟物語  作者: 田島久護
竜の都編

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カーマを食いし花

「おいおいこの程度で戸惑うなよ? 俺はまだ何もしちゃいないぜ?」


 仕事があると言って首都に帰ったクニウスが戦場に出てくるのは当然だろう。クニウスほどの実力者を放っておくほど向こうも余裕がある訳では無いだろうし、僕とも知り合いだ。取り合えずこちらとしては早く一対一になるよう他を減らしていくしかない。


味方に分かるように焔祓風神拳を連発していると、機械的に動いていた彼らの様子が変化していく。三鈷剣を使用して放つ風神拳が焔祓風神拳へと変化しているが、この炎は自然には引火しない。人間のみに燃え移る火は、信仰心で鍛え上げられた彼らの心にも燃え移る。


「ぐっ……ああっ!」


 機械的な竜騎士団(セフィロト )の兵士たちの中の一人が堪らず声を上げて得物を放り投げ、鎧も脱ぎ捨てて地面に倒れ込む。それ見た他の兵士たちも堰を切ったように声を上げて同じような行動をし始めた。


最初竜騎士団(セフィロト )特有の物かと思いきや大分我慢していたらしく、堪らずそうしているのが彼らの苦痛を訴える言葉の違いで分かった。


「参ったね。崩れるのが早すぎる」

「いよいよ大将の御出ましかな?」


「そうだな。これ以上はお前に割けない」

「標的って言ってたのにか?」


 クニウスは馬を降りると腰に佩いた剣を抜いてこちらに向かって来た。三鈷剣が出続けているのは有難いが黒着たちがうちの軍に向かっているからだろう。他の皆では手に余る。早く行かないと。


「おっと何処へ行こうっていうのかな?」

「カーマの地下の実験体を先に処理する。あんなものはここに居て良い者じゃない」


「おいおいまさかあれだけだと思って無いだろうな?」

「どういう意味だ?」


「あんな程度の物しかなくて前線に出しはしないだろうって話さ。お前の姉貴はそんな正直者じゃないだろ?」


 嫌な話だ。クニウスの言い方から察するに、黒着たちは切れ端であり処分する為にこっちに出して来たというのだろう。斬久郎さんも恐らく同じようなもの。


「反吐が出るな」

「お前も知っているだろうが、エルフは奇跡以外では無しえなかった。お前の姉貴に月読命の研究と施設そしてヴァンパイア。幾ら失敗とは言えああはなるまい」


 カーマの地下の物は月読命の研究と施設それにヨーハン博士の協力を得て強化されたのか。要らなくなったから処分したと言うのは実に姉らしい。


斬久郎さんが失敗だったのはやはりパティアのような奇跡を起こせなかったから。クニウスの口振りからして奇跡を起こしたものが居るんだろう。厄介だな。


「この程度を処理できないのであれば首都へなど行けまいよ。あの冒険者上がりの王様の兵士たちも無駄死にをするだけだ」

「僕のこの剣でなければあれは倒せないだろう」


「救うか殺すかの違いだ。お前さんのそれは救う為にあるが、別にあれを倒すだけなら救わなくてもいい。中に魂はあるし完全な不死ではないのだから」


 気が重くなる話ばかりだ。要するに僕が死ぬ条件と同じように精神的な死を与えれば死ぬ。流石姉の住処の近くだけあってこちらにも下衆な真似をさせる。


「彷徨う魂は生きている人間には救いようが無いが、それで救えるのかも知らん。俺から言えるのはそれだけだ。そろそろ時間のようなので引かせてもらうぞ?」


 喋りながらも隙を見せずに悠々と捌かれてしまい、バックステップした後控えていた馬に乗り首都方面へ下がって行く。その際に竜騎士団(セフィロト )にも引くよう声を上げた。随分あっさり引いて行くな。そろそろ時間のようだと言っていたが何があるんだ?


「康久! 忘れるな!」


 クニウスはそう叫んで去って行く。忘れるなと言うのは恐らくさっきの会話。カーマの地下で行われていた実験は未完成で、月読命とヨーハン博士によってグレードアップはしたが完成はしていない。


姉は……死んだ者を生き返らせる為に向こうで野上の呪術を使用した。そしてここに生き返った者がいる。別の体に魂を定着させたがそれが上手く行かず、竜神教(ランシャラ)を作り信仰心を利用して魔術粒子(エーテル )を得て維持していた。


やろうとしているのが魂に合う器の製作。その為に人体を弄っているのか。魂の定着が出来耐えられる、更に姉は不死性も持たせたいが故に非人道的な研究をし続けているのだろう。


「何だあれは!?」


 後方から兵士たちの声が飛び込んでくる。そちらを見ると彼らはカーマの町の方を指さしている。だがここは丘陵であり指をさすなら下だ。そうでないとなると。


「あれも失敗作かよ」


 指さす方向を見るとそこには大きな黒い花が咲いていて、ジッと観察しているとその中央の花弁のところに人が十字架に張り付けにされるような恰好をしていた。


なるほど……こんなもの斬久郎さんにはどうしようもない。出来るのはせめて僕が来ないよう邪魔するくらいしか出来ないだろうな。知らないとはいえ何とかしろなんて惨い言葉を掛けてしまったんだろう。こりゃ僕があっちに行った時はどれだけ謝れば良いか見当もつかない。


「うあああああ!」


 再度兵士たちの方へ視線を移すと、地面から根と思われるものが突き出してきて兵士を串刺しにしていた。暫くすると貫かれた兵士はミイラのように萎み最後は鎧と皮だけになり根らしきものは引っ込んだ。


いよいよもって魔王染みて来たな。呆れて茫然としたいところだけど、このままだとあの花に生き物全てが吸われてしまうし、何より斬久郎さんの願いを叶えないといけない。その為にも三鈷剣は出てくれているのだろうから。






 


読んで下さって有難うございます。宜しければ感想や評価を頂ければ嬉しいです。

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