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異世界狩猟物語  作者: 田島久護
竜の都編

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斬久郎、黒煙に消ゆ

 ここは一刻も早く苦しみから解放してあげなければならない。僕には三鈷剣がある。


「閃!」


 呪力と気を三鈷剣に込めて斬り付けると、黒着は分裂したが再生できず金切声の悲鳴を上げながら黒い煙になって最後は消えた。


「馬鹿な……!」

「別に馬鹿なも何も無いですよ。姉がしたのなら僕にそれを解けない筈は無い。何しろこっちが今や正統であり本家なんでね」


 師匠曰く、野上の継承は例の竜の都で行われたし爺ちゃんも元の世界では故人だったので、今やこの世界では僕が野上の術を全て受け継いだ正当な後継者だ。


一応この世界だけだが野上の術を使う人間が他にも居る以上意味はある。


「己っ!」

「まだやりますか? こっちを素早く処理して仲間と合流したいんですが」


 僕は素早くその場にいた黒着たちを斬って天に戻した後、三鈷剣の切っ先を向けそう告げた。すると斬久郎さんは悪そうな笑い方をし始める。まぁこっちに僕を引き付けておいて本体を向こうにってのは定石だよな。


恐らく竜騎士団(セフィロト )と今頃ぶつかっているだろうし、黒着の残りもそっちに向かっているだろうからさっさと終わりにしないと。


「お前に俺を斬れるか!?」

「斬りますよ」


 僕は素早く間合いに踏み込んで斬り付けた。斬久郎さんを憎いと思ったりはしないが、斬り辛くとも斬れない訳では無い。姉の術を解除するには長い時間を掛けるか斬って断ち切るしか無い。


これから首都での決戦もあり長い時間を掛ける余裕も機会も与えては貰えないだろう。そうなると他の仲間たちを殺される訳にはいかないので、斬る以外の選択肢は無い。呪っていくも良し祟って行くも良し。恨みを買わないよう生きるにはもう道を進み過ぎた。姉の分も含めて背負わなければならない業が増えるだけの話。


「くっ……ま、まだまだぁああああ!」


 斬久郎さんはそう叫びながら皮膚を変化させ、ハオさんのような形態に変化する。恐らく地下実験の集大成のようなものを移植されているのだろう。ハオさんは師匠の遺伝子から天然で進化を遂げたがこれはまがい物。


どちらにしろもう長くはない。クロウが協力しエルフが生み出したものですらパティアのような適合者はそう多くない。姉もそれらの情報を得ていた筈で、その成れの果てが黒着たちだろう。


ルナが残して来た研究所も使ってここまでにしたんだろうけど、子供の頃ならいざ知らず大人にそれも無理やり移植して完璧な結果を得るなど無理に思える。


「グォオオオ!」


 体を軟体化させこちらに飛び掛かってくる。が、ハオさんを相手にしているのでその動きは経験済みだった。三鈷剣も輝きを増し始め、斬久郎さんの動きを追い素早い動きを全て見切って斬らんとして切っ先が動く。


やがてこちらを翻弄し攻撃しようとしていた斬久郎さんを、三鈷剣が斬らんと追い回すような状態に変わって行った。斬られた斬久郎さんが一番分かっている筈だ。これに斬られたら終わりだと。


変化した皮膚から黒い煙が漏れ出し始め、動きも鈍くなり始めた。それを逃す三鈷剣ではない。


「グハッ」

「先にあの世に行っててください。そのうち行って謝りますよ」


 三鈷剣の切っ先に導かれ心臓の位置を貫いた後、更に横へ薙いで上下を分かれさせた。地面にぼとりと堕ちた後、煙を上げて消え始める。


「参った……な。最後まで、一度も」

「斬久郎さんは十分強いですよ。ただ僕らが異常なだけです。貴方は最後ずるしようとしましたが、リベリさんを含め僕らは最初からそうでしたし」


 斬久郎さんは顔のみ元に戻り空を見つめていた。今まであった中で一番穏やかな顔をしている。少し間があって顔を歪めて僕を見る。


「あの子を……」

「分かっています。アイノさんは必ず」


 そう笑顔で伝えるとホッとしたのか穏やかな表情に戻り目を閉じた。僕は斬久郎さんが天に帰るのをの届けた後、手を合わせて皆の元へと急ぐ。


三鈷剣は出たままだ。まだ怨念はこの地を覆い続けている。その影響からか、デラウンや抑えたダルマには居なかった異形の者たちが現れそれを切り伏せながら丘陵を目指す。


「遅かったか」


 丘陵は既に潰されダルマ側に黒着たちと一緒に竜騎士団(セフィロト )が進軍してきていた。綺麗な白が森を潰しこちらと戦闘を開始している。僕はそのまま側面を突いて竜騎士団(セフィロト )を混乱させるべく加速した。


「よぉ遅かったじゃないか」


 不精髭を生やし髪もボサボサ襟足で長い髪を縛った雑な頭の部分と違い、首から下は深緑の装飾の凝った鎧を着こみ白馬に乗っていた男が僕を遮ったが、当然問答無用で蹴り飛ばす。手加減しても不味いので適当にあしらっておかないと互いに不味い。


「いきなり御挨拶だな」

「そうかい? 早速で悪いが死んでもらう!」


「冗談だろ? 皆の者! 側面に標的が来たぞ!」


 クニウスの合図に竜騎士団(セフィロト )の兵士が一斉にこちらを向いた。顔の作りが違うだけで表情も鎧も得物も一緒な上に動きまで狂いなく一緒っていうのが、下手なホラーより恐ろしい。それらは足も止めてこちらに体を向け進んで来る。


「焔祓風神拳!」


 流石に三鈷剣で斬っても意味がない相手と見て風神拳を三鈷剣を持ったまま放つ。炎を纏う風に襲われ吹き飛ばされる竜騎士団(セフィロト )の兵士たち。だが炎が体を覆っても表情すら変えない。


これじゃ生きてるのにゾンビと変わらないんじゃないかと寒気がする。まだこないだまで戦っていた竜騎士団(セフィロト )の兵士たちの方が人間ぽい。


 




読んで下さって有難うございます。宜しければ感想や評価を頂ければ嬉しいです。

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