渓谷での再戦とカーマの地下での成果物
「まぁソウビ旗下で何かしか出来ないようでは将軍にも軍師にもなれんのだ。最近は緩くしたがそれでも君の登場で再試験が行われた結果の今だから将軍は強い……まぁショウウンに関しては謝罪する他無い」
何故かコウジン将軍は言い淀む。僕はその理由を問おうとしたが、華さんが遮るようにカイテンの話を振ったのでここは空気を読んでそのままスルーした。
その後三将軍とこちらの上層部の顔合わせを行い、各隊の状況を伝え合う。事前に報告はしているが、改めて報告を行い互いの信頼を高める。
夜には宴を開き、兵士たちにも酒をふるまった。翌日早速全軍上げてカーマへと進軍する。うちの偵察隊の報告によればカーマには住民は居らず兵のみが駐屯していたと聞き、エンカ将軍にコウジン将軍、ショウイン将軍の偵察隊からも同様の報告を貰ったので迷わず真っ直ぐ兵を進めた。
距離的に中間地点へ到達するともう一度現地近くにいる偵察隊と連絡を取るべく、連絡の兵を差し向け小休止した。暫くしても連絡が帰ってこない為、もう一度兵士を向かわせる。
「これは何かあったな」
「先行します」
エンカ将軍がそう呟いたので僕は先行すべくカーマ近くの丘陵へと向かう準備をする。
「康久殿、これを」
始めに司令部テント近くに板華さんたちに報告すると、華さんから一振りの刀を貰う。
「これは?」
「桜刀華だそうです。康久殿の力に耐えられるかは分かりませんが、父から私の嫁入り道具としてこの長刀と同じ素材と鍛冶師によって作られた物だとコウジン将軍より頂きました。是非お持ちください」
桜色の鞘に赤い柄の綺麗な刀で戦場で使うのは勿体ないなと思いながらも、折角頂いた物なので差して行こうと考えてお礼を言い後を頼んだ。イザナさんやジュンイン殿、それに三将軍やベオウルフさんにイトルス、ゴウバコライにも後を託して先行すべく一人先に進む。
「来たか!」
渓谷を渡ろうとしたところで刃物を投げられたので避けて岩陰に隠れると、斬久郎さんの声が木霊する。それにしても懐かしい場所で再戦とは随分センチメンタルだな。
「出て来い! ここで決着をつけてやる! ネズミたちは皆俺が駆除したぞ!」
ホント良い人だなぁそんな情報までくれるなんて。だがブラフである可能性もあるので少し休ませてもらおう。見ればさっき投げつけられた短刀が近くにあったので拾っておく。
「出てこないならばこのままお前の隊を叩くが良いのか?」
そんなのしない癖によく言うなぁ、釣りにしても下手過ぎる。元々器用な人じゃないから仕方ないか他人に言えた義理じゃないけど。
「でやぁっ!」
声と共に気が移動した。恐らく僕が隠れて居た大きな岩を両断すべく飛び上がったであろう斬久郎さんに対し、先ほど拾った短刀を思い切り投げつけた。それを弾くとバランスを崩して地面に不格好に着地する。大丈夫だろうか。
「どうしてもここでやるんですか?」
「ああ、最早ここで決着をつける! 出でよ!」
心配になり岩から出て向かい合うと、斬久郎さんはよろけながら立ち上がりそう叫んで手を上げる。すると背後の森から黒ずくめの忍者のような者たちが現れた。目を見ると人間でも獣族でも無い瞳孔も無い機械のような目が光っていた。
カーマと縁が深い斬久郎さんが率いているとなると、これは例のカーマの地下で行われていた物の所為かと見るのが正しいだろうな。
「何時でもどうぞ」
「すぐ終わらせてやる! 行け!」
斬久郎さんの合図でそれらが襲い掛かってくる。人数は十人と言ったところだ。僕は呪術法衣を纏い一人ずつ潰すべく突っ込もうと身構えた瞬間、三鈷剣が目の前に現れた。目の前の者たちは悍ましい実験の結果だろうと何となく感じていたが、それが正解であると言う証に思える。
三鈷剣を握り先ず一人斬り付けると、身に着けていた黒い服のみが切れ蛇の鱗のようなものが現れる。蜥蜴族がこっちにも居るのか? いや何か違う。
「おっと!」
三鈷剣に引っ張られるように次に襲い掛かって来た者を一刀両断した。するとそれは真っ二つになったが、血も出さずに左右に分かれて地面に倒れる。何だこの生き物は……今までにあった種族には当てはまらない生き物が居るのか?
「何処を見ている!?」
背後から斬久郎さんの声がしたので三鈷剣で受けようとしたが拒否するように動かない。仕方ないが桜刀華を引き抜いて切り払う。流石ソウビ王が嫁入り道具として打たせた刀だ。美しさよりも刀身は頑強さをメインに叩いているようで、斬久郎さんの刀が刃こぼれを起こしてしまう。
「そんな刀で大丈夫ですか?」
「大丈夫だ、問題無い」
そう言うので他の黒着達を捌きながら斬久郎さんの刀に対して叩きつけると、折れた。それを見て目を見開き刀を捨てる斬久郎さん。相変わらず抜けてるなぁと思いながら下がる斬久郎さんを追わずに黒着達を斬っていく。
だがそれらは斬っても死なずまた元に戻って襲い掛かってくる。どうやら姉はゾンビのようなものを開発していたらしい。元々カーマは変だった。町に座り込む人に対して家を用意したり仕事を斡旋したりもせず、食事におやつまで時間を決めて与えていたのだ。
誰もが汚れてはいたが飢えてはおらず、竜神教はブラヴィシの愛を体現する為等と言っていたがそれはこういう者を作り出す為に必要だと分かれば納得だ。
―助けて―
―痛いよ―
―苦しいよ―
斬久郎さんには聞こえないのかもしれないが、そんな声が黒着達から聞こえてくる。気分が悪くなって堪らなかった。あの姉はえげつない真似をしていたがとうとうここまでやったのかと思うと最早姉とも思いたくない。
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