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異世界狩猟物語  作者: 田島久護
竜の都編

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揺ぎ無き守護者モードへ

大分後ろまで下がったのか暫く走っても見当たらない。音を頼り僕らは更に走り続けた。


「……してやられたか」


 森を抜けてデラウン方面にまで来てやっと喧騒の場所へ辿り着いた。その光景を見てベオウルフさんはそう呟く。まさかこんな手を打ってくるとは。


「兎に角コイツら……じゃない、この人たちをどうにかしないと」

「そうだな。まぁ今まで命を奪って来たんだ。せめて迷わず逝ける様にしてやろうや」


 ベオウルフさんは片手剣を両手で握り、嫌なものは手早く済ませるべくあっという間に戦闘に入る。あの姉の仕業なら驚かないが、怒りが湧かない訳じゃない。僕は三鈷剣を握りしめ後に続いた。


「d4。q^ー2w5@:sr!」


 最早声にも言葉にもならない音を、苦しみを放ちながら襲い来る人だった物。その姿はおぞましく、悪魔そのもののように見える。元ダルマの住民だと言うのは袈裟にスラックスそして草履という格好を見れば分かった。


中にはラティとお茶をした時に話した店員さんも居る……。


「うおおおおお!」


 自らを奮い立たせるべく声を上げて斬り付ける。どうやっても彼らは元には戻らない。ならばこの手でその苦しみから解放するより他無い。どうか安らかにと祈りながら切り伏せて行く。


三鈷剣は彼らの思いを汲み取りながら鈍らず斬るのに力を貸してくれる。一刻も早く終わって欲しい。だがあの町の人数を斬るにはまだ終わらない。時間がゆっくりと、真綿で首を締めるように流れて行く。


ふいにあの姉の悪魔のような笑顔が過ぎる。アイツにとって僕が苦しむのはさぞ愉快だろう。悲しむ姿は楽しくて仕方ない筈だ。だが今は良い存分に楽しめ。この人たちの無念と共にお前の邪悪さを僕が必ず三鈷剣で斬ってやる。


「おい康久、それは」


 横に来たベオウルフさんが三鈷剣を指さした。見ると剣が黄金色の輝きを放ち光の粒子を纏っていた。


―祈り、念じ、奉じよ―


 僕はそれに従い足を止め三鈷剣の鍔が御でこに来る位置まで掲げて目を閉じる。どうかダルマの人々に安らかな眠りを、彼らに取りついている呪いを開放し給え!


「はああああ!」


 三鈷剣の光が輝きを増したのを感じて目を開き、更に高く掲げて自らの気を乗せる。すると僕を中心に光の炎が周りを包み込み、ダルマの町の人々を光の粒子に変えながら僕の仲間たちを癒して行く。


瞬く間に遠くまで広がり、暫くすると全て完了したのか光の炎は消え三鈷剣も僕の中に戻る。それと同時に僕は膝を着く。何とか怒りで気を失わずに済んでるけど、力を根こそぎ持って行かれた。こんなの日に何度も打ったら死ぬのは間違いない。


「ようやったの」


 後方で控えていてくれていた師匠が現れそう言ってくれた。それに対して空笑いするくらいしか出来ない。


「呪術法衣は消えぬままじゃから、魔力とは別物。まさに加護の力じゃが暫く動けまい。一旦デラウンに引くからそのまま寝ておけ」


 師匠の言葉に頷きながら地面に突っ伏す。全ての力が抜けてもう瞼も動かせない。そのまま僕は意識を失う。夢の中で多くの人たちに囲まれ想いを託された気がした。


どれだけ意識を失っていたか分からないが、目を覚まして上半身を起こすと掛けていた布団を吹き飛ばし呪術法衣を自然に纏った。何が起こっているのか困惑していると


―守護者よ、揺ぎ無き意思で悪を滅せよ―


「あっぶな!」


 布団を吹っ飛ばしまた体が煌めき始めたので急いで布団を出て立ち上がる。恐らく宿舎だからここを吹き飛ばしたら大変だ。辺りを見回し窓を開け雨戸を退けて外へ出た。あまりの眩しさに目を瞑りながら飛び上がる。


「何をしておる?」


 師匠の声がして目を開けると、いつの間にか体の煌めきは収まっていてほっとする。だが気が抜けてそのまま地上に落ちてしまった。


「あれだけ消耗しておったのに元気じゃなお前」

「い、いやぁ……」


「ど、泥棒!」


 苦笑いしながら事情を説明しようとした時、急に飛び込んで来た声の咆哮を見ると女性が倒れていて手を伸ばし、その先に籠を抱えて走る獣族が居た。


「待て!」


 僕は倒れ込んだまま手を伸ばす。だが距離は遠くて止められない。


「糞ッ……あれ?」


 気付くと泥棒をしたであろう獣族が僕の目の前に来ていた。皆唖然として見ているが僕も同じ顔をしているのは間違いない。見ると獣族は黄金色の縄で縛られており、その元を辿ると僕の右手に行きついた。


輪っかが手首にありそれと繋がっている。いつの間にこんな装備したっけ。首を傾げているとその縄と輪は光の粒子になり消えた。


「う、ううっ」


 頑強な体をした獣族は嗚咽し始め地面に突っ伏した。何が何やら僕を含め皆困惑しっぱなしである。唖然としていた中に守備隊の兵士が居て獣族を連行した。彼は立ち上がりながら謝罪の言葉を口にしながら歩き、守備隊の兵士も襲われた女性も狐に摘ままれたような顔をしている。


「何っすかねこれ」

「さぁな。法術なのかの。ワシそっち専門じゃないしな。パルヴァにでも聞く他無い」


「し、師匠はパルヴァを御存知なんですか?!」

「爺は顔が広いから」


 そう言って僕を立たせると笑いながら宿舎へ入って行った。何が何やらさっぱりだ。








読んで下さって有難うございます。宜しければ感想や評価を頂ければ嬉しいです。

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