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異世界狩猟物語  作者: 田島久護
竜の都編

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竜の依り代

 今考えても答えは出ないので、急ぎギルドへ赴き師匠を訪ねる。師匠が戻りギルドを再開し、カイテンとの関係も良好で景気も良いので仕事の依頼も多い。その書類仕事に追われているようで師匠はまだ起きていた。


「そうか」


 早速報告をすると師匠は短くそう答えて押し黙った。僕はミレーユさんが淹れてくれたコーヒーを飲んで、師匠の言葉を待つ。


「……確実なところは本人が言わねば分からんが、ワシの想像からして恐らくブラヴィシの魂の定着が上手くいかんのだろうと思う」

「魂の定着……ですか」


「うむ。彼女はこの世界に精神体を送り誰かの体を間借りして動いている。お前の爺さんの読み通りなら、誰かを蘇らせこの星の何かに寄生させている可能性が高い。そしてそれが長い時間経っているなら替えが必要になる。それが手に入ったと言う話じゃろう」


 僕は少し混乱する。姉は恐らく野上の反魂の術を使って、幾つかの命と引き換えにある者をこの世界で蘇らせた。姉はずっと竜神教(ランシャラ)に居て、ブラヴィシのメンテナンスをしてたのか。


「幾らクロウと言えども系統違いの魔法魔術を正確には使えない。御前には悪いとは思ったが、この星に来た直後に他の星で修業させたのも、実のところその修正と言うか修理をしたかったのもあったんじゃ」


 師匠は女神様から連絡を受けて僕を見た時、クロウの術が不完全なせいで能力補正がされておらず確実に死ぬだろうと思ったと言う。やっぱチートじゃなかったんじゃないか! それでよく僕はフクイラプトルもどきと強化ミミズを撃退で来たな。


「お前の転移先には他の転生者も居って、その人物から漏れたクロウの魔力を頂戴し再構築したのじゃ。ワシ本体はこの世界の概念になっとるから直接魔力は送れんしな」

「師匠は人の魂を移せるんですか?」


「元は、な。今は丸ごと引っこ抜いて別の体には無理に近い。引っこ抜いて移動させて元の体には戻せる。向こうの器は人間では無かったが、ある人物の協力で短期間だけ移せた」


 師匠が入口に視線を向けると、ミレーユさんが扉を開けて入って来た。コーヒーの御替わりを持って来てくれたと言うので頂いた。


「言い方が悪いがお前の姉は野上を外れた結果、才能はあっても野上の力は失われた。無理やり野上時代に修得した野上の力を行使しても、不完全だったろう。まぁそれもクロウの仕業と言ってしまえばそれまで。不完全な形で反魂を行えばその魂も定着せず、繋ぎとめる為に頻繁な体の入れ替えを行わなければならない。相性確認も含めてな。ルナの研究所……月読命の研究は役には立つだろうが改善には至らんと見ていた」


 師匠はより詳しい情報を得るべく、弟子の中でも隠密行動が得意な人物であるナイトルに竜神教(ランシャラ)の調査の仕事を頼んだ。そして今回周囲を警戒し師匠の家に来ず僕の家に来たんだろうと言う。


「お前の姉がラティの体を乗っ取ったのも、ひとえに竜の寿命とこの星の中でも魔術師に近い構造の体だったからじゃろうな。この星は元々魔術粒子(エーテル )を枯渇させる予定だったようじゃし」

「姉が復活させたかった人物の体を竜で用意した、という話なんでしょうか」


「恐らくな。だがさっき言ったようにクロウの魂の定着は不完全。そしてクロウより実力が下の者が真似たところでより悪くなるだけだ。……嫌な想像じゃが、それを補う為に命を魔力に変換していないとも限らない。野上の呪術の中の禁呪と呼ばれる類の物なら代用可能」


 それを聞いて姉ならやり兼ねないとは思うが、そんなにまでして蘇らせたい共に生きたい相手って誰なんだろう。僕で無いのだけは確かだけど。


「個人的にこれもあまり想像したくないのじゃが、その竜の依り代が拒絶反応を起こして暴れないかどうか……。不完全なものはどうなるか分からん。正直何故ラティの体にお前の姉が寄生出来ているのかワシにもさっぱり分からん」

「それは大丈夫よ」


 トレイを抱えたまま立っていたミレーユさんがそう言った。何故か全く分からないが、ミレーユさんが言うなら何か大丈夫な気がしてくるから困る。


「だそうじゃ。となるとやはり依り代の拒絶反応が怖いな。幾らワシでも竜単体ならまだしもその中身がごちゃ混ぜなんてのは相手にした覚えが無い」

「そんなもんがゴロゴロされても困りますよ師匠」


「それもそうじゃな」


 師匠がそう言って笑ったのに釣られて僕もミレーユさんも笑った。


「まぁここから先は一つも油断できん。お前の姉が何もせず大人しくしている訳が無いのはゴブリンたちを無理やり使役したのを見ても明らか。恐らく軍隊もそのままでは無かろうな」

「はい。どんな手を使って来ようとも、この命を賭けてあの姉を止めます」


「康久、頼んだわ。私たちの未来を」

「頑張ります」


 ミレーユさんが手を差し出して来たのでそれを握ると、何か不思議な感覚に体が満たされた。温泉に入っていると言うか日向ぼっこしているような感じ。


「ずるいのぉジジイもそれくらい厚遇されたいわい」

「ギルド長は十分厚遇されてますよ? こんなにも多くの血ではなく絆で繋がるお弟子さんがいるんですから」


 寂しげに微笑むミレーユさん。この人は相変わらず多くを語らないが、きっと僕よりも色々な者たちを見送って来たんだろうなと思う。


「そうじゃな……あ、ナイトルの件じゃがお前さんのところで少し面倒を見ててくれるか? デラウン内の調査がまだ終わらんのでな」

「心得ました」


 夜分遅くなので師匠とミレーユさんに別れを告げて宿舎に戻り、ナイトルの看病に参加する。重症ではあるが命は無事らしい。目覚めたらどんな話が聞けるか楽しみなような怖いような。











読んで下さって有難うございます。宜しければ感想や評価を頂ければ嬉しいです。

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