集結し始める者たち
ジュンインさんとの会話は兵士たちの間を瞬く間に伝わっていく。そしてそれを知った兵士たちの顔は引き締まり、練兵にも気合が入っている。
「銅鑼の音をよく聞け!」
デラウンの北の開けた場所に建てた高台の上から、大きな銅鑼を叩き兵士たちに指示を伝える。前よりも動きはしっかりして来たが、反応が遅れたり速さが足りなかったりと課題は多い。
「ま、こんなところでしょうな」
ジュンインさんはそれを単眼鏡で見ながら僕に言う。僕も知らなければそれに反論したいところだけど、ジョウさん率いる部隊がブリッヂスを統治していた時の働きを知っているから、苦笑いする他無い。
「康久殿も御存知の通り、我が国はこちらと違い将軍たちの色が出ます。故に連帯感が強く逆境にも強い。将軍が降格するような事態が稀なのもありますし、将軍の部隊には旧知の部下が多くいますので色も広げやすいのもあります。竜騎士団のやり方も軍師として見れば良いのですが……」
ジュンインさんの意見としてはどんな時でも確実な対処法が用意され、それを全て覚える身に着け運用させるには難しいと言う。兵士も人間だし特に人間同士のみに絞れるなら良いが、人間は捕食される側だった歴史からまだ完全に抜け出したとは言えない。
どちらかと言えばその他の敵がまだ多く、未知の敵に遭って当て嵌められれば良いが、指揮官から部下まで同じ能力と同じ記憶で統一するのは無理がある。人間と言うのは良くも悪くも群れる生き物であり、その群れの主に染まり易い。
現場で必要なのはブレない指揮官であり劣勢であっても鼓舞し、苦境を打破する手立てを用意出来る人物だ。
「ソウビ王の御眼鏡にかなった指揮官か……」
「はい。彼らは部下を物として見ません。自らの手足と同等と見ている。そして兵士はその将の手足に勝ろうと敵に立ち向かう。将の武勲の為自らの未来の為に生き残るのです」
ソウビ王が王になってからの方針を、ブレずに貫き通し時間を掛けた結果が今実を結んだんだろうな。だがそれもソウビ王ならではのもの。一人の偉大な王によって成った軍隊だ。
対して竜騎士団は竜神教を軸に構成されているが、指揮官は武力の高い人物を据えて思う存分やらせ下はそれをカバーする戦い方だ。
指揮官は竜神教では無い場合が多く、故に求心力が無いとは言えないがブラヴィシに勝てるはずも無い。そこが欠点で会った為に竜神教教徒からの登用をし始めた。
憶測だがリベリさんがトップから退いたのも、方針転換を図ろうとしての行動だろうと思う。ただタイミングが悪かった。
「ソウビ王の偉業だなぁ」
「はい。ですが今回のカイビャク侵攻は康久殿の行動あってこそです。何しろ五都市も抑えているのですから」
「抑えてる、か」
素直にそうだねと言えない。ルロイもギブスも今は流れを変えてしまった。デラウンやネルトリゲル、ホクヨウに白い目で見られても可笑しくないような状況だ。
「人間ですからね。それに康久殿が国を治める気が無いからこうなった訳で」
「それを言われると辛いね」
この後居なくなる人間が国を統一するなんて真似は出来ない。後の人を考えれば責任を擦り付けるだけにしかならないので、出来れば現地の人たちの判断に委ねたいそこは。
「まぁ治める気が無いのであれば、首都へ行くと言う目標を達成する為にあらゆるものを躊躇なく使うべきです。何も捨てず利用せずに達成できる目標など高が知れていますから」
姉を倒す代償としては僕の全てと引き換えにしてでもと思っていたが、まだ全てには至って無いらしい。
「ですが康久殿のここまでの戦いを無にしない為にも私も色々協力させて頂きますよ」
「宜しくお願いします」
ジュンインさんはこの日より軍師として籍を置き、早速カイテンから連れて来た部下を連れて周辺地域の測量を始めた。策を練るにも細かな地形の起伏などを自分で調べている。
練兵にも顔を出してイザナさんと意見を交わし擦り合わせていく。日々が過ぎて行き暫くして師匠たちが帰って来た。
「一応やるだけやったわい」
「もう致し方ないでしょうね」
師匠とリュクスさんは疲れた表情で溜息を吐きそう言った。詳細は聞かなくともそれだけで分かる。いよいよ動く時が来た。後はルロイ方面の回答待ちだ。
「康久殿、使者が参りました」
師匠たちが帰還した翌朝、会議室にジュンインさんが厳しい表情で入って来た。内容はその顔そのままのものだった。
「怒る気にもならん」
「人間らしいじゃないですか。安心安全ならそこから歩むのも躊躇しますよ」
ジュンインさんの呑気な発言に苛立ちを隠せないイザナさん。怒鳴ろうと立ち上がり席を立った瞬間、扉をノックする音が聞こえた。どうぞ、と言うと兵士が入って来る。
「久し振りだな!」
その兵士の後ろから済まなそうな顔をしてイトルスが現れた。
「俺も居るぞ」
更に後ろからベオウルフさんも現れ、久し振りの再会を喜び席を立って近付いて握手をする。
「閣下、申し訳ありません!」
イトルスは握手を終えると大きな声を出しながら頭を下げた。
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