プロのハンター
「取り合えずおめぇはジッとしとれ。じじいはちょっくらあの化けモンの残したもん取ってくるけ」
お爺さんは微笑みながらそう言ってあの二匹の怪物の所へと向かっていく。
「あ、あぶ」
「でぇじょうぶだぁ。じじいは強いからよぉ」
がっはっはっと笑いながらドスドス歩いて行くお爺さん。その背中には大きな弓のようなものを背負っている。暫く歩くと立ち止まって背中からそれを下した。
地面に片膝をつくと、それを前に置き前かがみになる。暫く小さく動いた後、パン! という破裂音と共に矢が放たれる。
瞬きをする間もなくあっという間にそれは強化ミミズの目に突き刺さる。ただそれはフクイラプトルもどきの角に揺られていてもう虫の息なのかピクリとしかしない。
お爺さんを見ると照準を合わせるべく小さく動いていた。もう一度打つ気だと思った瞬間、破裂音が今度は二回連続で響く。
一発はフクイラプトルもどきの左足太ももに、もう一発は喉をかすって通り過ぎた。
僕ならこの時点で焦っただろうけど、お爺さんは冷静に再度小さく動いて位置を調整しているようだ。その後三発連続で放たれた矢は左腕に少しずつずれて当たる。
ドシィンと地面を揺らして出血が酷くなった事もあってか、フクイラプトルもどきは倒れた。そして強化ミミズはもう血を流しつくしたのか、身動きひとつしていない。
「よっしゃぁ!」
お爺さんは僕に向き直って親指を立てて豪快に笑っている。凄過ぎて言葉が無い……鮮やかに仕留める姿はまさに職人と言った感じだ。
「おーい良かったらちょっくら手伝ってくれんか?」
そう言って手招きしながらお爺さんは動きの止まった二匹の怪物の所へ進んでいく。僕も恐る恐るお爺さんの後に続いて近付く。
「でぇじょうぶだぁ。おらもみてたけんどもよこの二匹は戦い始めて長かったしな。もう体力も無かったろうしおらの六発で血もこんだけ出てっし、怪我も負ってたからもう動けまいよ」
がっはっはと笑った後、お爺さんは僕を安心させるようにそう説明してくれた。近付くと二匹はそれぞれの血の海に横たわっていてお爺さんは二匹の目を素早く確認した後で手を合わせた。
空と地面と目の前の二匹にそれぞれ手を合わせながら頭を下げる。
「こうやって恵みと無事である事の感謝、こいつらの冥福を祈って手ぇ合わせんだ。ハンターの礼儀みたいなもんだ」
そう言われて僕も目を閉じ手を合わせて真似してみる。暫くして目をあけると、お爺さんはそれを見て
「そしたら二人ではこの大物を処理するの大変だから、おらの村の仲間呼ぶけど良かんべか」
「は、はい」
「だいじょぶだぁ。おらんとこの村は悪さする奴には容赦ねぇけんどもよ、良い奴には良くするから。こんな世の中じゃお互い助け合わねぇと生きてけねぇからよ」
豪快に笑うお爺さん。この世界に来て初めて人の優しさに触れこの世界も捨てたもんじゃない部分もあるんだなと思って涙ぐむ。
「そしたらちょっくらまっててくれな」
お爺さんはさっきの武器を構えると空に向かって一発撃つ。暫くすると空にじわっと明かりが広がる。車一台くらいの大きさまで広がった後で空に徐々に吸い込まれていった。
「夜光虫の粉をまぶして作った弾だ。たぶん直ぐ来るべ」
そう言われお爺さんと共に待っていると林の方から砂煙が五つほど上がる。
「お、来た来た」
お爺さんは手を挙げながら近付こうとしたけど、直ぐに僕の手を取りフクイラプトルの陰に隠れた。
「ど、どうしたんですか?」
「ありゃちげぇ。人数が少なすぎる。気をつけれ!」
お爺さんはさっきの武器をその方向へと構えた。僕も手に握っていたトゥーハンドソードに力を込める。
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