カーマの地下と大規模呪術と経済と
その辺りの情報を探りたいものの、イトルスやイルヴァーナさんもカーマの地下施設については何も知らないと言う。憶測ではあるが、と前置きしたうえでイルヴァーナさんは
「恐らく例のゴブリンやコボルドを使役する技術に関連した施設があるんじゃないか? あの町に居る人間を使った非人道的な実験が行われていると言うのを聞いた覚えがある。勿論その噂は直ぐに消えた。何故なら噂していた人間が全員居なくなったのでな」
と教えてくれた。少しの噂でも流されたり関心が向くのを恐れたようだ。まぁあの姉が上に居るなら碌な実験をしてないだろう。だが信仰心のある兵士だって十分に怖いし数も居るのにまだ隠し玉があるなんて、用意周到にも程があるなぁ。
今思えばカーマに最初に着いた頃にラティを助ける為に暴れて居たら、どう考えても敗北必須だったし何も知らない状態で姉が出て来たら戦えなかったと思う。
パルヴァの判断は的確だったんだな。あの時の頭に血が上った状態では、口で言われたところで分からなかっただろうし。
情報屋を使いたいが調べていると驚く話を聞いた。それはマドランとマクシミリアンが竜神教によって捕らえられたというものだ。
何でもカーマで斬久郎さんと竜神教、両方の情報を得て相手に売りというのを繰り返していたのを密告などでバレてしまい、その後指名手配されたらしい。
それに怯えた情報屋たちは一斉に活動を中止し現在は情報屋そのものが居なくなってしまったと言う。竜神教の諜報活動は、第七騎士団のナイトルがやっている。なので元々必要無いからこそ潰せたんだろうなと思う。
国民に仕事を下ろして金銭を動かすのを目的としていた側面もあるのだろう。カーマでも路上生活者の人をマクシミリアンは使って居たし、彼らに対して国のお金がマクシミリアンを介して行く。
あれは手広くやっていたから国中にお金が巻かれただろう。そう言う意味では存在意義が国にとってはあったが、反抗するなら要らないんだろうな。
僕らが利用すると言う事態も想定すれば、安全対策でもある。調べるとなると直接行くしかないが、単騎で動いた場合特に今は不味い。
「何?」
「いえ別に」
僕の目の前には四人の優秀な女性陣が居る。単騎で動く機会は無い。おはようからおやすみまで未来も見つめる絶対の布陣の目を掻い潜るのは至難の業だし、イレギュラーに対して団体で回避出来るかも不安なので、諦める。
そうなると注意喚起しながらぶっつけ本番しかない。首都が閉鎖し僕らがここまで迫ってきているこの状況でこの余裕。もう僕らを仕留める、または大幅に削減出来る手立てを持っていると考えるのが妥当だろう。
一応野上の呪術に関して学んだが、大規模呪術はあるにはある。だがそれを姉は使えない。祖父はそれを絶対に教えなかったと言うし、資料としても残していなかった。
僕がそれを知ったのは祖父の呪術で記憶渡しをしたからだ。そうでなければ覚えようも無かった。見た僕が言うのだから間違いない。あれは人による地獄の再現を目的とした禁呪であると。
姉が知らないで本当に良かったと思う他無い。ただ祖父が言うにはそれに似た方法を使って蘇生を行った為に、僕が被害にあったのではと言っていた。
そうまでして蘇らせたかったのは誰なのか……砂漠の町からデラウンに来るまでに見た夢なのか幻なのか、あの映像がヒントなのだろうか。
「何か企んでますか?」
「企んでません。ただ……」
と言いかけて止めた。多くの命を必要とする大規模呪術に似た方法で蘇生を行った姉。祖父曰くそれは基本一度きりしか出来ないと言う。何故なら起動に自分の生命力も潰える可能性が高いから。なので心配する必要は無いかなとも思ったので口にしない。
「うーん、この顔は企んでないけど文句がありそうな顔ね」
「いや全然違うけど」
「困りましたねこんなに女性が居るのに文句何て」
「女性が沢山居ると文句出ないもんです?」
「他の者が見たら羨ましいと思うのじゃ」
「確かにそうっすね」
笑顔で同意しておく。身の危険を察知し回避するのは将の嗜み。いやーホント幸せだなぁなどと付け加えれば突っ込まれるので短い同意もポイントだ。
どうも人数が増えて監視の目が厳しいのでやはり単騎で行くのは諦める。練兵や師匠との鍛錬もあるし、調べようがない相手に思い煩うより今は自分を磨くのが確実だ。
駐屯地に兵士が入り、家族を呼びたいものはルロイなどから呼んで貰って生活をし始め、デラウンも活気付く。冒険者も増えてギブスやルロイ、大和やカイビャクから商品がバンバン入って来て経済が回る。
何しろデラウンでは鉱山もあるのでこちらから輸出する量も多いのも回りに拍車をかけている。経済はとても好調で、新たな経済圏を確立したんじゃないかってほど賑やかだ。
ガノン市長からの報告でも、それらの経済効果でこちらへの支援も増え市民の不満も四散してしまったというから現金なものだと苦笑いする。
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