荒れ地の夜
詰め所に顔を出すと、鎧からお洒落な布の服に着替えているリュクスさんが待っていた。デザインは落ち着いているものの、リュクスさんの趣味なのか緑を基調とした色合いでピーターパンぽく見える。僕の手を強く握り苦笑いをするリュクスさん。なるほどリュクスさんが上がりだから余計人手が足りないのかと察した。
「言うまでもないが、恩に着ているとても沢山な。上の顔を潰さない為に私たちに出来るのは身を粉にするだけだ」
「ですね。上には恩もありますからそのお返しみたいなもんですかね」
「君の行いは全て上に報告している。勿論そんな行為はしなくとも私含め現場は皆痛いほど理解している。我々からすればこの時期に、という思いは一緒だしそれに対して町を護る為に垣根を越えて君が奮闘してくれているのは本当に有り難い」
「お互い骨が折れますね。リュクスさんも久し振りの夜休みですから、ゆっくり家で休んでください」
リュクスさんを何とか詰め所から押し出して僕たちは連絡があったという夜の密猟者を捜索するべく、警備兵たちと地図をにらめっこし始める。夜は密猟者が少ないので、基本は休める。だけどここの所多くなってしまい、僕に直接依頼が来たという訳だ。勿論無断では出来ないので報告は当然している。で、黙認という形になった。
「じゃあ行って来ます」
僕とラティは警備兵たちに見守られながら詰め所を出て馬車で荒れ地へと向かう。防寒服も支給金を貰って町の洋服屋さんで仕立ててもらった。ラティのデザインでとても可愛らしく、僕的にちょっと気恥ずかしい。ラティはピンク、僕は青。勿論馬たちにも着せている。
「ラティ、前方に陰」
フードを被っているので、望遠鏡を覗きながら耳の近くで言うと速度を落として止めてくれた。相手を見た時、僕は一瞬伝えようかどうしようか迷った。だけど黙っていてもバレるだろうから意味無いと思い伝える。
「黒鎧だ」
ラティはそれを聞いても冷静に見える。ジッと顔を見ていると、ラティがこちらを向いて首を傾げた。
「何か?」
「いや怒るかと思った」
そう言うとラティに鼻で笑われてしまった。
「そんな訳ありませんわ。奴等は確実に潰す。それ以上でも以下でもありませんので、感情的なものは今はありませんわ。お兄様は?」
「僕も無いなぁ。奴らの誰がどうじゃない、黒鎧を潰す。それはおじいさんの敵討ちだからね」
ボウガンを荷台に設置しながらそう答える。奴らのやってるのは明確に他の人間に迷惑を掛けている。それだけでも今は排除する理由になる。スコープを覗き込み、足を置いて弦を引っ張り動きを止めているのを確認して射出。着弾を確認せず第二射に移る。その間に第一射の弾が一人の太ももを貫通し地面に落ちた。それをもう一人が見て少し動いた瞬間射出。他に仲間がいる可能性も考慮して第三射目の準備に入った。
「お兄様、もう少しですわ」
暫く辺りをスコープで見つつ相手の出方を待っていると、ラティがそう言った。これだけ時間が経てば仲間は逃げている可能性が高い。ただラティ的にまだ早いんだろう。僕はラティの勘に従う。
「違うのが来たな」
「お兄様もう少し……居ましたわ!」
ラティは手でボウガンを押して移動してくれた。その先に黒鎧の仲間が弓を構えていた。こちらにではない。倒れた仲間二人に群がり始めたデラウンハイエナを追い払う為だ。即射出し左胸を射抜く。僕たちはこの辺りでは高い場所に陣取っているので見晴らしが良い反面狙われやすくもある。ただラティは竜人で基本能力が高いし、僕はチート能力があるので耳も目も良い。勘はラティの方が良さそうだけど。恐らく経験も上だし。
「どうします?」
「悪いけどこっちから動けば相手に見つかる。これだけ続けば相手も警戒を強めるだろう。但し僕ら以上に彼らは動かなきゃならないだろうから、僕らはのんびりまとう」
ラティは僕の方にポンと一回手を置いて離した後、静かになる。ラティは僕より経験があるのに僕に必ず聞いてくれる。例え答えが間違っていたりそれよりも最善があったとしても受け入れて共に行動してくれる。何故だろう。妹ロールプレイなのかな。
「ウォオオオオオオン!」
暗闇を引き裂くような泣き声が当たり一面に木霊する。その方向へスコープを向けると、そこにはこの時期に報告の無いジャラールという砂漠オオカミの巨大なタイプが現れた。更に群れを引き連れている。




