ネルトリゲル防衛戦の事務処理
「閣下、ルロイから使者が参っております」
色々問い質したかったが、兵士が僕を呼びに来てしまったのでデラウンの市役所を出て、近くの空き家を利用させてもらう。
使者はガノンさんからで、例の砂漠の町と共謀し物資をくすねて居た輸送の責任者を捕え即刻処罰したと言う。
砂漠の町にも愛人について連絡をし、捜査をしたが見つからなかった。ガノンさんの見解としては引っ掛けられたんだろうと言う話だった。
また次の使者は残ったベオウルフさんたちからのもので、砂漠の町の代表はベオウルフさんが選出し、イトルスとも相談してこちら側の人間を複数を派遣し町の運営に携わらせる。ミジュの町についてもミルコに間者に注意するよう促し、更にイトルスの指示で使者を向かわせ、村の運営に携わらせた。
ガノンさん、そしてベオウルフさんとイトルスの方針や行動を支持すると伝えて使者を返した後、マウロが部屋に来て負傷者などの報告を行ってくれた。
「基本籠城だったので死者は居ない」
「居ないの!? 凄いなぁ」
「向こうは明らかに籠城に不慣れなようでな。それに投石機が遅れてたのも運が良かった」
マウロ曰く、ゴブリンなどのモンスターが壁をよじ登り攻める以外は本体が門を破れず手間取っていて、その間に僕が来たのも良かったのだろうと言う。
元々来ると分かって居たので一般市民はルロイ側へ固めて避難させ、兵士たちは盾を装備して進みながらモンスターと交戦。飛んで来る矢へ上手く誘導しながら戦うと言う咄嗟の戦法にも合わせ、堪えたようだ。
「イザナ殿の指示もだが、イルヴァーナ殿やサクラダ殿たちの動きが凄まじくてな。恐らく人間相手ならもう逃げていただろうに」
元第六騎士団長と鬼の力を持つサクラダ一族の奮闘により、モンスターたちの屍が恐ろしい速度で築き上げられ、更にそれを使用して矢を得たので、こちらの矢は尽きずに打ち続けられたそうだ。
「僕が来なくても勝てたんじゃないの?」
「勝てる訳ないだろ? 向こうはローテーションを組んで弓矢隊を回し、こっちより物資は豊富。騎士団は肉弾戦も行わず、モンスターのみ中へ入ろうと味方の屍を踏み越えてくるんだからな。俺たちでなきゃ精神的に持たん」
勿論怪我人は出たし重病者も出来た。イザナさんも治療に加わり一命を取り留めた人も居ると言う。そう言う人には手当を厚くしておかないとなと言うと、ネルトリゲル側で面倒を見ると申し出ているそうだ。
「医者からすれば温泉は天然の医療だ。確実にこうだ! というのは分からないが少なくとも記録によれば体の不調の改善には繋がっているのでお願いしたいと思って居たので渡りに船だ」
「戦力の低下はどれくらいになりそうだ?」
「そうだな……十パーセントと見て良いだろう。ハッキリ言ってこれは凄いぞ? 何せ武具の差も鍛錬の差も、そして人数の差と物資の差もある相手に対して、十パーセントで抑えられたのだからな」
「ほう、マウロ先生にそれほど褒めて貰えるとは光栄だな」
「嫌味にしか聞こえないぞイザナ殿」
悪だくみ、もとい春の恐竜襲来の対応の話が済んだイザナさんが部屋に入って来た。
「残念ながらマウロ夫妻に頼る他、我が軍の死亡率を下げる手立てはないのが現状だ。優秀な武将二人を泣く泣く配置転換せざるを得ないのだ。それほどの医術を持つマウロ先生に褒められるのは光栄の至りだ」
「……まだここに来てそう日数も経っていないのでな。更新の教育を頑張るよ」
「是非そうしてくれ。医者は今のうちには幾ら居ても足りない。だが藪医者は要らん。軽症者を重症者に変えたり死を量産するような輩は容赦なく処分してくれよ」
「気軽に言うなよ。わざとやってる訳じゃないんだ。人間の体なんて何処をどうしたら良いか完璧に分かるのは神様だけだよ。勿論原因究明や倫理的な面はしっかりやって行く。但し戦争中なので目の前に居る命を救うのが優先だ。その意味では俺たち夫婦は強くていい」
「強くて良いのは良いが、そろそろ奥さんの産婆さんを呼ばなくてはならないのではないか?」
イザナさんがそう言うと、マウロは機能停止した。何と分かり易い奴だ。
「となると医者の医者が必要と言う話になりますね」
「問題無い。そちらも手配している」
分かり易い悪い顔をして笑うイザナさん。まぁ準備が万全であれば僕としては何も言う言葉は無い。その後うちの軍の駐屯場所の候補地を幾つか上げて、実際に見聞してから仮建設を素早く行うと決まる。
デラウンに住んでいる人が丸ごと居なくなったわけでは無いから、僕らが駐屯するにあたっては住居は増設せねばならない。
冒険者のブロンズ帯に仕事を出したりもするし、資金繰りについても協議をする。今回の作戦のメインは新竜神教とルロイにギブスではあるが、目的を達成した後駐屯地をどうするかによっては全額負担せねばならないので難しい問題だ。
「イトルスにもその辺りについて協議するよう伝令を出した。序にベオウルフにも砂漠の町の住民に上がお前に謀反を企てたので無償の水や物資提供を止めるとも伝えた」
「大丈夫ですか? 急にそんなのを伝えて」
「問題無い。元々無償提供している事実を住民が知らなかったのだ。その代わり前より多少安めに提供する」
こうしてこの日は事務作業に追われる。ただそうのんびりする時間は無い。やがてあの恐竜たちがこの町にやってくる。
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