ハオさんの隠し玉……!?
「なるほどそれがお前の隠し玉か。随分と正直に出して来たものだ」
ハオさんは腰を落とし肘を曲げた右腕を突き出し左腕を引いた。これがこの人の基本の構えなのだろう。僕も自分の構えを取り間合いを測る。
立ち上がりは先ほどと違い大分静かだが、少しでも隙を見せたらやられると言うのはその体から煙の様に湧き上がる紅の気を見れば分かる。
「先ずは一つ」
そう呟いたのが聞こえた瞬間、ハオさんの体は消え僕の正面に現れた。そこから流れる様に拳の応酬が始まる。
風圧が凄くその威力も容易に想像出来るので一撃も被弾出来ない。幾ら高速とは言え、二本の腕から繰り出している限りは散弾のようにはならないのでそのズレで避ける。
ハオさんの巨体に当たらないのは悔しいが今は避けられるだけで良しとしよう。隙が出来るまで辛抱強く待つのみだ。
「ふぅむ案外粘るな」
真顔のまま拳を繰り出しながら溜息を吐くようにそう言った。どうやら予想を上回れたようで何よりだ。サービスで隙を作って貰えれば文句無し何だけど……っ!
「風神拳!」
一瞬ハオさんが両腕を同時に引いて、一秒くらい間が空いたのを見逃さず即座に風神拳を繰り出す。まさかサービスしてくれるとは思わなかった。風神拳には呪力も気も乗っているし呪術法衣で能力を底上げしているからそれなりにダメージは与えただろう……いやフラグかなこれ。
「なるほどこれは参った。まさかこれほどとはな」
言葉とは裏腹に風に吹かれて飛んだ感じで下がって着地し胸の辺りを掃う。道着がボロッとしただけで体は無傷だ。多少赤くなっているだけっていうね。
「少し本気を出すぞ」
嫌だなぁ……出来ればこっちが確実にダメージを与えられるまで余裕で居てくれないと、などと考えている間に再度打ち合いに。今度はフェイントに蹴りも織り交ぜたものになり何とか蹴りの隙にと思ったけどそれすらも計算に入れた流れるような動き。
師匠の作り出した型がそうさせるのかこの人が発展させたものなのか分からないが、隙を見つけても反撃する暇を貰えない。吹っ飛ばされない自分を褒めたいぐらいだ。
このレベルの人がこれから続くと思うと中々気が重い。姉も復調してくるだろうし困ったものだ。
「くっ!」
「ぬぅ!?」
とは言えこのままでは押され続けて足元が不安定になればやられる。足場がしっかりしている今こそ反撃に打って出るべきだと考え、こちらは相手の流れに合わせて右肩を避けた右足の付け根目掛けて突き出し飛ばす。
体勢を崩した一瞬を見逃さずこちらが押していきさっきのところまで押し戻す。それでも片足で背を向けながら捌かれているのはある種のホラーだと思うしちょっと笑いかけてしまう。
「何が可笑しい?」
「あまりの凄さに」
一瞬顔が綻んだ隙を突かれて体勢を立て直されてしまい振出しに戻る。
「まだ何かあるだろう? 全部出して見ろ、勝てるかもしれんぞ?」
勝てるかもしれないのかそれは困った。負ける訳には行かないので是が非でも退いてもらわねばならない。出し惜しみする気は無いがあまり好んで使いたい手でも無い。
姉が言っていた”私の攻撃は確実にお前を捉えられるはずだ。なのにさっきから当たらなくなった”の姉側の意味が祖父の授業で分かった。呪いでも掛けて来そうな顔をしていただけじゃない。実際に呪術をこっそり仕掛けていたのだ。
それを今使いたくは無いけど使わないと勝てないのも分かっているので覚悟を決める。呪力をハオさんのところまで伸ばしてからゆっくりと間合いを詰める。
「目の色も変わるらしいな」
「自分では確認してないんですが、変わってます?」
言い終わる前にハオさんはこちらに飛び掛かって来た。が、先ほどまでと違い速度が格段に落ちていて左足を右足の後ろに回し半身になって避けながら一撃加える。
飛んで行くハオさんを逃さないよう呪力を放出し捉え続けた。
「手品に手品を重ねるとはな。それで勝ったつもりか?」
「いいえ全く。これが何処までハオさんに通用するか分かりませんが、出せと言われたから出して隙があったから逃さなかっただけです。逃した方が良かったですか?」
筋肉が破裂せんばかりに隆起し速さを増してこちらへ向かってくるハオさん。呪力で縛らなければこれをあっさり避けてカウンターなど夢のまた夢だった。
とは言え油断すれば一撃で敗北する気がしてならないので気を引き締めて対処する。何しろあの師匠の血を引いた息子だ。概念となった本体とは違うとはいえ耐性が無いとは思えない。
あとどれくらいこちらが優位に立って居られるか分からないので、少しでもダメージを重ねるべく畳みかける。
「!? 何故だ!」
予想通り呪術に慣れて速度を上げ始めた後、少しの間同じ速度で攻撃してきていたが急に先ほどと変わらない速度で攻撃を仕掛けて来た。
だが何となくそんな感じがしていたので驚かずに済みカウンターで拳を叩き込み弾き飛ばす。僕もただ攻撃を見ていた訳じゃない。速度にも慣れる。
「お、己……まさか貴様のような女性を何人も妻に迎える男に我が追い込まれるなど……許せん!」
お義父さんの中でどういう人間として見られているかが良く分かると同時に単純に勘違いなんだけどどうしたら良いんスかねこれ。
不当な非難を向けながらハオさんは更に紅の気を濃くした後徐々にそれは体を覆い始めた。
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