吉凶の行方
「お前、死にたいの?」
「どうかな」
こっちは相手の出方を待ってる。相手はどうか。動かずこちらをみて首を傾げている。
「っと」
杖を掲げる動きを見せたので瞬時に飛び退き木の陰に隠れる。元居た場所には氷の剣山が出現していた。
「おーい」
呼ばれて出る馬鹿は居ない。素早くラティを脇に抱えてダッシュする。木の間を縫うように走る。相手は恐らく遠目からでもこちらの位置が分かればあれを出してくるだろう。って言うかどういう理屈で出してるんだ? 確かに雪化粧が始まってるし風は冷たいし水源はある。けど近くは無い。
「ラティ、悪いけどマオルさんたちのところに居てくれないか? 何かあったら知らせてほしい」
ラティは暫く黙って見つめた後頷いた。僕はラティを下ろして直ぐ相手の近くを通り過ぎ更に麓から山へと上がる。草木も多いこの場所であれば目標も定まり難いはずだ。
「おーいおーいボサもじゃくーん。どこだーい」
……ボサもじゃって僕か? 確かに最近散髪してないけど。自分の伸びた多少癖のある毛を触りながらボウガンを置き、足を掛け弦を引く。
「止めた……」
標的が僕の自作のスコープに入ったけど、そのあまりの無防備さに撃つ気が削がれた。散歩か。
「あ、出てきた」
「いきなり攻撃を仕掛けて来たんで距離を取ったまでだ。で、何の用だこんな所に」
「君は?」
「僕はこの当たりを警護しているものだ」
「初めて見るけど」
「最近許可が下りたんでね」
また首を傾げる。こいつは何を知ってるんだ?
「お前うちのイースター・エッグ、壊した?」
「なんだそれ」
「紫色のやつ」
「あの趣味の悪いの君のなのか?」
そう言うと眉間に皺を寄せて一瞬頬を少し膨らませて直ぐ止めた。
「お前の所為でボクが来なきゃならなくなったんだよ? 数量調整も終わってないんだから止めてよね」
「モンスターや動物の数を調整しているのか?」
「当然。世の中は絶妙なバランスで成り立っている。これでも細心の注意を払ってやってるんだ。君らが可笑しな真似をする所為で出張ってきてるのに」
……こいつは一体何者なんだ? ウルドさんの仲間じゃないだろうし。
「あんまり怒ってないみたいだね」
「別に怒りはしないよ。誰もが平等なんて自然の前では有り得ない。そんなのを口にする奴は夢の中にでも住んでいるんだろう。そうありたいと努力するのは良いと思うけど、結局は誰かが不平だと感じる」
僕の答えにまた首を傾げつつ、にへらっと笑う。薄気味悪いな。
「じゃあ良いや。ボクたちは別に楽しくてやってる訳じゃないんだ。これも仕事なんでね。お前……じゃない君、冒険者?」
「そうだ。康久っていう冒険者だ。最近ここに来た」
正々堂々なのるとまた首を傾げる。癖なのか?
「……まぁ良いや。君も気を付けると良い。原住民側がバランスをひっくり返そうとしたら、ボクたちはそれを止める。それが意思だから」
「星の意思か?」
目を見開いて僕を見る。そして相手の周りの木や草に霜が降り始め、冷気を纏い始めた。
「君、危ないな。何を考えている?」
どうする? ここで正直に答えれば戦いになる。必ず勝てる気はしない。不死だから最悪氷付けのまま生き長らえないといけない。ただここで逃がせば次いつ会えるか。こいつから星の話を聞ければ、一気に御題をクリア出来る可能性がある。……博打だなこれは。
「その格好からして国の要請ってのは無いだろ? 他に大きなものはそれしかないって話だ。神様が居るとは思えないし」
今は留守だろうからね。僕はそう伝える。暫く見詰め合うと、次第に冷気は消えていく。
「そうか……この格好も問題あるんだね気付かなかった」
「隠密でやるならもっとこの世界の格好した方が良いかもね」
また首を傾げる。が、今回のは明らかな僕のミスだ。この世界の格好とか言い方が不味い。訂正するとドツボっぽいので敢えてスルーする。
「まぁ良いや。君に興味が出た」
「忘れてくれ。平穏に生きて居たいんだ」
冗談ぽく言ってみるがガチ本心だ。ほっといて欲しいし、こっちが有利になったら改めて出て来て欲しいと願わずには居られない。
「また会うよ冒険者……いや康久。ボクはシュリー。覚えておいて損はさせないよ?」
ニヤリと笑いながら霧のようになって姿を消した。
「嫌なこった」
魔法魔術は無いって聞いてたのになぁ。それとも種とか仕掛けがあるんだろうか。気になるのはやはりバランサーだって発言だ。星が彼らを使ってやっているのかそれとも彼らが勝手に星の意思を汲んでいるのか。
「考えても答えが今は無いから仕方ない。帰ろう」
僕は一つ息を吐いて空を見上げた後マオルさんたちのところへと移動した。




