師匠とクロウとこの世界
「全く間の抜けた話よな。自分の過ちを繰り返させまいと、後進の指導に生涯を掛けたと言うのにこの様とはな」
「師匠は魔法使いなんですか?」
僕の問いに師匠は教えてくれた。昔、向こうで大きな戦争があり師匠の国は小さかった。だが世界を統一するのは自分たちだと信じてやまず、国のリーダーに率いられ世界中と戦った。師匠も自分の命を懸けて戦ったと言う。
自分たち以外は例え同じに見えても同じではない。だから何をしても良いと言う思想思考に囚われ、勝つ為に未来を掴む為に、惨いことを沢山したようだ。
「まぁ……今こうしているのはその罰でもあるだろう。ワシが良心の呵責など覚えなければ、こんな罰も無く消滅していたかもしれん。だが生憎ワシも魔法使いなどと言われていても所詮はただの人間じゃった」
戦争は師匠たちの国が負けた。だけどそれを受け入れられずに師匠はゲリラ戦を展開。そんな時、師匠の師匠たる人に出会い全く歯が立たず、完膚なきまでに叩きのめされ遂に捕まった。
敵側に捕らえられ拷問を受けるも耐え、一切の口を割らなかった師匠。しかし身内や上司からの密告などによりその所業が明るみに出る。
今まで身内や上司、それに民族の為国の為に戦って来た。それなのに皆信念無く自分を売ったという状況に、師匠も心が折れてしまう。
「ワシの師匠はその後”ただ殺しただけでは、亡くなった者たちに対して今を生きる者たちの自慰行為でしかない。コイツに彼らが味わった苦しみを味わわせ、それに対する後悔の念を抱くまでにならなければ意味がない”と言ってワシを連れて世界中監視付きの旅に出た」
師匠はかなり古くから続く家の人間で、魔術の研究もしていた。そしてそれを使って自分の国のリーダーを不老不死にする研究をしていた。
なので基本肉弾戦よりは頭脳戦が得意だったが、師匠の師匠はそれを全て捨てさせるように日々鍛錬に明け暮れさせ、人助けをさせ人に触れ合わせて行く。
最初は自分以外の民族など汚らわしい滅ぼすしかないとすら思っていたしいつか鍛えてリーダーの復讐をと考えていたのに、人に喜ばれ感謝され別れを惜しまれ惜しみ悲しみ悲しまれながら次の町次の都市次の国へと行くうちに自分の掌の小ささを知る。
「師匠の御蔭でワシはやっと人間に慣れた。振り返れば魔術の研究には倫理や人を思う気持ちなどよりも探求心や渇望力こそが大事だと教えられて来た。自分の為の盛大な自慰行為でしかない。それで結局辿り着ける真実など小さな小さなものなのになぁ」
魔術も人が居てこそのもの。何れ辿り着ける場所にも皆の糧、人類の種があると師匠は考えるようになりやがて贖罪の為に研究資料を全て引き渡し知ってるものを全て教える代わりに、人を救い護る為に研究をさせて欲しいと自分の師匠に頼んだ。
それが魔術師会という組織の始まりだと言う。魔術師と言えば独りよがりで倫理も無く自分以外を何とも思わない者たちが多く、そう言った者たちを援助する代わりに監視し導いていきたい纏めて居れば何かあっても対策がしやすいと提案した結果、多くの賛同を得て設立。
初代会長に師匠の師匠が就任し魔術師集めに奔走。一癖も二癖もある者たちを何とか言葉巧みに取り込み子女も学校を作りそこへ招いて形になって来たところで師匠の師匠が亡くなった。
ある予言を残して。
「亡くなってから暫くして師匠からワシ当てに手紙が来たんじゃ。どうやら亡くなる前に出したものらしいがそれにはただ一言、Beware of Hardshipとだけ書かれていた。変な言葉じゃが苦労するから頑張れと言いたかったのかと思ったがまさかカタカナとはどんだけ捻くれてるんだと怒りが湧いたわい」
亡くなって暫くしてから師匠はクロウと出会う。容姿端麗で頭脳明晰。魔術師などならなくても十分世界トップレベルになれる男は家庭環境が良くなく魔術師としても比較的新しい家でコンプレックスが強く自分の魔術にも自信があり執拗なまでの拘りを持っていた為魔術に執着していた。
師匠はそれを導こうと温かく見守りながらも時に厳しく教え長い時間を掛けてその性根を真っ直ぐになるよう共に過ごす。
「あれもコンプレックスをそっと仕舞い親になり優しい人になった。何れはワシの跡をと思っておったがその息子が溢れんばかりの素質を攻める様に病弱でな。もう余命幾ばくも無いと言う時にアレの仕舞っていたものが目覚めてしまった」
クロウは自らの魔術を魔法に昇華する。それは複写。あらゆるものを寸分違わぬ形で複写し具現化出来る力でクロウの持って生まれた才能と底なしの魔力があって初めて実現出来る力。
この世界は以前からクロウが自分の研究テーマである”この世界は何処かの知的生命体の箱庭”という説を立証する為に作られた。
師匠が代々受け継いできた魔術を戦争中に得た実験で昇華した魂転移の魔法にも目を付けあの手この手で協力させようとし、息子の話などで同情させたりと師匠の情にも頼り遂にはこの世界の成立にも協力させた挙句最後にはその魔法をも奪い取ったようだ。
「あれのやろうとしていることは”自らを一点の曇りも無い存在として転生させること”血筋も家柄も資産も両親の性格も完璧なところに生まれ最高最強のスタートを切る」
師匠の話を聞いて唖然としたし少し笑ってしまった。それは僕らのような無職の引きこもりが願うような話だなと思ったからだ。
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