悲しき黒
「変身する時間をくれてやる。さっさと変身しろ」
「変身? する必要あんの?」
キッと睨んだ後羽ばたき始めたので即間合いを潰し驚き急いで浮き上がったものの飛び上がり腹に勢いそのままに蹴りを入れる。
想像以上にダメージが入ったのか目を丸くして驚きながら浮遊する黒竜。から笑いをしながら更に上へ羽ばたいてからこちらへ向けて滑空して来る。
正面からのを避けた後地面を蹴り角度を変えてこちらに追撃して来た。あんなのは体がとても丈夫だからこそできる技で普通なら足の一本や二本急ブレーキをかける為に折れてるはずだ。
こちらも驚きはしたもののそれならそれで頭に入れ直し避けながら攻撃を入れる隙を窺う。出来ればすれ違いざまに一撃加えたいけど風圧で難しく下手をすると巻き込まれて隙が出来る。
ただ向こうも埒が明かないと思ったのか手を伸ばして掴もうとしたり尻尾を伸ばして来た。
「頂き!」
「何んだと!?」
こちらに気を取られすぎて自分の速度を忘れバランスを崩した一瞬を見逃さなかった。すぐさま間合いに飛び込んだがあちらもそれを見逃さず尻尾で払おうとしてくる。
それに対して拳を素早く当てた後即引いて再度叩きつけて完全に勢いを殺し綱引きの様に尻尾を掴んでそのまま振り回し暫くしてから飛び上がり背負い投げするように地面へ叩きつける。
大きな振動と砂埃を上げて地面に仰向けに倒れた黒竜。気を失った訳では無いようだが直ぐには立ち上がらず間があってからのっそりと立ち上がった。
「確かに貴様は強い……だが貴様のような奴が神竜姫を助けようなど烏滸がましいにも程がある!」
「……なんて?」
目をギラつかせながら叫ぶように言う黒竜。神竜姫が何かは知らないけど話の流れ的にラティを指しているようだ。
「神竜姫だ! アイツは神に見初められた竜だったのだ! それが何を血迷ったのか人間を飼う異端児が作った宗教などに与するなど……弱みを握られたに違いない!」
「竜って群れるものなんだな……それとそのネーミングは君が付けたのかい? ……風神拳!」
僕が尋ね終わるのも待たずに口を開き炎を吐き出して来たので風神拳で迎え撃つ。炎を全て吹き飛ばした上で口の中へ風を叩き込んだので黒竜は仰向けになって倒れた。
幾ら竜でも口の中を攻撃されれば一溜まりも無いだろう。流石にこれで終わりとはならなくても大分ダメージを与えられたはずだ。
人の話は最後まで聞いてから喋りましょうっていう良い経験になっただろう。僕は止めを刺すのもダルいのでそのままホクヨウへ進む。
久し振りに成長した僕を見て欲しいし青白い炎を身に着けたからそれでどこまで迫れたのかも知りたいのでワクワクしながら足取り軽やかに歩いていると
「うおおおお!」
後方から雄叫びを上げて突っ込んでくる者が一匹。確実に倒したいなら声を発さずにくれば良いのに五月蠅い奴だ。
「ぐあっ!」
ティアの声に反応して大きく横へ飛び退く。さっき居た場所に黒いのが突っ込み地面にめり込んだ。
「ティア、どうしようか」
「ぐああ……」
僕らは突っ込んだまま頭が抜けず苦心している黒竜の横で腕を組んで見守りながら考えたけど、このままだと情けない状態でやられかねないから可愛そうなので助け起こす。
「おーい、せーののタイミングで引き抜くからお前も動けよー」
「@¥*?_=!」
地面の中で何かを言ってるらしいけど何にも分からない。その上体をじたばたさせ始めたので面倒になって来たから止めようかとも考えたけどそれも面倒なのでさっさと終わらせるべく右側面へ回り込み
「いくぞ! せーのっ!」
強引に合図を出し角と顎を掴んで内股を掛けるような恰好で引き抜くべく力を入れた。
「ッシャア!」
「んぐぉ!?」
黒竜も両手を地面について踏ん張ったが抜けず案外しぶといなと思って更に力を加えるべく右足を顎に当て左手を顎から首へ右の角はそのままに内股を掛ける。
そしてやりながら思った。慣れない技を出す時は力を入れ過ぎない方が良いんじゃなかろうか、と。
「え?」
「え?」
頭が地面から出てゴロゴロと転がり尻餅をついて止まる黒竜。抜けたのにホッとして顔を緩ませた後不敵な笑い声を上げて立ち上がろうとした。が、よろめいて再度尻餅をつく。
それから何度か挑戦するも立ち上がれず明らかに目が動揺し始め人間だったら血の気の引いた顔をしていたんじゃないかと思う感じになっていた。
僕は言おうか言うまいか迷った。何せ全く狙っていないとはいえ僕にも責任の一端はある訳で。ただ口にするには少しバツが悪いと言うかなんと言うか……。
「は?」
僕はおっかなびっくり首を変な方向に曲げてみる。それを見て黒竜は何してんだ見たいな顔と声を出したものの少ししてハッとなり首を触る。
そんなに長くない首の先にある自分の頭が傾いていたのに気付いてから笑いをしながら戻そうと両手で動かすも戻らない。
断定できないけど多分首の骨が……ね?
「ああああああ!」
断末魔のような雄叫びを上げて泡を吹きながら卒倒する黒竜さん。ついでに顎もと言いかけて怖くて言えずティアと共に黒竜さんの傍に恐る恐る近寄って気を失っている内にティアにも手伝ってもらいながら元の位置に戻しつつ左手を当てて気を送りその場を後にした。
黒竜の為にもラティは必ず助けると心に誓い僕らはホクヨウの町へと入るのだった。
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