苦い記憶からの使者たち
骨組みを見た記憶があるけど背骨は腹と違いダイレクトにダメージが通りそうだと感じたのが当たったようで気が触れたように暴れまわるフクイラプトルもどき。
今突っ込むと予測不可能な動きをしてこちらが危険なので放置して様子を見る。暫くして痛みが引いたのか再度こちらに目を真っ赤に息も粗く唾を巻き散らして突っ込んで来た。
「風神拳!」
あまり長くも構ってられないので構えを取り風神拳を放つとそのまま吹き飛ばされ、先にあった岩に激突し気を失ったのか動きを完全に停止させた。
僕とティアはそのまま先を目指す。このままホクヨウまで簡単に行ける筈は無いとは思っていたものの
「今度はお前かよ」
目の前の地面を隆起させ木を吹き飛ばしてこちらに突き進んでくるのは恐らくフクイラプトルもどきと一緒に出て来た例の殻付きの強化ミミズだろう。
足元で隆起したので飛び上がると追い掛けて口を開きながら顔を出して来た。僕はその口の中目掛けて
「風神拳!」
叩き込んだ風は体に入り進んで行く。強化ミミズは僕を追うのを止めて地面に倒れ込み更に地面に埋まっていた体を跳ねて露にした。
その隙を見逃さず落下する重力も味方に付けて頭部へ思い切り拳を叩きつける。地面と僕の拳に重力と挟まれ逃げ場が無くなった圧で頭が破裂しその瞬間直ぐに側の木に隠れ飛沫を免れた。
「そんな雑魚を殺して楽しいかい? 坊や」
殺気に気付き横へ飛び退くとさっきいた木が切られ倒れる。その木を切った人物を見てどうやら最終試験とやらは冗談ではないらしいと思い始める。
「アンタ生きてたのか。よく僕の前にこれたな」
「俺も忙しくてね。今回は確実にその命を貰う」
その男は背中に大きめな盾と穂先が十字になった長い槍を背負った黒髪で長髪細面の男で、忘れもしない御爺さんと初めてあった砂漠に現れた黒白鳥団の一員だ。
「寝言は寝ていえ。風神拳!」
僕の必殺技である風神拳は最初こそタメが必要だったけど今は流れるような動作で素早く完了させ打てるようになった。
「調子に乗るなよ小僧!」
一人目を吹き飛ばした後、背後から声と共に矢が飛んで来たのでそれを避けて木の陰に隠れ一息吐くも、殺気を感じてその場を離れ他の木へ移ると元居た場所の木は切り刻まれていた。
その殺気はこちらに向かって進んで来て再度木を切り刻む。今度はその正体を見るべく少し距離を置いただけに留めると、黒い装飾がきめ細かいプレートアーマーを着た人物が大剣を振り回している。
「驚いたな……よく僕の前にその姿を晒したな自殺願望があるのか?」
「ぬかせ小僧が!」
矢を避けた後間合いを詰め更に斬撃を避けて一撃叩き込む。ガン! という音が森に響きそれに合わせて矢がこちらへ向けて飛んで来るもそれを避ける。
「くっ!?」
「気配を殺したつもりだろうが……!」
矢と剣から避ける僕の様子を窺いながらその隙を探っていた男が居るのを分からない筈は無い。ここだと言う時には誰しも殺気を放たずには居られない。
暗殺者などは別なのかもしれないがそれでも微弱な気の動きも見逃さないよう鍛錬を積み重ねて来た僕は見逃さない。背後に来たところを素早く体を入れ替え左右に持ったナイフを落とさせるべく手首を掴み強く握ってつぶす。
「糞ッ!」
「返すぞ!」
落としたのを確認し背中を強く蹴り飛ばしてプレートアーマーへ渡す。あまり印象に無いがあの男もお爺さんが殺された現場に居た一人だろう。
まさか初期に現れた敵が勢揃いとは……僕のメンタルを狙っての試練なのだろうか。
「ぐあ!」
後頭部にしがみ付いているティアが顎で僕の頭を小突いた後声を上げたので後ろへ飛び退く。矢が地面に突き刺さるのを見て驚く他無い。
こんな視界が悪い森の中で弧を描くように矢を僕に向けて正確に飛ばすなんて優秀過ぎるだろ。是非とも戦力に欲しいなぁ。
「死ねぃ!」
「アホか!」
振り被りながら駆けて来て振り下ろす黒プレ鎧さん。戦の中なら良いんだけど一対一でそれは当たらないと思うんだよな。となると僕を誘導しようとしてるんだろう。
何にしても先ずは弓を叩いておきたいので即座に気を張り弓の位置を探る。この視界が悪い森の中で長距離射撃は無理があるのでそう遠くはないだろう。
そしてコイツらは元々種の保存とか言ってデラウントナカイなど珍しい種類の自分たちより少し強いかかなり下の動物を捕えていた。
となると弓を使ってる奴は罠を張るのが得意だと思う。立ち止まり石を数個掴みばら撒いて見るとあちこちでガチンと音がしたり何かが落下したりした。恐らくトラバサミやロープで吊るした布か何かが落ちたのだろう。
「そこか!」
木の枝に飛び上がり小さい気が一つ移動しているのを見つけ思い切り石を頭部へ投げつけるとガツンと言う音と共に呻き声が聞こえた。
「おのれぇ!」
僕の居た木が切られ倒れるも直ぐに別の木に移って安全に降りる。恐らく戻れば罠が多く残っているだろうから前に行く他無い。
そして嫌な記憶だが思い出す。コイツらは確か五人居た筈だ、と。
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