悪役は大抵欲張り
「やはり上はこの町を直接管理する為に下調べに来たに違いない」
「俺たちは一体どうなるんだ? また何処かへ行かされるのだろうか」
「家族もやっとこの町に慣れて来たのに」
今も竜騎士団だけど最早竜騎士団とは言えない状況に追い込まれている彼らからすればここに第三騎士団が常駐するとなれば騎士団員の更に下に直接置かれる。
そうなれば今よりも酷い扱いになるのは火を見るよりも明らかだ。退職勧奨どころのはなしではない。暗黙の了解でそうしていたけど我慢すれば何とか生活出来る場所を奪われると思ったら気が気じゃないだろう。
「落ち着くのだお前たち!」
「そうだ君たち! 今までブラヴィシ様の御加護そして竜神教の御蔭で生きてこられたのではないか!」
「だから大人しく従えって言うのか!」
「家族はどうなる!」
「うちの子供は病を患っていてこのまま竜騎士団から解雇されれば治療が出来なくなる……」
デュマスデュロス兄弟は広場の真ん中に立ち他の人たちを宥めるべく声を掛けていたが彼の言葉には押し黙るしかないようだ。
竜騎士団は高給でその給料を当てに治療をしているのか竜騎士団の治療施設を使って居るのかは分からないが解雇や退職をすると不可能になるんだろう。
デュマスデュロス兄弟としては今同じような状況でそれを大丈夫だとは言えない。言ったとしても嘘だと言われれば返す言葉も無い。
「最早進退窮まったな。どうするか決めるべき時が来たんだろう」
「どうするとは?」
誰かが言った言葉に対して他の者が問うと皆静まり返る。問うまでも無い問題だと分かっているからだろう。
このまま退職に追い込まれるのを座して待つか今の流れに乗って反旗を翻すか。
「そう言えば大司教が会いに来た野上康久は何処にいる? 彼に相談してみてはどうだろうか」
「な!? ならん! それだけはならんぞ!」
デュマスがそう声を上げるも皆無視して僕は何処に居るかと言う声があちこちであがったので不味いと感じ一旦路地に入りそのままルナたちと合流すべく町を出る。
今ここで彼らに介入して反旗を翻せばそれを支えるべく戦わなければならない。そうなると竜の都へ行くなんて夢のまた夢になる。
僕としてはラティを救い姉をぶっ飛ばす為にも竜の都で得られる方法を会得しなければならないしそれが今一番したい。
「おい! こっちだ!」
北ルートへ入り少し走ると聞き覚えのある声がしたのでそちらへ向かうとサクラダたちがキャンプを張っていた。
「久しいな」
そこには懐かしい人が三人居て後ろには撃退したであろう竜騎士団の騎士が転がっていた。
頭の上でお団子にしかんざしを挿した白髪で気品のある御婆さんと長い白髪をオールバックにし口髭顎鬚も長く、赤いちゃんちゃんこに下は茶色の着物を着た目の細い御爺さんがお眠になった日輪ちゃんが寝転がっている布団の両端に居て大事そうに撫でながら微笑んで居る。
声の主はその後ろで腕を組んでいるものの日輪ちゃんを愛おしそうに見つめていた。竜人にも負けない巨体に浴衣の様な柄の着物を着てその胸元は鍛えられた胸板が隠しきれていないほど厚い。眉毛は太く目も鋭く長い髪は頭のてっぺんで纏めて結わいている。
「御久し振りですヒショウさん、それにヤグラさん夫妻も。お元気そうで何よりです」
「お前さんもな。随分と立派になって」
「いやいや偶々周りが優秀だっただけですそれより後ろのは」
ヒショウさんとヤグラさんは見た目は変わらないけどヤグラさんの奥さんである御婆さんは一年ぶりくらいだけど苦労の所為か年が増えたように見える。
「案の定この子を狙って来た」
「抜け目ない連中だぜ。お前さんに用があると見せておきながら駄賃代わりに日輪を連れて行こうとしたのさ」
ヒショウさんとヤグラさんの話によるとネルトリゲルから隕石が無くなり鬼たちも消えた後、竜神教が接触して来て研究に協力して欲しいと言ってきたらしい。
その後も何かにつけて血液を得ようとしたり身柄を拘束しようとしたりしてきたので町を出たのもあるようだ。
「鬼の力は感染したりはせず遺伝のようなもの。どうやら私の魔術を研究しようとしてそのサンプルを必要としていたようだ」
「特にこの子はいけねぇ。恐らく症状が無くなってから初めて生まれた子供だろうから奴らも喉から手が出るほど欲しい筈。この年齢でこの成長はエルフのそれと似ている」
ヤグラさんの言葉にはっとなった。確かに考えればサクラダが子供を作ったであろう時期はそんなに前では無い筈だしそれにしては日輪ちゃんの成長は早すぎる。
サクラダの奥さんが体を悪くしたのは元々規格外になった上に更に変化した種となる子供を出産した弊害が出たんじゃないか?
「一刻も早くここを離れてルロイに身を寄せてください。どうにも嫌な予感がする」
僕の言葉にサクラダ一家はうんとは言わない。自分たちの故郷だから離れにくいのは分かるけどあっちがヒショウさんたちを狙っているんだとしたらそれは不味い。
町の人たちを人質に取られたら抵抗する訳にも行かないだろうし。
「日輪ちゃんの為にも一度ルロイに行って下さい。大和にあるサクラダたちの村も気掛かりだ。サクラダの留守を狙って何かしないとも限らないし」
「確かにそりゃ不味いな……」
「恐らく帰った方が良いのじゃ」
それまで目を閉じ座っていた玉藻が目を開くと瞳孔が開いて体を一瞬光らせた後そう言った。
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