ネルトリゲル到着……?
僕はそう言った後でナイトルの部下たちにナイトルに施したのと同じような方法で処置し意識を取り戻した後
「今夜は互いに何も見なかったと団長と合意した。お前たちの命と引き換えにな」
と告げて縄を解くと逃げる様に去って行った。
「何処まで信用できるかねぇ」
「向こうから春までって言うからには元々攻める気は無かったんだろう。ここに来たのも最近こっちが北ルートを散策しているから偵察しに来たって感じだし」
前は玉藻の御蔭で気付いたが今回は僕でも捉えられた。ナイトルも完璧では無いにしてもこの手の専門家にしては迂闊だったように思う。
だからこそ余計に不意を突かれたんだろう部下も全く反応出来ていなかったし。
「そっか。まぁ俺たちがネルトリゲルへ行くまで安全ならそれで今は良いしな。臭いからしてもうこの辺りに敵対しそうな生き物は居ないからひと眠りするとするか」
サクラダの言葉を信用した訳では無いけど寝ておかないと明日はネルトリゲルに入るので寝不足は不味いので再度気を張った後で寝る。
朝ルナたちが起きるまで特に何も無く起床して片付けた後で朝食を済ませて一路北ルートの端を目指して進む。
昨夜は三人と一匹はぐっすり寝ていて何も気付かなかったらしく一応事情は説明したものの何も無ければ問題無いという豪快な答えに朝から皆で笑い笑顔でその場を後にした。。
お香の効果もあって難なく昼前には北ルートの出口に到着。丁度デラウンの北西の峰に登り辺りを見回す。
「懐かしい……日輪、あれが俺が活躍していた町だよ」
「ふーん」
日輪ちゃんはサクラダに肩車されて町だけじゃなくあちこちを興味津々に見回して楽しんでいるようだった。
ナギナミの自分の村しか知らない彼女にとっては全てが新しく興味を引くものばかりだろう。そしてうちにも妖狐から人型へと変わったのが居るがこっちは大分大人しい。
「玉藻は物珍しくないのか? 一応異国だけど」
「残念ながら暇潰しに野を駆け海を渡っておったから特に珍しくはないのじゃ今のところ」
まぁジッとしてるような性分ではないから不思議ではない。ちなみに今は書類仕事やら畑やら最近はルナに習って裁縫まで始めたので全く暇ではないと胸を張って言う玉藻さん。
「ネルトリゲルへ行ったら少しは驚いて貰えるだろうさ」
サクラダはそう言って山道を下る。ネルトリゲルは元は隕石を名物にした温泉街で訪れた時は大分寂れていたがサクラダ曰く元は食べ物も美味しく賑やかなところだったようだ。
隕石も鬼も奇病もないなら復興している筈と言うサクラダに続いて山を下りネルトリゲルまであと少しという看板の前まで来た。
「何か嫌な臭いがするな」
「これは近付きたくない臭いがするのじゃ」
北風に乗って腐ったような臭いが僅かに混じっているのを感じ怯んでしまう。特に玉藻は鼻が良いので僕の倍は辛いんじゃないか。ナギナミにも天然温泉はあるがここまで強い臭いを感じた覚えが無いんだけど。
「おぉ懐かしい! やはり再興してるようだな!」
「どういう状況なんだ? あの時こんな臭いはしなかったはずだが。ネルトリゲルの中ならまだしもまだ距離があるのに」
「俺の予想だが温泉を増やしたか拡大したんじゃないかな客が増えて」
サクラダはジッとしてられないと言わんばかりに早歩きしだし暫く進むと走り出した。幾らサクラダと言えど故郷は特別なもので逸る気持ちを抑えきれないらしい。
僕たちは警戒しつつもその後を追う。もうここは敵の支配地域だ。ナイトル以外の団長や竜騎士団といつ遭遇しても可笑しくない。
暫く道を進んでいると賑やかな声が聞こえてくる。サクラダの希望的観測が現実になるのか!?
「おおおおお!」
サクラダは日輪ちゃんを肩車しながら入口に辿り着きその光景を見て雄叫びを上げながら両拳を突きあげる。
それに日輪ちゃんが驚いて泣き出してしまったので急いで下ろして抱っこする。初めて訪れた異国で父親が急に叫んだらそりゃ驚く。
「それにしても凄いわね。やけっぱちって言うのかしらこういうの」
「捨て鉢と言った方が良いかもしれぬな」
まぁ僕も驚いたけどね何だこれ。温泉の町ネルトリゲルへようこそと書かれた看板の先にはどうやって歩いて先に進めば良いのか悩むほど至る所に温泉が出来ていた。
「いらっしゃいませ。お客様は何名様ですか?」
「あ、えっと五人と一匹です」
「では五人分料金を頂きます。旅館に泊まったり食事をする際は料金を頂きますが温泉に入るのに料金はここ以外掛かりませんのでごゆっくりどうぞ」
料金を払い終えて温泉の淵を歩いて先に進む。サクラダは相変わらず入口で感激して止まっているので放置する。
ちなみに入り口付近の温泉は浅く足湯みたいな感じになっているようだ。辺りを見回すと前に来た時とは全く違いとても綺麗で人も賑やかだ。
来る前に聞いていた騎士団長を失った竜騎士団たちの流刑地みたいな嘘なのだろうか。
「いらっしゃいいらっしゃい! お兄さんたち宿はお決まりですか!?」
足湯温泉街を通り抜けると今度は宿屋やお土産屋食事処が辺り一面に広がる場所に出た。そして客引きの人に声を掛けられたので見ると明らかに似つかわしくないような体格をした人が客引きをしている。
「あ、あのー」
「何でしょう! お安くしておきますよ!?」
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