マウロからマウロへのバトン
「後の世の人を多く救う為に被害が出そうなところに赴くしかないとは皮肉な話だ」
「因果なものだが後の世も救えずこの世も救えないよりはマシだろう」
確かにその通りではある。偉大な方のマウロ先生の御蔭でカイテンの怪我や病による死亡率や重症化率は減少した。
エルフの里からマウロ先生が来てくれなかったらこの世界の医学の発展はもっと遅かったに違いない。薬草の研究なんてしなかっただろうし、魔法や魔術を取り上げられてしまった世界で弱い人間が生き残る可能性はもっと低かっただろう。
「先生には感謝しかないな」
「そうだな。あの人の名を付けられてプレッシャーでもあるが何とか負けないよう頑張るしかない」
マウロはそのマウロ先生から取って付けられたと聞いたし縁があって先生の元で修業もしていたから後継者と言う意味でも気負ってしまう部分はあるだろう。
「頼りにしているよこっちにはマウロ先生のところのレベルまではいってない。医者は勿論居たが未だ神に祈る類の人もいるから」
「なるほどそれは大いに役立てそうで良かった」
マウロが言うにはルナたちの施設を接収して作成したであろう麻薬に関して調べたが誰かのレシピを模倣しようとして失敗した物と考えているらしい。いくつも瓶を集めて成分を調べて見たが全部配合量がバラバラなのがその証拠だと言う。
恐ろしいのはそれが正確に完成されたものであれば動物レベルにまで思考能力を低下させられると聞いて背筋が凍る思いがした。
「はっきり言って解毒するようなものは無い。脳にダメージを与えるだけで下手をすればもう二度と考えるという行動を取れなくなる」
「自然に外へ排出したところで意味が無いか」
「出るのは植物由来の成分だけだ。脳に潜伏したそれらを完全に取り除く物質や技術があるとは思えんし今は確実に無い」
先代マウロ先生が持って来てくれたエルフの里で蓄積された医学の知識によって生成された麻酔薬によって危険はあるものの全身麻酔の手術が行えそれが各地の医学知識と良識ある限られた者にのみ指導。
その製法は門外不出であり今現在大病で患者と縁者の同意があって初めて行える手術に飲み用いられる。戦場に赴く際には遺書の他に手術の同意書もカイテンでは書くようになってた。
「体の機能を一時的に麻痺させてその間に傷を縫合したり体内の病巣を除去する際にも内臓を傷つけたりして治療する訳だからそれなりのリスクはある。何れそう言うのが無くなるような世の中になると良いがな」
「相変わらず真面目な話してんのね!」
僕らの横で仁王立ちするパティアと玉藻とティア。悪い影響を受けなきゃ良いなと思いながら料理が出来たと言う良い知らせを持って来てくれたので感謝し皆で食卓を囲んだ。
間違いなく姉が何らかの細工をしていたのは間違いないしそうなると碌でもないものが混ざっているのも間違いない。
その根っこを断つ為にも大和はこちらに鬼童丸を派遣してくれているのだからこの一帯からあちらへ行かないようしっかり見張っておかなければと決意を新たにする。
「何だ今日は客が来ているのか」
「ただいま帰りました姫様」
その鬼童丸と美影さんが帰って来て我が家の賑やかな様子に唖然としていた。タイミング良く全員揃ったので一緒に食事を取る。
「何と医者が来てくれたのか! それは助かる」
「お役に立てれば何よりだ。我々としては後の世の為より多くの人を治し記録する為に前線に来たのだから限度はあるが治療がある時は声を掛けてくれ」
新マウロも何だか落ち着いたなぁ。初めて会った時は差別主義者丸出しの奴だったのに先代の死というバトンを受け取り人が変わったように背筋を伸ばして走っている姿は頼もしくもある。
お互いのこれまでなどを話しながら食事は進み全てを平らげてから町にある銭湯へと足を向け、皆それぞれの布団に潜り数える間もなく夢の中へと移動した。
「起きてくださーい!」
僕の部屋はパティアと美影さんが使い僕と鬼童丸にマウロは居間のソファを倒したりテーブルをどかして布団を敷いて寝ていた。
「……何だ一体」
鬼童丸もマウロも起きたが僕が二人に向かって掌を向けて立ち上がり玄関へ向かう。扉を開けるとイトルスが立っていた。
「どした朝早くから」
「すいません出来れば登庁までお待ちしようかと思ったんですがどうやらどちらのお年寄りも睡眠時間が短いらしく素早いやり取りで決定したものをお伝えに来ました」
「モノイエから使者が来たのか?」
「はい。閣下がモノイエに行った件に関する簡単な報告は受けて皆把握していましたがまさかこんなに早く来るとは」
「確かに早いな。で、内容は?」
「簡潔に言えば同盟を結ぶから調印式をと言う連絡でした」
形式的な流れは省いてさっさと調印式しましょうというのは豪快だなぁと思いながらも目覚めの報告としてはとても気持ちが良いものでモノイエ市長には感謝しかない。
二日後の調印式を提案してきていてガノン市長は了承しこちらからモノイエに出向く旨を伝える使者を早速向かわせたようだ。
「僕が警護に?」
「はい。向こうからの御指名だそうですので宜しくお願い致します」
「喜んで。朝早くから報告有難う」
「いえ。では朝食までゆっくりくつろがせて頂きます!」
「お前それで来たんじゃないだろうな」
「当たり前ですよやはり気心知れた場所での朝ご飯は格別ですからね」
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