モノイエ再訪
状況が状況だけにこっちから気軽に話しかけるなんて出来る訳も無いので受け答えするだけだ。二人ともとても楽しそうに鼻歌を歌いながら歩いているけどこっちはそんな気分になれる訳も無く警戒しながらルロイ市を出てモノイエに向かう。
「しかし今日も良い天気ですな」
「そうだな。もうそろそろ雪も降る時期に入るから呑気に歩いていられるのも今の内だろう」
他愛もない雑談をする二人の後ろに警戒を怠らずに付いて行くも何とか何事もなくモノイエ市まで辿り着いた。
「ではな」
「有難う御座いました!」
モノイエの港にはカイテンの船が着いており兵士も多く乗っていたので僕は安心して見送った。船は直ぐに出港し見えなくなってから波止場で腰を下ろす。
疲れた……精神的なものが凄かったが自分で事態をややこしくしていたから自業自得だというのは分かってる。
少しくらい怒られた方がマシだった上に労わられたのが逆に効いた。怒られないのが辛いとか初めて味わう感覚だ。
「なんじゃこんなところで黄昏おって」
不意に声を掛けられたけど振り向く気にもなれなくて去って行った船の方向を見続けていると何か大きなものが隣に座った。
何かと思い横を見るとジュストコールを羽織り黒のスラックスにブーツを履いた大きなお爺さんが居た。真っ白な口髭顎鬚をたっぷり蓄えたのを見て思い出す。
「モノイエ市長……!? ど、どうしたんですこんなところで」
「そりゃこっちの台詞じゃろ。隣の市の重要人物が何も言わずに来て隣の国の要人を送ったとなればワシに報告が来ないはずはあるまい」
そう言われてそりゃそうだと納得する。良い意味でも悪い意味でも僕は有名人だろうし市長にも一度お会いしてるんだから報告も行くだろう。
「すいません何もかもが急でお伺いも立てず」
「カイテンの方は事前に連絡が来ていたがお前さんたちとは連絡を取り合うような関係には今のところ無いので仕方ないじゃろ。そちらもまだまだ落ち着いたとは言えないじゃろうし」
隣の市だから当然密偵や監視を出しているから状況は把握済みだろうし、ここで交渉の感触くらい掴んで帰りたいところだけど無言で来た無礼の上塗りは出来ないので謝罪だけして帰ろう。
「お伺いも立てず来てしまい申し訳ありませんでしたモノイエ市長。また後日正式に使者を向かわせますので何卒ご容赦ください」
「もう帰るのか? 意外に欲が無いの」
「いえ無礼に無礼の上塗りは避けたいだけです。出来ればモノイエとは良好な関係を築きたいと考えておりますので」
「なるほどそれならば後日を楽しみにするとしよう。ガノンにも宜しく伝えてくれ」
僕は立ち上がるとモノイエ市長に一礼しその場を後にする。気配を探ると周りに数十人いる辺りあの人も抜け目がない。
モノイエはカイテンとの間にある都市で関係は悪くない。獣族の集落とも近くて人も多く交流しているのがルロイやギブス寄りも人種の坩堝だ。
イスルの様にダークエルフも居れば獣族も居てエルフも居る。エルフを見ると懐かしい気分になるなぁと思ってみていると、白いローブを着てフードを被り表情は見えないもののエルフの耳が出ている人がこちらに胸の前で手を組みながら寄って来た。
「あの、失礼します」
「どうかしましたか?」
「おぉ! 貴方の神は死んでますか?」
「神を信じますかの間違いだろ」
急にでかい声を出して意味不明な言葉を言いながら両手を空に伸ばすその人物に対してつい突っ込んでしまった。何かとても懐かしい。
「馬鹿ねぇ合ってるのよ神なんて死んでるのよ良い? 居たら惨たらしい死もゴブリンも存在しないワケ!」
「新手の宗教なら他所へどうぞ。宗教はもう御腹一杯なんで」
「宗教じゃないのよこれからの時代は医学科学の時代なのは間違いないわ! 良いから四の五の言わずに資金を提供しなさいよ献体を出しなさいよ」
「あーなるほどね神は確かに死んでるわ」
こんな真昼間に人通りの多い場所で献体を出せ何て元気に叫べる世なら神は死んでるのかあるいは昼寝中なのかも知らんね。
後頭部を擦りながら突き合いきれないので黙って去ろうとすると肩を掴まれる。
「何だよ」
「話の分からない奴ね。困ってるんじゃないの?」
「何が」
「医者よ医者! 医者が居るんじゃないのかって聞いてんの!」
「医者はとても必要だけど献体寄越せなんてデカい声で叫ぶような奴は要らん」
「相変わらず細かいところをグチグチと五月蠅い奴ね!」
「細かくねーよお前可笑しいだろ! ……っておいお前まさか」
「いや可笑しいってところで思い出すのは失礼過ぎない?」
フードを乱暴に取って現れたのはかなり久し振りに見る顔で僕は驚きのあまり一瞬固まってしまう。胸を張り腰に手を当て仁王立ちするエルフの女性。
一応間違いないか見ているとなんか御腹の辺りが大きい気がするんだが気のせいか?
「え、パティアなのか? 本物?」
「偽物が現れたとしたら私はかなりの有名人ね!」
相変わらずのパティアに苦笑いしながら一人でここまで来たのかと言うと違うと答えた。見た感じ他に誰も居ないんだけどイリョウの町でマウロ先生の娘さんたちと共に医学の進歩の為に働いてた筈だから連れて来てくれたのかと思ったんだが違うのかな。
「まぁパティア一人でも助かるよ。こっちの医学はイザナさんが現地の人たちと色々照らし合わせながらやってる感じでさ」
「そうなのね! こっちの医学がどうなってるかも知りたくて来たのよ! 早速行きましょう!」
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