夜襲とその終わり
「お前たち敵の御出ましだ! 開戦の狼煙を上げよ!」
篝火の近くに居た兵士たちは皆で集まっていたところの中央にある広めに石で囲った焚火に篝火の火を移して火の勢いを増し更に薪も投入し煙を起こす。
火は燃え盛り煙は空高く上がったが燃え移る距離に草が無くて良かったと思いながら弓兵たちにこの焚火の後ろから射るよう指示を出した。
「おいおい御挨拶じゃねぇか何も声を発さず突いて来るとはなぁ!」
茂みから多くの兵士がこちらへ向かって突撃して来るとその中には指揮官であるイルヴァーナさんの姿が見えこちらに何も言わずに突っ込んで来る。
それをガノンさんが迎撃しようとするもイザナさんが腕を掴んで止めて首を横に振った。ガノンさんはあくまでここではなく前線のフォローだ。
何よりそこにはもう一人の息子であるルロイ市長が居る。イルヴァーナさんとの戦いには一応決着が付いたし、この事態を起こした張本人にガノンさんも問いたいだろう。
「ここは任せてください。前線をお願いします」
「すまねぇな気を遣わせて」
ガノンさんはそう言って前線の方角へと走って行く。僕はそれを見届けてから自分の兵士と共に突っ込んで来たイルヴァーナさんと相対する。
相手の兵士は槍や剣を得物にしこちらも似たような編成だ。共にシールドを持っているので槍を振り上げた隙にそれを前に出して進みぶつかり合う。
振り下ろされた槍の威力は凄まじく頑丈な鎧を着ていても中の人間にダメージが出る。だけど混戦になれば剣の出番となる。
前衛の少し後ろに居たイルヴァーナさんは見た感じ痩せこけたりもせず色つやも良い。英気を養ってやる気十分と言った感じだ。僕を見つけて速度を緩めず走りながら突きを繰り出して来る。
それを横へ回り込んで避けて脇腹を狙う。イルヴァーナさんは槍を薙いだが一度対戦して速度を覚えたので当たらない。地面スレスレまで体を倒し地面を蹴って脇腹に体ごと拳を叩きつけるべく飛んだ。
イルヴァーナさんは僕を迎撃するべく槍を持ち替えこちらに切っ先を向けたけどそんなものは間に合う訳もなくそのまま吹っ飛ばされる。
こうして戦って見るとやはり元冒険者であり一対一で戦って来た人だから向き合って互いによーいドンで戦うのと違う戦場では動きがぎこちない。
何より大将が前面に出て来て戦うのは勝てば味方の士気が上がるけど負ければ反動で怯んでしまう。基本大将は後方に居て味方のほころびを見つけたらそこを直ぐ修正する為に動く。
僕は今イザナさんがそれを受け持ってくれているのでうちの兵士は崩れず更にイルヴァーナさんがふっ飛んだのを見て怯んだ相手の兵士へ攻勢を強めて押し返していた。
前面に盾で押す味方の隙を突いて後ろの兵士が槍を振り上げ相手兵士へ打ち下ろす。こちらは勢いに乗っている為面白いようにそれが決まって行く。
「康久! 後は任せたぞ!」
イザナさんはそう後方から声を上げたので僕は手を上げて答える。味方の動きを見てもうこの戦場は十分だと見て前線のフォローに行くのだろう。
「随分と余裕だな小僧」
大分相手の兵士の数も減って来たからなのかイルヴァーナさんが単騎で突っ込んで来た。
「閣下!」
「側面から攻めろ! 弓兵!」
僕はゴウバと周りの兵に指示を出しながら後方の弓兵を呼び手を上げて直ぐに振り下ろすと矢の雨が敵に降り注ぐ。
前回の戦いで損傷した個所は多少治っているけど本国と違いここには技術も材料も無い。本来の竜騎士団装備であれば造作もなくても今はその感覚で居ると危ない。
「おのれ!」
イルヴァーナさんの槍を避けながら側面から攻撃をしようと試みるゴウバと味方の兵士。イルヴァーナさんを助けるべく割って入る相手の兵士に追い払おうとするイルヴァーナさんの槍が辺り吹き飛ばしてしまう。
「糞ッ! 距離を取れぃ!」
槍を振り回しながら竜騎士団を下げようとするイルヴァーナさん。そんな隙を見逃すはずも無く味方や敵、槍を掻い潜り懐に飛び込んで右斜め上に突き上げる様に左下から拳を振り抜く。
イルヴァーナさんはこれまで圧倒的に勝利する場面でした兵を率いてこなかったんじゃないかなと思う。特に夜襲何て言う不意打ちには全く慣れていない。
こんな混戦で綺麗に戦うなんて無理があるし特に不意打ちは足並みが揃いにくく慣れていないと不意の事態に対応出来ず誰かが先走れば全て崩れてしまう。
自らの武力で味方を統率して来た人が今はそれを失い挽回の為に夜襲で側面攻撃を買って出たのだろうし、ルロイ市長もイルヴァーナさんの竜騎士団を当てにしての配置だったんだろうけどそれなら正面にした方が間違いが無かった。
「全兵士に告ぐ、敵兵を一人も逃すな! 降伏するものは捕縛してその場に置いておけ!」
そう指示を出し更に怯む兵士を倒すべく味方の兵士を動かす。ゴウバを筆頭にドンドン敵の兵士を切り伏せて行くと向こうも諦めた兵士たちが降伏し得物を放り投げて両手を上げる。
うちの元竜騎士団の兵士たちに捕縛して一か所に纏めて置くよう指示を出した。
「まだだ! まだ終わらんぞ!」
味方を押しのけてうちの兵士たちの固まったところに突っ込んでくるイルヴァーナさん。一人兵士が刺されたもののその兵士は槍を掴んで離さず、それを振りほどこうと動きかけたイルヴァーナさんに対してうちの兵士が取りつき羽交い絞めやヘッドロック、親指を取って曲げるなどしてついには槍を離させるのに成功した。
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