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異世界狩猟物語  作者: 田島久護
沿岸地域統一編

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ルロイ戦への覚悟

「この流れで問うのは一つしかあるまい? 息子たちと戦う覚悟が本当にあるのか、だ」


 イザナさんの問いにガノンさんは眉間にシワを寄せる。話の流れからして戦う他無いと言うのは分かるだろうけど敢えて言葉に出して貰わないと作戦を立てる側としては難しいと言う話なのだろう。


肉親の情と言うのは断ち辛いと言うがこの場合確実に相手の命を奪わなければこちらが奪われるので断つと言うのが実際の命をも断つというのと同義になる。


後で情が沸いてしまって止めを刺せなかったとなれば戦場が混乱に陥る。手加減をして何とかなる相手ではないのは皆承知しているだろうし。


「こちらの戦力はルロイと比べて今や主力も増えて来た。だが戦下手が多い。俺様としてはお前に参戦して貰い下手くその支えをしてもらいたいのだがどうだ?」

「断る理由はねぇがその言い方からして前線には出さねぇって聞こえるが」


 イザナさんの見る限りまだまだ僕らは戦が下手なのだろう。そしてそのイザナさんをしてガノンさんは歴戦の勇士に見えたからこその提案だろうから前に出ると言うより中衛で戦況を離れた位置から見て貰いフォローしてもらいたいという依頼なんだろうなと思う。 


勿論それだけじゃなく肉親を手に掛ける段になって躊躇うのも計算に入れたうえでの中衛というのもあるだろうけど。


「無論だ。業腹ながらこの戦は新竜神教(ネオ・ランシャラ)と我ら傭兵団に取っては初戦であり戦場経験を積む為のもの。悪い言い方をするが最終的には康久、鬼童丸、ベオウルフそしてガノンお前を投入して敵の頭を叩き潰して戦を終わらせる予定だ。出来れば一般の兵士たちを一人でも多く戦を経験させた上で生きて戻らせる」


 兵士たちには圧倒的に練度が足りない。ギブス兵はギブスにおいては守備に当たり前面に出るのは竜騎士団(セフィロト )だったので戦いの経験が無く、降伏してこちらに与したものや別のところから立身出世を目指して来た者たちなども戦の経験は元より集団戦の経験が無い。


力技は以前から変わらないけどイザナさんとしては出来る限りそれを先々では無くすべく今回は早めに手を打ちたいんだろう。


僕もそれに賛同し今回は遊撃隊として戦況を見守りながらイルヴァーナさんが出てきたら対応しそれ以外はゴウバに経験を積ませるために指揮を任せながらフォローしようかなと思った。


「……分かったよおめぇの指示に従おう。おらが幾ら突っ張ってもそこは人間だからな。親としての情が万が一にも出ねぇとは言い切れねぇ」

「冷静な判断痛み入る。一回の戦でケリが着くかは向こうの出方次第。康久はどう思う?」


「恐らく一気に来るでしょうね」


 突然水を向けられたのでそれだけ答えた。書類を消滅させたいルロイ兄弟はどんな手を使ってでも市役所を襲撃し目的を達成すればそのまま引けばいい。


市長かイルヴァーナさん、船長のうちの誰かが通れば良いのだから小出しにするより一気に来た方が確率は高くなる。


こちらの体制もまだ出来たばかりで兵士に戦いを経験させるような戦いをしなければならないのだから時間をおいた方がより不利になるのは明白だ。


その上こちらがルロイに攻め入ればこちらが攻めて来たと受け取られかねず元々攻める気があったのではないかと疑われかねない。


市民からすれば元々は共に立ち上がったのにこちらが離反したような形になったのだから疑われても仕方が無いけど。


「見ろこいつは真面目なので非難されるのを恐れている。これまで何十と葬って来たのにな」

「まぁそれが良いところでもあるのよ」


「そうなのじゃ非難を心から恐れず顧みず殺生をするなら動物と変わらんからの」

「だな。それがあるからこそ打開しよう進化しようと足掻くのにも繋がる。とは言え必要な非難なら敢えて受けるしかねぇ。現段階において打開策は他に無いし流れに逆らう方が大変だ」


「ルロイの攻勢を逆手に取ってルロイを取るような流れであったとしても、ですか?」


 僕の言葉に皆少しの間が開く。


「ほう、俺様はてっきり親子の情や被害に遭う兵士たちに思いを馳せていたと思ったがそこにもしっかり目を向けていたのは良い傾向だ」

「いやいや南の時も一応は考えてましたって」


「あれも流されたようなものだが、あの時と大分状況は似ている。今回も向こうから首を差し出して来たに等しい。取るか取らないか、その決断はお前に任せる」

「……取りましょう。これ以上長引かせても市民が迷惑するだけで大義は無い」


 少しだけ間を開けて答えた。今回の経緯は知らないにしても戦が始まれば終わる。僕らが攻め落とさなくても次から次に別の人間がルロイの代表となり立ち向かってくる。


はっきり言えばここにずっと留まってそれに構っている時間は無い。幸いにも向こうが差し出してくれたのだからそれを受け取らないと次にいつこんな機会が来るか分からない。


「宜しいならばその為に策を講じよう。お前もそう思うだろう?」


 イザナさんは問いかける時に少し大きな声を出して手招きした。現れた人を見て僕はかなり驚いた。


「久し振りだね康久」

「お、御久し振りです」


 しどろもどろになりつつ差し出された手を握りながら笑顔で出迎える。しかし何故イザナさんがこの人の存在を知っていたのだろうか。確かに以前カイテンにいた時期があると聞いた覚えがあるけど。






読んで下さって有難うございます。宜しければ感想や評価を頂ければ嬉しいです。

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