出会い
――仕方ないなぁ……――
何やらヴェルダンティとは違う可愛らしい声が飛んできた。
――良い子だねお兄さん。右横へ跳ぶと良い事が起こるよ――
僕は素直に右横へと飛んだ。ガーーン! という轟音と共に砂煙が天高く吹き上がり地面は地震が起きたかのような振動が発生する。
僕は後ろを振り返らず距離を取り暫くするとキキキとギャォアアアが同時に聞こえてきた。振り返るとそこは怪物大戦争状態でこれは終わるまで待って何かゲットできそうなものがあれば……。
僕はある程度距離を保ちその間に何を出そうか考えている。手持ちの武器は五つと限られているし伝説の剣なんていうレベルの凄い得物が出てこないのはあの女神の性格を知ってれば分かる。
ただこの場合あの戦争の勝者と戦う事になればその相手は弱っている状態で僕でもやれそうな気がする。少しウキウキしながらこの場合遠距離からチクチクやるのが最適だと思った。
今はまだ二人が戦闘中なので僕はトゥーハンドソードを出し素振りしながら時間を潰しそうと考え右手を突き出すとすぅっと現れた。相変わらず軽くて振り易い……これでどれだけの切れ味があるのか疑問だけど。
振り下ろしたり、横へ薙いだり袈裟切り逆袈裟切りなどを交互にしながら確認しつつ、戦況を見る。普通ならフクイラプトルもどきの方が見た目からして圧倒的に有利に見えるけど、あの強化ミミズも流石強化されているだけあって負けていない。
僕は卑しくも出来れば共倒れを祈りながら素振りをしている。フクイラプトルもどきは噛みつこうとするが甲殻がある為巧く行かない。
強化ミミズも相手を飲み込もうとするが当然大きくて無理。ただ互いに傷を負わせているから、徐々に疲弊していく。
良いぞ良いぞ、もっとやれ。僕は心を躍らせながら素振りしつつ見守る。あ、フクイラプトルもどきが頭突きをくらわせて、それが強化ミミズの甲殻の隙間を突いて貫いた!
これに絶叫を上げる強化ミミズ。凄い量の血が吹き出る。フクイラプトルもどきはそこれ逃さず、頭を上にあげ強化ミミズを持ち上げた。
そして動き回ってその突き刺したところを何度も突きあげている。あいつ……僕が今戦うレベルの相手じゃないだろ。
「動くなよ小僧……」
後ろから声がする。……ホントかさ……。
「てめぇこんな夜中に何やってんだ?」
答えに困る。寧ろ何させられてるんだか誰かに答えて欲しいくらいだ。何で僕がここにいるのか、何で僕が死ねないのか。何をすれば元の部屋に戻れるのか。誰か教えてよ!
「答える気が無いならその頭ぶち抜くぞ」
僕は湧き上がる怒りを抑えきれず歯を剥き出しにして食いしばりながら振り返る。自然と目から水が溢れ出してきてしまった。
「おめぇ……大の男が泣いてんじゃねぇよ。どしたんだ。じじいに話してみろぃ」
そこには背が僕より小さくてずんぐりむっくりしていて白い髭を口周りから顎下まで生やしている団子っ鼻のお爺さんが居た。
「わかりましぇん」
正直に答えた。少し優しくされただけなのに涙が止まりませんでした。思い返せばこの世界に来て初めて優しさを感じた気がする。そんな怒りと悲しみで泣く僕を見てお爺さんは
「悪かった悪かった。おめぇ迷子なんだな? じじいが悪かったよ。剣の素振りしてるくらいだから初心者だろうと思ったけんど、今悪い狩猟者が居てなぁ。おめぇ悪そうな奴に見えねぇよな。じじいの早とちりだ。すまねぇなぁ」
とお爺さんは僕を慰めようと声を掛け続けてくれた。その優しさに僕はあまりにも情けなくなってしまい余計涙が止まらい。
こんなところで一人号泣する初めて見る恰好をした二十の男を見たお爺さんの方が怖かっただろうなと後々思ったし、それなのに声を掛けてくれた凄さをこの先ずっと忘れないだろう。
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