奇妙な密偵
これに関しても報告は上げているのであとは政治的な判断になるだろう。ただ街中に不満があふれているのも事実。
ギブスの民は今のところルロイ市が支援金を出して過ごしている、要は働かなくても生きていけるのだ。
被害に遭ったのは可哀想だけど元々竜神教信者の人が多く更にルロイの竜神教信者は評判がすこぶる悪い。
ルロイとギブスの竜神教信者が教会に集まり朝から晩まで賑やかなのを見て愉快になる人は居ないだろう。
噂ではあるが昼間からカジノに入り浸っている竜神教信者も居ると僕の耳にまで届くのだから市長としても早急に対処しなくてはならず頭を抱えてるんじゃないだろうか。
一応表向きは国に意見はしても反抗的ではないというルロイの急所とも言えるところをガッツリ突かれた感じだ。
このままにすれば働かない竜神教信者が増えそれ以外の住民の不満が増大すれば市長が音頭を取らずとも暴動は起きてしまう。
そうなれば竜神教の介入を余儀なくされ反抗の目を摘まれてしまうから市民が何処まで堪えられるかルロイ市がどれだけ早く反抗の体制を整えられるかの勝負になる。
「取り合えずこんな感じで引き揚げますか」
「うーん……」
夕暮れを見つつ丘陵でルナがそう言うと玉藻が腕を組んで唸り声を上げる。その方向を見ると農村の方を見ていた。
単眼鏡を手に取りくまなく見てるけど何も見つけられない。ルナも見たけど見当たらず首を傾げる。
「玉藻どうした?」
「何か変な感じがするのじゃ。あっちの方角から……何かがこっちを見ているような」
僕とルナは目を合わせる。玉藻がこの手の話で嘘を言う様な子ではないので確実に何かあるんだろうけど僕らに感じ取れない何かを感じる能力があるとしたらそっちに驚きだ。
九尾から星の意思によって力と引き換えに不死だけど無力な獣人玉藻になったはずだけどオマケがあるんだろうか。
「今は考えても仕方ないわ。玉藻、案内して頂戴」
「任せるのじゃ」
玉藻の先導でその場所へとなるべく向こうに悟られないように先ずは町に帰る振りをして森に入り姿を隠しつつ移動する。
相手はこちらが勘付いたとは思っていないだろうから僕は気を広げようとしたけどゼロの状態にして移動する。
相手が隠密が得意なら僕の広げた気で察知されてしまう可能性が高く、自分を探しているのではないかと感じて逃げてしまう恐れがある。
視線も遮り気も殺して潜んでいる上に距離が離れているなら気付かれるとは思わないだろうから音はそれほど近くなければ問題無いだろう。
暫く走り続けお爺さんの畑を通過したところで玉藻は一旦止まり
「この先に居るのじゃ。童が囮になるから近付いてきたら頼むのじゃ」
と小声で僕に耳打ちすると御爺さんの畑に周囲を見回しながら柵を乗り越えて入るとしゃがんで雑草を取り始める。
僕とルナは息も気も殺して茂みから玉藻を見守る。これで相手が食いついてくれると良いんだけどな。
もう夜も近く周囲には玉藻以外誰も居ない。相手が竜騎士団なら僕らを知っているだろうし、玉藻を捕らえられるかもしれない好機を逃さないだろうと思う、てか食いつけ!
「な、なんじゃ!?」
玉藻が声を上げたけどここから見た限り何もない。
「康久足元!」
ルナの声で玉藻の足元を見ると野菜が踏みつけられていた。
「このっ!」
ルナは近くにあった野生動物への餌の果物を取って柵の上に立ち飛び上がると、玉藻の上で神刀皇を出現させ鞘のまま果物へ叩きつける。
「ぐっ!?」
「うわぁ!」
果物は果汁が多く砕けずに汁が飛び散ると玉藻とそれに近付こうとしていた者に掛かり姿が輪郭が露になる。
「ぐああああ!」
玉藻から少し離れたところに身を隠していたティアがそれに噛みつき僕も急いで間合いを詰めてそれにタックルを仕掛けて倒した。
「くっ糞っ! 何故俺が分かった!?」
「大人しくしてもらおうか!」
ルナが柵に付いていた縄を解いて放り投げてくれたので急いで足首を縛り上げたもののドルフィンキックのような動きをしてきて泡食ってしまい反射的に飛び退いて距離を取らされてしまった。
「お、覚えていろよ!」
「逃がすか!」
玉藻も加わり足を捕らえようとしたものの相手も単身でここまで来るだけあって只者では無く、素早く立ち上がるとバク転を少しした後腰からナイフを取り出し足首の紐を切った。
「それは駄目だろ」
僕はその隙に一気に距離を詰めてボディを強打する。相手の体が浮いたので貰ったと思った瞬間
「それは確かにダメだなぁ? アンタ本当にあの英雄君かい?」
と紙のようにひらりと一瞬浮いた後こちらの拳に足の裏を当て膝を曲げると飛び上がった。
「驚きはしたけどその程度ならちゃんと殺せる。俺様が単騎でこんなところに来るってのはそういう実力がある男だからさぁ?」
薄気味悪い笑い声を上げながら果汁の知るまみれの人の輪郭をしたものは森の中へと消えて行った。
気付けばもう夜を過ぎていてこれ以上の追跡は危険と判断し報告書を作成すべくギルドへと戻る。
「おうお前ら随分と遅かったな」
船長が丁度ギルドのカウンターに居て僕らに気付くと笑顔で手を上げて声を掛けてくれたので、さっきまでの話をする。
「……そうか御苦労さんだったな。報告書待たせて貰っても良いかな?」
と言われたのでどうぞと告げて早速リンナさんに用紙を貰い調査書を作成。奇妙な男についてもしっかりと場所などを記載し提出した。
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