調査期間開始
「そうか、ある程度の伐採はしにゃいかんな」
夕方頃まで調査をしてその結果とポイントを記載しギルドに提出すると丁度船長が来ていて調査書を見て顎を擦りつつ呟いた。
「やはり丘陵や高台それに山もありますので立てやすい所に見張り台を作るにしても眼下が見辛いと発見は難しいんじゃないかと」
「そうだな。こっちの町は海育ちが多いもんだからよぉ山ってのはピンとこないんだわ。市からも何とかしろって言われてるから冒険者に頼んでたけどこの結果を見たらもうそう言う訳にも行かねぇな」
船長は調査書を再度ギルドへ戻して去って行った。僕らもギルドから出ていつものルーティーンをこなし就寝する。
翌朝もギルドへ出向いて調査に出かける。今日は農村の方へと足を延ばす。以前畑荒らし対応の依頼を受けた時に御爺さんたちから竜騎士団の情報も得たし、今回こういう役割を得たのでお爺さんたちにそれ以外に無いか尋ねてみようという目的もあった。
畑に行くと御爺さんたちが仕事をしていたので声を掛け早速話をすると色々教えてくれた。以前からギブスの町も近く変な人間たちが見えるところで行き来している所為かその評判が広まりそれまでその道を利用していた商人たちが避けてしまったと言う。
それだけならまだしも住民の中にも気味悪がって引っ越しする人たちも居たらしい。
「商人があの道使うとよ、うちにも寄って野菜仕入れたりとかもあったんだけんどよ。それもなくなっちまってな。良い話は何もねぇ」
「んだな。市長には陳情書を認めて出したんだけんども聞いてんだか聞いてねぇんだか分からねぇ返事しか返って来ねぇし」
「まぁ曲がりなりにも俺たちも税納めてる訳だしよ? ちったぁ対策して貰わねぇとギブスに納めちまうぞ? って伝えてけれ!」
ガハハと笑うお爺さんと村の人たち。笑っている内は良いけど早急に対策した方が良いだろうなと思いメモに書き込んでお礼を言って外側の調査へと移る。
柵を立てたり餌を森の奥まで撒いたりしているお陰で畑の近くに動物のフンなど痕跡は少ない。ギブス寄りの方へ向かうと人々が長年行き交って出来たであろう道があり、そこで痕跡を探したけど足跡も無くなっていた。
更に進みギブスとの中間地点に行くと整備された交易路が現れたので一旦身を潜め様子を窺う。ギブスは復興中なのもあって資材の搬入をする商人が多く通っている。
ギブスらしいなと思ったのはその警護を竜騎士団がやっているという点だ。デュロスかデュマスでも居ないかと目を凝らしてみたものの残念ながら見当たらず。
第八はイトルスが率いていたし第九と第十がデュマスロス兄弟。残り七つにはリベリさんとクニウスが居るし一番上はひょっとするとブラヴィシが直接率いているのかもしれない。
「この感じだと竜騎士団は村に近い通路は使って無いようね」
「とは言え警戒は必要かなとは思う。市長はわざと穴を開けてるのかもしれないけど警備が足りないからいざという時困るんじゃないかな」
村側に穴を作って通りやすくして入って来たところを一網打尽にする、と言う構えには見えない。警備は必要最低限だし。被害を出させて市民たちの戦意を駆り立てるなんて策を考えないよう祈るばかりだ。
それから昨日調査した山のところまで移動し夕方になるまで周辺を歩いて回る。ルロイシカの親子などが居たりして大分癒されたし玉藻もティアも飽きずに協力してくれて助かった。
ギルドへ調査書を提出し終えるとリンナさんから手紙を受け取る。市役所からで契約の一部変更を伝えるものだった。
「毎日調査報告をと言う所について週二日は半日で切り上げ休養を取る様に、だってさ」
「他の兵士の手前毎日ガッツリやられても困るのかもしれないわね」
「別に童たちは森を見回っているだけでも楽しいから毎日でも良いのじゃ」
「ぐあ!」
半日だけでも休みが出来たのでその時間を利用して海に行ったり市場に出掛けたりこないだ出来なかった南の町を見て回ったりもしようと思う。そう長い期間のんびりもしてられないだろうし。
あくる日からも調査をしてギルドへ書類を提出を繰り返す。調査中森の恵みを頂いたりするので朝市で購入した籠を玉藻は腕に掛けて移動していた。
食堂のマスターに食材を提供するとそれに合わせた料理を作ってくれるし少し料金が下がるので大変有難い。
動物の観察もし何処に何が居たとか言うのもスケッチして記録する。こうしているとイスル南草原でミコトと一緒に仕事をしたのを思い出す。
ミコトはもう神の代理としての役目を終えてただの人になった。両親のところへ帰ってゆっくり過ごしていると良いなと願うばかりだ。
「おっ……と」
もう直ぐひと月になろうかと言う頃、森を調査中急に木の枝が落ちて来たのでハルバードを呼び出し弾き飛ばす。このところ急に石が目の前に転がって来たり木の葉が舞ったりと変な現象が起こる。
玉藻が言うには妖怪の仕業ではないと言うしルナが言うには魔法や魔術でも無いと言う。
動物なら気配で分かる気がするんだけど感じ取れる動物はちゃんと発見出来る。何の意図があってこんな真似をするのか。
……何か玉藻染みた悪戯のような気がして来た。攻撃したりしてくればこちらを試したりとか言う目的があるのが分かるんだけど明らかに気味悪がらせるのが目的に思えてならない。
「皆集合!」
僕は散策中右手を上げて皆にそう呼びかける。驚きつつもルナも玉藻も僕にしがみ付いた。
「合図したら一気に丘陵まで駆け抜けよう」
「オッケー例の悪戯の犯人を見つけるのね」
「了解したのじゃ。動物でもない気を微かに感じるから仕掛けてくるつもりなのじゃ」
僕たちは頷き合うと一旦離れて少し移動した後、
「ヨーイ、ドン!」
と言う掛け声に合わせて丘陵へ向けて走り出す。相手が驚いただろうなと思ったのは僕らは並んで走らず玉藻は真っ直ぐ僕は下へルナは上へと別れて走り始めたからだ。
狙いは僕だろうと思ったので走りながら周囲に気を張りつつ耳をそばだてて居ると二人以外の足音が聞こえた。
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