専属契約
翌日朝のルーティーンを済ませてギルドへ向かうと早速前に僕を迎えに来た市の兵士さんが来ていて市長が面会したいのでお願いしますと言われ同行する。
何でも例の報告書は市の方でも話題になり遅くに提出したにもかかわらず至急上層部が集まり会議をしたと言う。
どうやらその洞窟は例の薬物組織の一つがねぐらにしていたという情報もあって色々考察も捗った様だ。
「いやぁ本当に助かりました。恐らく我々が出向いても行方不明になるのが関の山でしょうから」
「竜騎士団も隙を突かれたのでしょう。我々ならつい目的を尋ねてしまう」
神妙な面持ちで話しつつ僕らを先導してくれる兵士さんたち。最近は薬物絡みでの調査や検挙が忙しく周辺まで足を延ばせていないのでとても感謝された。
「しかしこれで本格的に竜騎士団がこちらを狙っているというのが明確になりましたね」
「元々暗躍してたんだから今更だがな。後はギブスの動きが気になるところだが……おっと到着した。ではまた!」
市役所に到着すると敬礼で警備していた兵士の人たちにも出迎えられ更に受付の人もそのまま通してくれて市長室へと入る。
「悪いね朝早くから呼び出して。すまないが彼らにお茶を」
市長も朝早くから登庁していたのか上着も脱いでワイシャツにベスト姿でネクタイを緩めて書類仕事をしていた。
隣に居た秘書の人がお茶を用意しに一旦下がると市長は机から側にある大きな丸いテーブルにある椅子に移動し僕らにも座るよう促してくれたので席に着いた。
「報告書は読ませてもらった。事態はかなり深刻なようだ。最早選択を迫られると言うより強いられていると見た方が良いだろう」
「竜神教にあらねば人にあらず、ですか」
市長は苦笑いをする。いよいよ国内の統一に動き始めたとなるとそう言う状況になるだろう。今までも竜神教は強大な力を持ってはいたものの、師匠のような存在やルロイのような市を許すくらいの余裕があった。
一体何がそこまで竜神教を追い詰めたのか。僕にはその理由が分からない。まさか大和で扶桑、というか星の意思と僕が接触したからなんてのは思い上がりだと思うけど。
「正直言って準備が足りない……いやどれだけあっても同じではあるが今は特に薬物の問題が大きい。我々としても竜神教の存在を見ずにその近い所との繋がりを絶とうと思っていたが最早売人以外はそれと同じと見るべきだろうな……口を割る前に殉教だとか叫んで死んだ奴も致しな」
それを聞いて呆れてしまう。薬物を広めるのが竜神教の布教でそれがそうであると認めるとダメらしい。本人らもそれが正しくないと分かっているだろうし中毒者の姿を見ればどっちが悪魔か分からなくもなるだろう。
市長はその中毒者の姿を犯人たちに見せてから供述を取ると言う。自分の罪を間近に見れば少しは罪悪感も出るだろうと。
しかし自ら命を絶つという行為に出てしまいそれ以降は厳重に注意しながら供述を得ようとしているらしい。
「売人たちからの情報は役に立たんしそれより上は殉教気取りで何とか死のうとする有様。中毒者を隔離する施設も税金で増設せにゃならんところまで来ていると言うのにな」
「竜神教に引き渡したら?」
「そうしたいのは山々だがね。返したところで恐らく全てを支配され死を恐れない兵隊となって帰ってくると思わんかね?」
ルナの提案に市長はそう返す。恐らくその予想は当たっていると僕は思う。あの姉が上に居る以上介抱して寛解まで面倒見るなんてするはずがない。
ゴブリンにしたような方法で操りこちらを攻める戦力として余さず利用するだろう。こちらで面倒を見るにしても返すにしてもどちらもこちらのダメージが大きくあちらにはほぼダメージは無い。
これをずっとやられるとこちらだけが消耗する展開になるのは火を見るよりも明らかだ。市長としては薬物使用禁止の法を制定したばかりだけど更に思い法を布いた上で信教の自由を視聴するならルロイから出るよう促すと言う。
「言って分かるなら苦労はしない。これから組織を重点的に潰していくつもりだ。越前とも連携し向こうからも薬物を入れないようにしこちらからも監視を強めて行く。ギブスにも密偵を放ち我が市に入り込んだ密偵も監視を強める」
「ギブス市はそれで音を上げるでしょうか」
「無理だろうな。だがそれを公表し住民に選択を問わなければならない。もう竜神教かそうで無いかで分けなければならないところまで来てしまったのだからな。我々は断固として屈しない……人が人である為に。何かを信仰する為に人であるのを捨てるなどと言う真似は受け入れられない」
市長は淡々と語っているけど猛る気は抑えられずその圧に冷や汗を掻く。玉藻やティアも少し怯えているようでそれに気付いた市長は豪快に笑い場を和ませようとする。
タイミング良くお茶が来て何とか少し場が和んだ。
「アタシたちを呼んだ理由は?」
お茶を飲み雑談を少ししてから場が落ち着いたのを見てルナが切り出した。市長はそれを聞いて頷き席を立つと市長の机の上の紙を一枚持って戻って来た。
「これを提案したくてな」
そう言ってこちらにその紙を見せる。
「専属契約?」
「ああ。先ずは短期間ではあるが薬物とギブスへの対策を立てるまでの間契約をしたい。君らにも目的はあるだろうが協力してくれると有難い」
契約内容は三か月でその間周辺の警戒業務と薬物組織へ乗り込む際に都度協力を依頼した場合は招集に応じて欲しい旨が書かれていた。
契約金は週金三枚プラス出来高とかなり高額だ。勿論情報漏洩は厳禁で判明した場合は処罰があるとも書かれていた。
「かなり良い条件ね。何処かに詰めた方が良いのかしら」
「必要ない。君たちは周辺警戒をしてギルドに報告してくれるだけで良い。他の兵士が緊張するしな」
「僕らを見ても気が抜けるかと思いますが」
「それは見解の相違だな。兵士たちは君を頼もしく思っているが事件を解決する度崇拝に変わるような気がしてならない。そうだからこそ南部司令官も務められたのでは? と思うがね」
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