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異世界狩猟物語  作者: 田島久護
ナギナミの国編

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置き土産の準備とか

「旦那方、家を御探しで?」


 町に戻る途中で前から来た人に声を掛けられる。髷をしっかり結っていて着物の仕立ても高そう。顔も笑顔で何処となくやり手な雰囲気を漂わせていた。


「手頃な家があれば良いなと思って」

「でしたら丁度良い物件が御座いまして宜しかったらご案内させて頂きますが如何でしょう」


 なんかこっちを嵌めようとしてる感じもしないんだけど待ってたって感じがするのは何だろうか。色々気を遣われてるのか仕組まれてるのか。ルナを見ると首を竦めて一つ息を吐いた後頷いたので


「じゃあ見せて貰うだけですが」


 と答えると笑顔で頷き一礼した後先導し始める。一旦町へ行きそこから東へ行った後、御家人の人たちの屋敷が密集する場所へと近付く。流石に御家人の家を勧められはしないだろうと思っていたけどかなりぎりぎりの場所で立ち止まり


「ここです」


 と言われる。それはどう見ても立派なお屋敷に見えるが門が板でバツの字を描くように打ち付けられ中が見えない。


「これはまた掘り出し物ね」

「でしょう? 値段も土地を購入し改めて立てるよりもお安く提供させて頂けますよ?」


「掘り出し物かぁ……良い物件なの?」

「良いわよこの物件いわく付きの物件だもの、ね?」


 笑顔で頷く案内人。いわく付きって全く良い物じゃないんだけど。嫌だなぁ心霊物件とかには住みたくないんだよなぁ。


「とある御武家様の元御屋敷です。御公儀に反旗を示した廉で別の場所にて腹を召されました。それ以降空き家となっております。こちら何方かが御買い上げ頂き住んで頂けましたら、その御子息たちへ手前どもの手数料や管理料以外は回りますので助かるかと存じます」


 まさかこの家って……僕はルナを見ると苦笑いして頷いた。誰の仕業か、と問われれば思い当たる人は一人しかいない。全く水臭いなぁほぼ師弟みたいなものなのだからそう言うのは直接言ってくれれば良いのに。


「義理人情だけが人生さ、か」

「お慕いしている者も多くおります故勝手に気を回す場合もあろうかと思いますがどうぞお許し願いたく」


 最早それ以上は無粋。僕たちは何れここを去る人間だしお金も持っていくつもりはない。なら友人に残せる物があるならそれに使うのが一番良い気がする。僕とルナは早速この家を買い取り引っ越す。長屋の女将さんにお礼の御茶菓子を持って行き挨拶を済ませ、その日は引っ越しの作業に明け暮れる。


鬼童丸たちはまだ帰ってこないけど、帰ってくるから荷物を一緒に運ぶ。大した荷物も無いので夕暮れ前には終わり、国彦さんたちの鍛冶屋に顔を出して報告をする。


「そうですか……」


 月世さんは寂しいようなほっとしたような顔をしながらそう呟いた後一礼し奥の部屋へと去って行った。色々借金とかを背負わされて嫁いだって聞いたけどそれが少しでも減って気が楽になると良いなぁと思わずにはいられない。


「有難うな康久。俺からも礼を言わせてもらう」

「とんでもない! 国彦さんにはいつも刀の面倒を見て貰ってますし、何よりこの町に来てからずっとお世話になりっぱなしで。少しでも恩返し出来たなら何よりです」


「水臭いなお前!」


 小さく笑った後少し涙ぐんで、それを振り払うように大きく口を開けて笑ってからそう言った。清五郎は直接口にしていたが、他の人は言わず内心そう思っているのを何となく感じていただろうしそれが無くなる訳では無いけど、借金の形に嫁いだけどそれが終わっても仲良く暮らしましたとさに繋がる道が出来たと思うから頑張って欲しいと思いつつ鍛冶屋を後にする。


「それにしてもこの広い屋敷に二人だと想像以上に怖くない?」

「何か落ち着かないわよね確実に……」


 ほぼど真ん中の座敷で行燈の蝋燭に火を付けて並んで座る。戸を開けて広くし行燈をそっちにも置いて明るくしてるんだけどそれでも怖い……日本家屋ってこんな怖かったっけ。案内人さん曰く”この家に泥棒に入るくらいなら墓場に行くって言われてますから当座は誰も近付きませんし、灯りがついてたら余計近寄らないですよ”と喜んで良いのかどうか分からないお言葉を頂き複雑な気分だ。


「と、取り合えず門は閉めたね?」

「締めた。こうしてても仕方ないし頑張って寝ましょう」


 気合を入れて僕とルナは布団を敷いて眠りに就く。が、寝れる訳も無く二人で喋りながらついに朝を迎える。徹夜って中々記憶にない朝日が全身にダメージを加えてくるのがまた辛い。体の芯から疲れつついつもの朝の行程を済ませて御用承所で屋敷の登録などの事務作業を進める。


税金等を貯蓄から収めつつ来年度末の税金が増えるから貯蓄するように言われた。来年にはデラウンに帰りたいので貯蓄で何とか出来るよう計算しルナさんが親指を立てて答えてくれたので、今から日々の生活費を稼ぐべく依頼を受けようと写しを二人で見る。


「これとか散歩序に良いんじゃない?」


 ルナが写しの一つを指さすとここから南に行ったところにある天川村での盗賊討伐依頼だった。集団に鬼が混じっているとの情報もあるから竹五段の依頼に回って来たようだ。何でこれが散歩程度になるか分からなくて首を傾げると、ルナは備考欄を指さしそれを見て納得した。


天川村には温泉があり討伐完了まで宿の提供と三食付きというのがあったからだ。そう言えば湯屋には頻繁に言っているけど温泉には行ってないなぁ……ていうかこの世界に来てから温泉に入った記憶が無い。


「んじゃ行きますかね」

「やったー!」


 ルナは急いで受付にそれを提出し正式な依頼書を渡され戻ってくる。この依頼同居人同行可とも書かれていたのでご機嫌だ。僕らは少ない荷物から必要な物だけ取り風呂敷に包んで持って早速天川村まで移動する。


家の管理は遠方の依頼を引き受けたので御用承所が管理してくれる仕組みだ。掃除が必要な場合は別途料金はかかるものの、例えば火災が起きた際は御用承所の保険が適用される。何が起きるか分からないからこそ保険て大事だなぁと思う。


歩いて行くのも悪くは無いけど税金対策とか色々あって今回は馬を借りて天川村まで走る。カイテンでアジスキを連れて居たので馬の扱いは慣れていたけど、山道がカイテンより多く更にごつごつしているので梃子摺ってしまった。


 何とか夕暮れ前には到着し御用承所で依頼書を提出。直ぐに近くの温泉宿を案内され二階の角部屋に着くなり畳の上に大の字になりくつろぐ。とは言え盗賊たちは昼より夜の方が襲撃してくる可能性は高いのでそれに備えて待機しつつ、昼間にはその隠れ家探索をしなければならない。


「おっ風呂~おっ風呂~」


 ルナは楽しそうに歌いながら露天風呂を満喫しに飛び出して行った。僕も一応お風呂に行こうかなと思ったところで宿の人が慌てて部屋に来た。それで僕は察して急いで降りていく。


「行け行けぇい!」


 到着して直ぐ来てくれるのは実に有難い。集団は見た限り二十人前後で襲撃を受けるのを想定していない感じだ。不意打ちを狙うべく一旦路地に入り通り過ぎようとした瞬間飛び出て一人一撃で仕留めていく。


「な、何だてめぇ!?」


 大将らしい鬼が馬に乗り甲冑を着て槍を振り回していたけど僕に気付いて急いで構え突いてくる。残念ならそんな泳いだ態勢から突かれても大した威力は無い。直ぐに槍を掴んで思いっきり引き倒し、落ちてきたところをフルスイングでぶっ飛ばす。


割と良い感じの飛距離が出たようでこいつらが走って来た方向より更に先の雑木林に消えた。皆でそれを見送った後笑顔で残った奴らを見る。愛想笑いをしたので僕も愛想笑いしてみると声を上げて笑った。


「何も面白くないが」


 僕は吐き捨てるように言って全員ぶちのめした。生きてはいるので倒し終えた後、村の同心の人たちに捕縛を頼んで確認して貰い宿へと戻りゆっくりのんびり温泉を堪能させてもらった。

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