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異世界狩猟物語  作者: 田島久護
ナギナミの国編

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あつい季節

 鬼童丸が突然食い気味に黒い気を纏いながら酒井様に問う。それに対して気にも留めず笑顔で頷く酒井様。まさか鬼童丸の仇とかじゃないだろうな……。


「貴様ここで何をしている?」

「何をしてるも何もお前と似たようなもんじゃよ」


「謀る気か?」

「じゃあ何と言えば気が済む? 人間たちを騙して妖怪の世を作る為潜伏していたとでも言えば良いのか?」


 これまで以上の速さで動き斬りかかろうとした鬼童丸に対し瞬時に間合いを潰し酒井様は右手で刀の柄を抑え封じる。


「世界は広いぞ鬼童丸。ワシもなかなかだがお前が狙うあ奴もなかなかだしそいつを見抜いたお前の隣に居る男もなかなかだ」

「糞っ」


 鬼童丸は吐き捨てるように言った後濃い口を切る動作を止めて両手を広げる。酒井様はそれを見て小さく笑い手を放して元の位置に戻る。


「私たちは幼少の頃から酒井様とお付き合いがありますから偏見などはありません」

「どの種族の誰であろうと善人と悪人がいるともしっかり教えられている。俺は俺の判断と勘でお前たちは悪人ではないと見たからつるんでいる」


 それを聞いてげんなりした顔をして胡坐をかいて座る鬼童丸。とりあえず難を逃れたので僕はほっとした。


「悪意を持ち人間や妖怪に対して危害を加えるもの、それを先導し高みから暴動を促そうとするものこそしっかり対処しなければならん。ワシはその考えのもと生きている」

「そんな高尚な妖怪が居るとはな」


「最初からではないよ勿論な。だた元々変わった妖怪だとは言われていたのだ。それが何の縁かあの方に会うてしまったのが運の尽きというか始めというか……康久、大嶽丸はワシには剣は敵わんと言っていたのを覚えているか?」


 忘れもしない見張り台奪還の時の話だ。雨の中で会った時見せてもらった腕前からして大嶽丸さんが酒井様に全く歯が立たないとは思えなかった。


「あれは腕が劣るからではない。ワシの愛刀によるものだ」


 酒井様は握手するように手を出すと光の粒子が手に集まりそれは形となる。柄の部分の装飾が一切ない打ったままのような茎の状態の綺麗な刀は昼に見てもとても幻想的に見えた。


「それは?」

「妖刀ヒトワタリ。何故これがワシの元に来たのかは分からんが、恐らくワシの妖怪としての特性が呼んだのだろう」


「それがあると大嶽丸はお前に勝てないのか?」

「そうだよ鬼童丸。これは鬼に対して抜群の効果を発揮するものでな。こちらに来てから何度か振るってみたがやはり鬼に対しては妖怪や人を斬る以上に鋭くなる。あ奴が単細胞なら斬りかかるだろうがそんなやつではあるまい? それにあ奴を倒したところで話は収まらん」


「やはりあのお方が……」


 鷹好さんがそう口にした後慌てて止めて場は静かになる。あのお方、とは恐らく今の殿の兄弟とその後ろ盾そして伊勢の話だろう。こちらを明確に分かる状態で狙ってればそう思うのも無理は無いし、大嶽丸さんすら末端の可能性もある。


あちらも妖怪と人間が一緒になって挑んで来ている。ただその恨みの深さが妖怪以上にある可能性の高い人間の方が恐ろしい。受けて立つ側はそれを肝に銘じてかからないと圧倒されてしまう気がしてならない。


「兎に角ワシとしては一人でも多く強い味方が必要だ。相手は思う以上に恐ろしい」

「……良いだろう俺は大嶽丸さえ狙えれば文句はない。だがその前に聞きたい」


「何じゃ?」

「何故俺の仲間を攫った? それも非力な者を敢えて。返答によってはここで命に代えても貴様を斬らねばならん」


 鬼童丸の言葉に対し美月さんと鷹好さんは見合いその後酒井様を見る。二人とも具体的な話は知らない感じだな。それに対して酒井様は少し空を見上げて考えた後


「答えるのは簡単だ。だが康久は良いがワシはお前を強い味方だと認めた覚えはない」

「何……?」


「答えが知りたいのなら先ずはせめて竹上位まで上がれ。そうでなければ話にならん。お前はまだ会う機会がないだろうが松ランクはお前程度は軽くひねれるのだぞ?」


 その言葉に鬼童丸は身を震わせる。ただそれが怒りからなのか武者震いからなのか分からなかった。


「そう言えば康久からもお願いがあるのよね?」


 鬼童丸を気にかけているといきなりルナに袖を掴まれそう言われる。すっかり忘れていたが僕らは僕らでやらなきゃならない仕事があったんだ。それに気付いたのが分かったのかルナに思い切りわき腹を抓られて痛い……。


「何じゃ申してみよ」

「御神木を参拝したいのですが」


 それを聞いて酒井様は声をあげて笑う。美月さんと鷹好さんは目を丸くして驚いていた。その重大さを認識していないけど僕らとしてはそれにこそ用がある訳でそこに行く為に仕事をしている。もしそれが罪に問われるなら抗って他の国に移ってでも探さなきゃならない。


「そうすると記憶を取り戻せるのかな?」

「少なくともそれ以外に手掛かりがないのです」


 酒井様にはお見通しだろうから一部を省いて正直に答える。僕がこの世界に呼ばれた理由も分からないけど女神様に星の意思に会うよう言われ更にその星の意思と通信するには世界樹が必要なのは確かだ。


「そうかそうか。なら康久も存分に腕を振るうと良い。お主の望みを叶えてやろう」

「さ、酒井様!」


「別に良いではないか参拝するくらい。勿論鬼童丸より難易度は高いがな」

「で、ですが……」


「御神木を巡って争いにはなっているがそれは権力者同士の争いに過ぎん。時が過ぎ平和になれば警護の必要はあろうが皆が折に触れ参拝出来るようにしたいとワシは思っている。樹齢が途轍もなく長い以外にあれが何であるか誰にも分からんのだからの!」


 ガハハと豪快に笑う酒井様。確かに普通はわからないよなぁ僕もエルフの里で世界樹って元々星の意思が地上を見る為のアンテナとしての役割と魔術粒子(エーテル )を集める為のものだって知るまではよくわからなかったし。


「兎に角二人とも仕事に励むが良い。今のままでは康久はまだしも鬼童丸、お前は何も叶わんぞ?」

「フン……」


 今に見ていろという感じで酒井様を睨みながら鼻息を荒くする鬼童丸。何にしても酒井様の言うように梅ランクでお願いできる立場じゃないのはその通りだからランクを上げていかないといけないのは間違いない。


酒井様はそれだけ言うとそのまま御城へ帰っていった。僕らはお見合いも完了したので仕事が終わりになるも、鷹好さんと美月さんが御両親に報告するとお祭り騒ぎになりそのまま警護がてら滞在するよう言われてお世話になる。


「鷹好よ、夫婦となると決めたのなら命に代えても必ず守る覚悟も決めろ。子が出来ればその子の為に命を張れ」


 仕事をこなしてランクを駆け上がりたいであろう鬼童丸は鷹好さんに厳しい顔つきでそう告げ一緒に滞在し二人の門出を祝った。何となくだけど大嶽丸さんと鬼童丸の間にある問題もそれのような気がする。


「うひょおおおおお!」

「ちょ! 姫様! 何て声を出しているのですか!」


 祝いの宴席も終わった次の日。美月さんの家は明るい雰囲気全開で着た時とは大違い。僕らは縁起の良い者たちみたいに思われて拝まれる始末。ルナは鬼童丸にこのまま行くと神様になるかもねとからかい姉上のような考えで神になられては周りが困りますなと返し姉弟喧嘩が始まった。


「おい奇声を上げて走り回らないでくれルナ殿! 他の者たちもみているのだぞ!?」


 朝食を頂いた後僕らは連れ立って海へと行く。境は海までは無いものの警護の武士が居てこちら側の海に入ってこないよう見張っているのでこちらは大分空いている。隣の普通の浜辺は人が茣蓙を敷いて横になって居たり、水辺を駆け回っていたりと混雑していた。


まだ海を泳いだりはしないのかと思いきや、漁村が近いのもあり褌姿で海で泳ぐ人もいるし海女さんも居て他所から来た人に有料で泳ぎを教えていたりもする。この国では農家と同じくらい漁師も大事な職業で人気がある。

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