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異世界狩猟物語  作者: 田島久護
ナギナミの国編

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森での不思議な出会い

「おう、早かったな」


 工事人さんたちは皆顔見知りで鬼童丸が居る場所を聞くと直ぐに教えてくれた。僕らは期待されているのか街道の丁度真ん中の森の中を警備する。通常だと少しずつ木を切り倒して土を均して進んでいくようだけど今回は敵が前に占拠していた場所でもあるので他の作業を止めて一気に進める。


前の世界だと自然を大事にする為になるべく木を切らないようにしようとしてたけど、こっちでは防衛の意味も兼ねて町の周辺は草原くらいまでに抑えてある程度離れたら森になる様になっている。


御爺じと出会った森のような信仰にもにた場所もあるので戦においても火を用いたりはなるべくしないと聞き、これから時が過ぎ閉塞感漂ってくるとその常識をぶち破る人物が現れ天下を取るんだろうなとは思った。


「やはりお前たちが均した御蔭で森には不純な物が何一つない」

「そっか、それは良い状況だ」


「で、大嶽丸は元気だったか?」


 そう言われて一瞬驚いたけど前に雨の中大嶽丸さんと会って帰った際に妖気を感じると言ってたのを思い出し言わなくてもバレてるんだなと苦笑いして頷く。”鬼童丸が世話になってる”と言われたのは黙っておいて、それ以外を話すと


「お前もいきなり上の命令で連れて行かれたのだから仕方ない。それに大嶽丸がここまで出張ってくると知れたのは助かる」

「鬼童丸も大嶽丸と因縁があるのか」


「詳しくは言えないがある……仲間の救出を第一に考えて終われば抜けようと思ったが事情が変わった。救い出せても暫くはお前たちと共に居よう」


 僕は分かったとだけ答えてそれ以上は聞かなかった。相棒としてそれがとても大事な話なのであればいつか教えてくれるだろうと信じている。短い間ではあるけど共に過ごし仕事をこなして来て鬼童丸の信頼した人間に対する誠実さは見て来たつもりだから。


それから僕らは軽い雑談をした後で警備の配置に付く。蒸し暑い中でも森の中はまだマシで風も南から吹いて来て大分快適だった。野生の動物たちも見かけはしたものの陽の強くなる午後になると僕たちに対して威嚇もせずのんびり通り過ぎて行くだけだった。


「ん?」


 暫く警備を続けていると狼の群れを見つける。ただ様子が可笑しく通常ならこちらを距離を保ちながら見て威嚇するか警戒するのに今回は急に止まって違う方を見ている。注意していると威嚇する声を集団で上げ始めた。


「鬼童丸、ちょっと様子を見てくるよ」

「ここは任せろ」


 鬼童丸に断りを入れてからその方向へと近付いて行くも全く気付かれず回り込むように移動して威嚇している方向を見ると、向かい合う様に一匹の小さな狼が居た。親とはぐれたのか分からないけどたった一匹の小さな狼に大袈裟だなと思いつつ、僕はその狼の近くへ寄ると群れの狼たちはやっと僕に気付いて慌てふためき一目散に逃げて行った。


残された僕と小さな狼は呆然とそれを見つめるしかない。狼の群れが見えなくなってから小さな狼に目を落とすと御尻を地面に付けてしょぼくれているように見えて笑いそうになる。あまりにも可愛そうなので間食様に持って居た干し肉をしゃがんで小さな狼に見せると、ぴょんと跳ねて少し距離を取りつつも舌を出してハァハァしだした。


僕が干し肉を上に持ち上げたり右左に動かすとそれに釘付けで同じように動く。あまり焦らしても可哀相だと思い放物線を描くように小さな狼へ放り投げると上手くそれを口に入れた。まるで人間の様にもぐもぐした後息を吐くので笑ってしまう。


「じゃあな。お母さんの所へ帰るんだぞ?」


 何回か同じようにした後でそう告げて元の場所へと戻り鬼童丸にも声を掛け警備の続きをする。工事は夜も行う為夕方になると僕らより上の梅ランクの人たちがやってきて交代し奥宮さんに作業終了書を貰って帰路に就く。御用承所で提出し賃金を頂いた後長屋に帰りルナたちを連れて湯屋へ行き夕食を食べに御用承所の食堂へと言ういつものルートを辿る。


小さな狼の話をすると意外な反応が返って来た。ルナが食いつくのは分かるけど美影は目をかっぴらき口を半開きにしながら箸を落とし、僕の話が終わるまで身動き一つせずにいた。ルナが可愛い可愛い盛り上がり始めると漸く我に返ったようで口と目を閉じ箸を取って何事も無かったかのように黙々と食事を再開した。


これには鬼童丸もかなり驚いたようで僕らは目を合わせて頷き別の話に切り替える。美影はその後もルナが小さな動物の話をつづけたので動揺を隠しきれないのか芋の煮っ転がしの芋を掴んでは落としたりと分かり易い動きをし続けた。


食事も終えルナも話して満足したので長屋へ帰ろうと言うと美影はホッとしたように息を吐いて我先にと御用承所を出る。帰り道も一切話さずにそのまま長屋へ着き就寝となる。


 翌朝もいつも通りの行動をしてお仕事へ出かける。ただずっと美影の様子は可笑しく鬼童丸がえらく気を揉んでいる。姉さんはまだしも美影まで可笑しな真似をしてくれるなよと念を押すもどこか上の空な様子。


ルナの鬼童丸への制裁が終わり僕らは夜勤の人たちと交代で警備に就く。鬼童丸はずっと美影が心配だ心配だとしか言わず宥めて配置に就かせるのも一苦労だった。


「またか……鬼童丸、少し頼むよ」

「おう」


 鬼童丸まで空返事になって苦笑いする他無い。僕は昨日と同じような光景が繰り広げられている場所に昨日と同じように近付くとこれまた昨日と同じ小さな狼が居る。


「こらー! 何をするか!」


 昨日と違うのは猛烈な風を起こしながら入って来た人物が小さな狼と狼の群れの間に立ち塞がり威嚇をした。狼たちは恐れ戦き我先にと逃げ出して行く。その人物の後ろに居た小さな狼も驚いてはいたものの危機が去ったのが分かるとその人物の足元に尻尾を振りながら近付き円を描くように回り始める。


「な、何をしているのですか貴方はっ」


 目を瞑りながら小声で力なく叱るいつも厳しい美影。小さな狼は一瞬止まって首を傾げた後また周り始め最終的には体を擦り付け始める。それに対して美影はぷるぷるし始めた。僕はそれに対して微笑ましいなと思いつつ見ていたものの、こういうのを見て弄らず黙って居られない人物が僕らの仲間に居る一人だけ。


「みぃーかげちゃああああん」


 ひっくい声でそう言いながら近付き肩に手を置くその人物。ビクッと体を跳ね上げ錆びた機械のような感じで首を横に向ける美影。化け物でも見たように恐怖に慄く美影とは対照的に下卑た笑みを浮かべる元女神様であり元悪の首領であるルナ。


「ほーら美影ちゃん。これ、あの子にあげてぇ」

「い、いけませんそんな……」


「いーからいーから。おじさんの奢りだから」

「そ、そういう問題じゃ」


「あら。良いのかい? 美影ちゃん。このままだとあの悪いおじさんにこの子連れてかれちゃうよ?」

「くっ……」


 ……悪いおじさんとは誰なのか小一時間問い詰めたい。その後も寸劇は続いたので放置し元の場所に戻る。鬼童丸にどうだった? と聞かれたのでサムズアップしたのみで済ませる。あれを鬼童丸に話すと余計ややこしくなるのは目に見えているので仕方ない。


驚くべき話だけどその後もあれを続けたらしく日没になり交代をした後で気になって行ってみるとまだやってた。鬼童丸も一緒だったのでまたそこから始まり悪徳スカウトと純粋な女子大生そしてその父親みたいな寸劇は割と長く続き、僕はその間小さな狼に干し肉を遊びながら食べさせて時間を潰した。


三人が飽きた頃小さな狼は僕の胡坐の上で寝てしまい、それを見て美影がよろめいて鬼童丸が何とか支える。このままここに放置しておくのも危ないので小さな狼を抱えて長屋に戻る。門番の人にもその旨を伝えると、出来れば首輪を付けて紐を付けて欲しいと言われた。


狼でも群れからハブられてしまった人懐っこい者は人の家で飼われているらしく、農家などは一軒に二、三匹は当たり前だし武家屋敷にもいるので問題無いらしい。但し飼育が無理な場合は申し出る様にとも言われる。


この話を聞いてる間も美影はぷるぷるとし続け鬼童丸は大丈夫か!? と若干取り乱しルナはニヤニヤしてるだけと言う近年稀にみる酷い状況が繰り広げられゲンナリする。

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