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異世界狩猟物語  作者: 田島久護
ナギナミの国編

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大嶽丸

大和城の敷地内には公家も数名居るが御家人たちは周囲の町に点在し守護するように屋敷を構えてお正月など節目以外は大和には居ないとか、海の近くは漁師村と他の国から物資が運ばれてくる船着き場があり梅より上のランクは街道沿いの警備や湾岸沿いの警備もあると言う御話も聞かせてくれた。


「まぁ生きて帰れたら参考にするが良い」

「あ、ありがとうございます。酒井様も昔は御用承所を?」


「ん? まぁそんなところじゃよ。お前さん本当に何も知らんのだな」

「はい全く」


 酒井様はそれから少しの間楽しそうに笑いながら歩く速さを変えずに進む。薄暗い森の中を灯りも無しに速度も落とさず進めるのはどういう理屈なんだろう。僕みたいにエルフの人たちに心得を教えて貰ったのだろうか。


並みの人間がこんな離れ業を出来るものなんだなぁと感心しながら後に続きつつ気配を探る。とても静かな森では動物も寝静まっているのが救いだ。視界も悪く夜行性の動物が多く居たら気配を探るのに苦労する。


酒井様が行こうとしている場所の近くには野生の動物より厄介なのが居るのは間違いない……もしやとは思うけどまさか野生動物が息を潜めなきゃならない程強大な何かが居るんじゃないだろうな。嫌な予感がして来た。


「何じゃ今更怖気付いたのか?」

「いえ何か嵌められた気がして来たんですが」


「嵌められたとは人聞きの悪い。ワシの腕前が知りたいお前さんの望みとワシの肩慣らし、両方叶える良い場所なんじゃがな」


 あーなるほどなぁこりゃただじゃ済まないわ。あんまり自分の多少鍛えた程度で相手の強さを推し量ろうとしちゃダメだなぁ。師匠を思い出しておくだけに留めておけば良かったんだよ。自分を正直者と思った覚えは無いけど顔とかに出やすいんだろうな間違いなく。


「どうした? 急に押し黙って。帰るか?」

「いいえ……いいえ飛んでもない。行くところまでお付き合いさせて頂きますとも」


「そうこなくては……なっ!」


 その殺気には覚えがあったので察知して直ぐに身を屈め空を斬った刃を酒井様が抜刀で弾き返す。


「夜目にも慣れたろう?」

「はい」


 直ぐに体を起こし酒井様の前に立とうとするも酒井様は横に並ぶように移動する。鯉口を斬りながら次の斬撃に備える。森にうっすら差し込む月明りが斬りかかって来た妖怪である頭無しの体と刀を照らす。


「客は二人か。存外少ない」

「お前一人で良いのか? 誰か呼ぶか?」


 酒井様の余裕な言葉に僕が吹き出してしまうと頭無しは気を悪くしたようで即座に斬りかかって来た。前に見た二刀流で僕と酒井様を相手にしようとしたんだろうけど酒井様に鞘を当てられたので一歩下がり見守る。


酒井様は二刀を相手に全く引かないどころか綺麗に捌き体を入れ替え躍る様に相手をしている。僕の目が悪く無ければ酒井様の刀は柄の部分が茎剥き出しの様に見えしっかりと握っているというより吸いついて居るようにも見える。


「……貴様!」

「何じゃ小僧」


 その言葉通り子供相手に余裕で稽古を付けているようにしか見えない。躍る様に弾き避け受けやすい様に斬り付け鼻歌交じりにその受ける様を見て下がるを高速で繰り返している。女神様見ていますか? これがチートですよこれが! 


「おのれぇええ!」

「おい仲間はまだか? もうそろそろ飽きるが」


 絶叫し動きが変則的になる頭無しに対し全く動じず綺麗に捌き切る酒井様。これだけ動きがあっても他に気配はない。まぁこんな動きを見たらおいそれと出て来れる筈も無いのは分かる。僕なら迷わず仲間を可能な限り集めて撤退するよ。


「ほいっと」


 柄を人差し指でくるりと回した後振り被り叩きつけると頭無しは刀を飛ばされる。脇差で突こうとするもそれすら読まれて脇差も叩き飛ばされる。諦めず掴みかかろうとするも綺麗に鳩尾を殴り付けられ更に同じ場所を前蹴りされて吹っ飛ぶ。


圧巻以外の何物でもない。周到に準備して騙し討ちしたところで敵うのすら無理だろうと思える。頭無しは起き上がり再度挑もうとするもダメージが深刻らしく肩で息をしている。


「まだ情けが必要かい? お前さんもうちょっと頭のキレる妖怪だと思ったんだがなぁ」

「お前の、連れの様に……自らを諦めたりは、しない」


 息も絶え絶え答えた頭無しの言葉に酒井様は豪快に笑う。頭無しの突っ張りは素晴らしいとは思うし見逃されようとも思っていない覚悟の現れでもあるのは分かる。普通可能性があるなら命乞いを最後の瞬間までしたって間違いじゃない。史実でもそれで生き残った人はいる訳で。


「まぁ皮肉と強がりなんだろうが本気でそう思ってるとしたらこれから先、お前さんが辛くなるだけだ」


 酒井様はゆっくりと喋りながら近寄り刀を振り上げる。すると間髪入れずに横から何かが飛んで来たので僕が抜刀し叩き落す。地面を見ると苦無のようなものが落ちていた。


「弱い者虐めが趣味なのか?」

「おぉおせぇじゃねぇか」


 森の闇の中からぬるりと三度笠を指し紺色の着物と股引、片手に煙管もう片方に刀を携えた人物が現れる。こないだ雨の中後姿だけ見た人だと直ぐに分かった。三度笠が少し上に上がっていて正面から初めて見るけど鼻筋が通った二枚目の顔のあちこちに切り傷があり、目は鋭く犬歯が飛び出ていて眉間の三日月のような切り傷がとても特徴的な人物だった。


「悪いが助太刀させて貰うぜ」

「殿……」


 頭無しが殿って言ったけどこの人殿様なのか? だとしたらこの人をここで倒せば……。


「頭無し、殿なんて言うなと何度も言ってるだろう? 偶にそれを本気で信じる者も居る」

「そうだなうちのみたいなのがいるからな……とは言え間違いって訳でもねぇだろ? 実際お前が肝だ。その肝がノコノコ出張って来たならこっちとしては都合が良い」


 何だよ嘘かよと思いつつも酒井様が言う様にこの人は敵対する国だか組織だかの上にいるのは間違いない……と言うかそうでないと困るこんな強い人がゴロゴロ居られたら堪ったもんじゃない。


「……鬼童丸が世話になってるな」

「いえ」


 殿と言われた人は急に表情を緩ませて僕にそう言って小さく頭を下げたので、僕も答えつつ頭を下げた。鬼童丸を知っているどころじゃない感じだなこの人。兄弟か何かなのかな。


「今日のところは頭無しを連れて帰る。こいつはこっちの大事な人間なんでな。独断でこんなところまで来ていると聞いて探ってはいたが」

「も、申し訳ありません」


「はいそうですかって行くと思うかい?」

「見張り台を変えそう。業腹ながら頭無しの命には代えられん」


「保証は?」

「今直ぐ引かせる。何なら一緒に来い」


 暫く間があって酒井様は刀を納めた。僕も会わせて刀を納めると殿と頭無しは並んで歩きだす。正直ホッとしたような殿の腕前を見たかったし酒井様との鍔迫り合いを見たかったなとも思った。


森を進んでいくと前に鷹好さんと鬼童丸と見た見張り台の下に着く。そこでは青白い炎が浮遊し初めてみる妖怪たちが屯していて僕を見つけると襲い掛かって来た。


「馬鹿め」


 殿が小さく言うとその襲い掛かって来た妖怪の一人が青白い炎に包まれ他の妖怪が二の足を踏む。


「俺が分からないのか?」

「お、大嶽丸様!?」


 三度笠の先を親指でくいっとして妖怪たちに顔を見せると皆すぐさま下がり額を地面に付ける。この人が大嶽丸!? 僕は名前を知って改めて驚く。祖父ちゃんの書斎とかで読んだ覚えがあるかなり古い時代に居た鬼の名前だ。


主に天候を操り当時の帝から討伐依頼を出されて有名な将軍が討伐に向かった人物だ。対軍においてこの妖怪ほど強い妖怪はいないんじゃないかと思ったのを覚えている。


「残念な話、俺は剣の腕は……お前今何て名前だ?」

「酒井」


「酒井より劣る。なので悪いが俺と酒井の剣戟は見られない。許せよ」

「貴方は個より軍の方が強いでしょうから残念です。今見られないなら御二人の対決は見れないでしょうね」

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