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異世界狩猟物語  作者: 田島久護
ナギナミの国編

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鷹好さんとお散歩

「そう言えば二人ともそろそろ竹ランク昇段が見えて来たな」

「いやぁまだ梅八段ですから」


「急な振りだが仕事か!?」


 鬼童丸がワクワクして身を乗り出すも鷹好さんはゲンナリした顔をして肩を竦めたのを見て同じような顔をして元の位置に戻る。


「期待に沿えなくてすまんな。ただの気晴らしに来たまでだ」

「暢気だな」


「鬼童丸は釣りをやらんのか? あれと同じだ。今はジッと待つのみ」

「釣れる前に餌が落ちなければ良いがな」


 釣りの話はそれで御仕舞になりそこからは雑談が始まる。鷹好さんから梅ランクは十段まであり十段に上がると昇段試験を受けられるようになるし、クリアして竹ランクになると特典が付くようになると言う話を聞き盛り上がる。


僕らはガンガン毎日依頼をこなし達成度も満点に近く御用承所からも依頼人からも受けが良いのでこれだけ早くランクが上がったけど、普通はもっと時間が掛かるようだ。但し鷹好さんが振り返る限り一番楽なランクだそうで。


「二人は問題無いけど梅ランクは査定が甘いので雑に達成しても問題にはならない。が、上に行けば行くほど依頼主と御用承所の点数も辛くなる。そして合格点に到達しなければガンガンランクを下げられるから気を付けるようにな」


 そう言われれば思い当たる節はあった。武士は保証もなく依頼を受けなければ稼ぎが無いので皆依頼を毎日受けたいし出来れば楽な物が良い。だけど何でも受けられる訳では無いし更にそう言う楽な物も中々受けられない。依頼主の要望もあるし御用承所の推薦も実はある。


連日依頼をこなし続けられたのも実は一回受けたところからの継続依頼だったりそこからの推薦だったりする。例の雨の件もそうだけど武士は基本自由だし何でも屋や便利屋みたいな側面もある。町にとってなくてはならない存在でもあるが故に期待度も高い。


なので期待した仕事を望んだレベル以下でこなされれば評価は当然落ちるしそう言う人間が多ければ全体的に落ちる。依頼人も段々期待しないで低賃金で依頼をして来るし、武士も生活の為に受けるけどそれなりの働きしかしない。


最近までそう言った悪循環があったので御用承所でも改革を初めて推薦や指名制度、直接交渉制度更には継続雇用契約制度まで導入している。その影響で僕らは連日依頼を受けられていた。この一月の間特に他の武士とは関りが無かったのに仕事を毎日忙しくしていると声を掛けられる。


「助言感謝する。俺たちとしても早くランクを上げたいところだからな。鬱陶しいのに絡まれるのも面倒になって来ている」

「そりゃ仕方ない。今を時めく綺羅星だからな。依頼人の間でも評判だ」


「梅ランクにしては、だろう?」

「さてどうかな。上に行けば行くほど良くなると良いが」


 含みのある発言は引っ掛かるものの、それ以上は教えてくれなかった。ただそうなると僕らがしっかりこなして行けば評価も賃金も武名も上がりそうして行けば御上にも早い段階で近付けるのではないか。現に奥宮さんとも知り合いになれたし。僕の名前を知っていたのも依頼の達成度から新進気鋭として依頼人の間でマシな武士として知れて来たのかもと思えば今がチャンスだ。


「僕らは今まで通り依頼をこなして行きます」

「それが良い。変に気張ると碌な目に遭わない。そして出来れば先輩に甘味を奢って欲しい」


 鬼童丸は溜息を吐いたけど通りがかった女中さんを呼び止め丁寧に注文をする。鬼童丸はこういうところがとてもしっかりしていて基本横柄な態度の人間にはそのままに、女性子供には紳士的だった。見た目が包帯を巻いていて中々ホラーだけど佇まいや食事の所作、注文をする際などの態度を見れば”怪しい仕事か出身地の人間で薄気味悪い”から”何か事故に遭って止むを得ず包帯を巻いている方”までランクアップしているのが分かる。


最初は群を抜いて怪しくて近付き辛い存在だったのに今や話しかけられやすいまである。妖怪でここまで人間に馴染んだ最初の例じゃないかってくらいの馴染み方をしている。御用承所に暇つぶしに来る御老人と御茶をしたりもするけど、人間でも碌でも無い妖怪以下の連中もゴロゴロしてるから妖怪だろうと何だろうとそれだけで差別したりはしないと言っていた。


大和でも昔は色んな種族とも交流があり表立って手を組んだ訳じゃないけど協力していたりしていたと聞く。人間の人口が増え町を作り塀を立ててから交流は途絶えたようだ。御爺さんたち曰く塀は身を護る物でもあり区別の境目にもなったんだろうと言う。


「何やら相棒は難しい問題を頭の中で格闘しているようだぞ」

「何時もだ」


 気が付けばぜんざいが三つ運ばれてきて居て鷹好さんと鬼童丸は食べ始めていたので僕も慌てて手を合わせた後箸を付ける。しかし異世界に来てまたぜんざいが食べれるとは思いもしなかった。御祖母ちゃんのぜんざいには劣るけどそれなりに美味しい。


ナギナミの国はそのまま日本という訳では無いようで、割と気候も暖かく四季はもっと北に行かなければ味わえないようだ。その代わりサトウキビ等がそう遠くないところで取れてそこから砂糖を作っている。


「今日はやけにゆっくりだな」

「鷹好が来たから……ではなく依頼を次々受けて多少俺たちも疲れたので今日は休みを取る」


 鬼童丸の言葉に何故か周りが一瞬静かになる。鷹好さんはそれを感じて小さく笑う。その後依頼の写しを捲る音が食堂や待機所で響き渡るほど静かな状態が続いた。そしてある程度時間が経つと次々と番台へと向かう。


「現金なものだな。競争相手が居ないと見るやあれだ」

「俺たちが選んだ案件は勝ち目が無いからそれ以外を狙っているのだろうな」


 そんなに凄い仕事をこなして来た訳じゃなく小さなものからコツコツとこなしただけなのにえらい警戒されてるな。


「もし暇なら少し散歩でもどうだ?」


 食堂にも待機所にも人がほぼ居なくなったのを見計らって鷹好さんの本題が出て来た。鬼童丸は笑いそうになるのを自分の横腹を抓って堪え頷く。僕は抓りはしないまでも堪えて頷きぜんざいを食べ終えた後御用承所を出た。


門番の人たちにも散歩で少し出ると伝えて町を出て森へと入る。僕らは鬼童丸の仲間のところへ行くのではないかと気が気じゃなかったけど、何かを気にしてか迂回して隣町を通り工事現場を過ぎて更に北へと速足で向かう。


「ここが散歩の目的の場所か?」


 小さな山の上に着いた時鬼童丸がある場所を指す。その先を見ると小さな見張り台のようなものが眼下の森の中から飛び出て見えていた。鷹好さんは頷いてその場に腰を下ろしたので僕らも腰を降ろしそこを見る。


暫く見続けたけど見張り台には人がいるような気配がしないし何より鳥が何匹も止まり始めた。まさか野鳥観察に来た訳じゃないよなと思ったけど鷹好さんが何も言わないので黙ってそのまま見ている。


「餌にしては俺たちは上等過ぎたな」

「ほう……」


 鬼童丸と僕は殺気に気付いて素早く立ち上がり抜刀して防ぐ。相手を見ると昼なのに中々ホラーな人物が立っていた。


「一人で来るって言うのは感心しないな」

「貴様……人間か?」


 ……何故僕が真っ先に疑われるのか厳重に抗議したい。て言うか鬼童丸笑い過ぎだろ腹立つな。


「俺たちとやり合うつもりか?」

「千羽の小僧如きに遅れは取らん……と言いたいところだが用心棒は強力らしいな」


 どうやって僕らを感じているのか謎である。質素な着物に股引と草履を履いた頭部が無い人間が刀と脇差を構えていた。夜初めて会ったら腰を抜かしてた自信がある。


「大胆にも攻めてくるとは意外だったよ」

「それはそうだろう貴様らの動きは明らかに可笑しいと言うだけでなく不可解」


「妖怪に不可解と言われるとは光栄だね」

「それはそうだろう人間の方が要らん物を多く考えるのだから」

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