ヴァンパイア講義
「ワシも昔一度ヴァンパイアと交戦したが、身体能力の高さだけでなく体そのものを切り離して動かせる奴も居たのぅ」
「そう言えばこの前の人も体がばらけて蝙蝠に」
「あれが彼の特技の一つで、気配を完全に遮断して逃げた。攻撃したりすれば気が膨れ上がってばれてしまうけど、完全に気配をゼロに瞬時に移せる」
「となると気付かない内に背後に回り込まれて……」
「可能ではあるけど、ゼロに移せる代わりにその持続時間は短いし連続使用が出来ない」
「あの蝙蝠は?」
僕が問うと、博士は大きな溜め息を吐いた後
「あれは彼の友達でありアイデンティティなんだよ。ヴァンパイアはかくあるべし、ってね」
と呆れた様に言った。なるほど格好からしてそれらしいのはこだわりがあるんだなきっと。
「彼の襲撃の理由は何ですか?」
僕の問いに博士とパフィーは顔を見合い俯く。ひょっとしてこの二人が原因なのか?
「繁殖する為に威嚇、と言った所かの」
「は、繁殖ですか!?」
あまりにもストレートな動機だったのでつい驚いてしまった。
「ヴァンパイアって簡単には生まれないんだよ? 前にも話したけどヒエラルキーの上の方になればなるほど出生率は落ちてくる。人間も一旦過剰に増えても天敵のようなものや病などによって減り、更に上位になれば知性や理性が働いて繁殖行為そのものに興味を示さなくなる」
僕の国でも出生率が落ちまくっているって聞いたけどそれなのかな。あっちの世界だと人間の敵は人間か病だけになってたし。
「彼は繁殖の相手を求めてこの町を襲うから防いでみろ、と私たちに挑戦状を渡してきたんです」
……繁殖するのが目的だけどそれは絶対に達成できるから、遊びながら楽しくやろうっていう話か。てかなんでこの町なんだ?
「この町は首都から遠く、科学も発達してないから楽だと踏んだんじゃろ」
「そんなに首都って凄いんですか?」
「そりゃな。首都と言うだけある我が国最強の専守防衛要塞都市じゃ。恐らく適当な国など返り討ちになるほど硬い」
「そうそう。火災が起きても人は死んでも建物は無くならないし、防災も進んでいて燃え広がらない。更に治水も万全で作物も街中で育てている。家畜もそこらにいる。ある意味異様な都市だけどねぇ」
それだけでも凄く興味をそそられる。こことはまるで違うんだろうな……武器とかも。
「何というか情けない話ですわね。首都は怖くて襲えないから地方だなんて」
「首都より人の目に付かない場所も多いからね。それにほら、政治家も地方の方が緩いし」
どこの世界に行ってもそんなところは変わらないのかぁと思ってげんなりしてしまう。
「やっぱりヒエラルキーが上だとそうなるんですね」
「そりゃそうだろ。人間が蟻を踏み潰しても別になんとも思わないのと同じさ。今はそれが段々変わってきてるから、上の方も戦々恐々としてる」
「博士は時流を呼んで人間側に?」
「僕はもっと悪いよ。知的好奇心故に人に付いた。人間の方が追い詰められていたから面白いものを考え付く。それを見つつ自分も色々研究したくなった」
「博士の食事は?」
「僕の食事は……長年の苦闘の果てにやっっと完成した飲料があるんだ」
肩を落とし暗い顔をしたと思ったら、手を組んで空を見上げながら目を輝かせて言った。
「その御蔭で首都のヴァンパイア勢力は人から血を頂かなくとも何とかなってるんですよ! 凄い発見ですよね博士!」
「まぁまぁそう自慢しないの! いやぁ本当に大変だったんだから。人の血液と自分の血液を細かく分析する所から初めて、長い道のりでした……」
パフィーは涙ぐみながら頷き、博士は急にシリアスな引き締まった顔をしながら語り始めた。
「ヴァンパイアって凄い知識がありそうですけど」
「それは人其々だよ人間と同じ。ただまぁ殆どのヴァンパイアは能力に任せて人を襲うだけだけどねぇ。それにもまぁ理由があって」
「燃費が悪いって感じですか?」
僕が思いついたまま言うと、博士は指をパチンと僕に向かって鳴らした。




