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異世界狩猟物語  作者: 田島久護
ナギナミの国編

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大和妖怪

走って左へ曲がった瞬間人が我先にとこちらへ逃げてきた。その迫力に一瞬気圧されたけど頭を振り掻き分け流れに逆らう様に僕が入って来た門へと向かう。


「なるほどね」


 そこには門を優に超える背丈の一つ目で角を生やした緑色の大男が太い木を棍棒のように持ちながら暴れていた。こりゃ修復に時間が掛かるなぁと思いつつそのデカイのと相対する。入口を壊すのに御執心なようでこちらを見ていない隙に残っている塀へ上がるべく近くの家の屋根に上がる。


外にも化け物が集団で居てこのデカいのはそいつらを多く通す為に道を作っているようだ。しかしなんでこの町に執拗に入りたがるんだ? 人を狙っているとは思えない。会話が出来ると早いんだけど今の状況じゃ難しい。


「悪いが大人しく引いてもらう」


 僕は塀に飛び移りデカイの近くに移動して左二の腕辺りを蹴り飛ばす。どうやら日頃の鍛錬の積み重ねが実ったのか少しよろけてくれた。鋼鉄の肌、とかだったら流石にこのままじゃ太刀打ち出来ないけどこれならなんとかなりそうだ。


木で薙いで来たのを避けて飛び移り一気に顔の前まで駆け上がるとその二重顎を蹴り上げる。後ろへ仰け反りながら目を瞑り追撃を加えると少し後退した。体は大きいけど急所とかは変わらないようだ。


「取り合えずそのまま後ろに下がれ! ……風神拳!」


 よろけている今がチャンスと思い塀の上で構えを取った後風神拳を放つ。それを受けて更に千鳥足になり踏ん張るも最後には尻餅を着く。それを見て他の化け物たちは慌てふためき逃走を始める。


「ちょっと追撃してきますね。ここの警戒宜しく」


 一旦下に飛び降りて直ぐ近くに居た兵士にそう告げるとあっけに取られた顔をしつつ頷いたので僕は化け物たちを追う。僕が感じた違和感の答えが見つかるかは分からないけど何か分かるかもしれない。


一つ目の大男は再度僕の前に立ち塞がり殿を務めるらしい顔つきで仁王立ちした。そのいじましさを見てもとても悪意を持って襲ってきたとは思えない。


「おい、言葉が分かるならそのまま下がれよ。僕には知りたいものがあるだけだ」


 相対しつつ後ろの化け物たちを見ながらそう言うと一つ目の大男も振り返り見た後でまた僕を見てから逃走を始める。少しでも伝わったようで何よりだ。そのまま僕は彼らを追い掛けるふりをして共に森の中へと入る。


途中子供の化け物も居たけど脇に抱えて走り、連れ戻しに来た親っぽいのに返したりと遅れた者たちを回収しつつ進む。有難い話で師匠たちが鍛え育ててくれた体は化け物たちに勝った。その御蔭で彼らをしっかりと追えている。


 暫く森の中を進むと殺意の籠った一撃が上から飛んでくる。但州国光陽光はそれに気付き自然と鞘から抜けようとしたように浮いていて直ぐに掴んで引き抜けて驚く。


「何の用だ人間!」

「何故大和を襲う!」


 全身を包帯で巻きぎょろりとした目に派手な羽織りを着た者は素早い斬撃と重い一撃をテンポ良く叩き込んできた。こちらも斬り返すけど難なく防がれて相当な手練れだと分かる。


「お前何者だ?」

「そっちこそ」

 

 暫く剣戟を交わし合った後、化け物たちが一つ目の大男を含めて皆退却を終えたのを見計らって間合いを取る。言葉が交わせるなら誰でも今は良いし彼らを討つつもりも今は無いので目の前の包帯男を逃がさなければ良いと思ったし、彼も逃げるつもりは無いようだ。


「先ずはお前が名乗れ」

「良いだろう。僕の名前は康久、野上康久だ」


 そう言うと包帯男は驚いて目を更に丸くした後空へ向けて笑い声をあげる。何も面白くは無いと思うんだけどな。


「いや失礼。人間にもまともな奴がまだ居たのかと思ってな」

「……生憎記憶が無くてこの国の状況が分からない。何やらあの国の上の方に問題があると聞いて知りたいと思っている」


 一頻り笑った後包帯男は謝罪したので会話をする気があると判断して僕の話をすると少し間を置いてから


「なるほどな。だから俺たちを逃がしたのか」

「正直全てを鵜呑みに出来ない質なんだよね自分で知れる限りは知りたい」


「そりゃまた損な性格をしている」

「そう思うよ」


 互いに微笑み合った後、僕は刀を鞘に納める。それを見て包帯男も小さく笑って刀を納めた。


「問題を話す前に前提を話す必要があるな」

「そうだね全く分からないから教えて貰えると助かるよ」


「ならついて来い」


 包帯男に案内されて僕は更に森の奥深くへと進む。御爺じの家の近くから見渡したけどオシホミミの森はかなり広く境が見えないくらいだった。


「心配するな。大和へ戻る時は途中まで送るから」

「そりゃ助かる」


 辺りを見ながら気づかれないように枝や木の実を取っては落としを繰り返していると包帯男はまるで友達にでも言う様に言って来たので礼を言い大人しく後に付いて行く。


大分奥まで進み夜も深くなった頃、青白い光が先に見えてきた。


「あそこへ行っても大丈夫か? 皆びっくりするんじゃないか?」


 そう包帯男に言うと豪快に笑われてしまう。人間を敵視してるのに上の存在である包帯男が人間を連れて来たとなれば騒ぎになるんじゃないかと思っただけなのに。


「そんな心配をする奴が来ても誰も驚かんだろう。あそこが俺たちの村だ。悪いが他の人間に気取られる訳にはいかないからさっきまで撒いてたのは仲間が回収した」

「手間を賭けさせてごめん」


「本当にお前は変な奴だ」


 どうやら僕の喋る言葉は彼の笑いのツボらしくまだ出会ってそんな経ってないのに大分笑われている。それも事情が分かれば納得するのかもしれないと思いつつ後に続いてその村へと入る。村は見た感じ大和の町よりも大分古い建築が多いけど、それでも無法な感じはしない。


首都や大都市と田舎くらいの差にしか見えない。カイテンとエルフの里もこれくらいの差があったなぁと思いつつ包帯男の後に付いて村の奥にある建物の中へと進んだ。


「まぁそこに掛けてくれ」


 囲炉裏があり茣蓙もあったので挟んで座る。青白い炎の光だけが灯りになっていてとても幻想的な雰囲気を醸し出していた。


「何から話したものか……。先ずは俺たちについて話すかな。俺たちは妖怪と人間が言う種族で元々この土地に住んでいた」


 怖くは見えるけど恐らく妖精のような森から発生した者たち何だろう。そこから包帯男は何故大和を狙うのかと言う話をしてくれた。端的に言えば仲間を連れ去られそれを取り戻す為に大和を襲撃したり行商人を襲ったりしているという。


彼らとしては別に人間と交流を持とうとも思わないし出来れば互いに境を作って干渉しあわない関係で居たいようだ。元々そうであったしこれからもそうだと思っていたけど大和のトップが代替わりして急にこの森に来ては妖怪たちを斬ったり捕らえたりし始めたらしい。


「人間同士でも国と国で争ってるってのに他にまで手を出すなんて破滅主義だなぁ大和のトップは」

「確かにな。人間同士でやり合うのに俺たちは関係無いし干渉もするつもりは無い。第一仲間になれとも言われた覚えは無い」


「……連れ去られた仲間は足りない兵隊の代わり」


 僕が思った言葉を口にすると包帯男は小さく頷いた。あの国で最も大事な職業であり生まれから職業を固定して自由を奪ってまで確保した農家を今度は徴兵して戦いに参加させるんだから足りないのは事実だ。


国内の反発もあって増やし辛い中で見つけたのが妖怪の存在。上の性格からして妖怪に打診するなんてのはしないだろうからこういう手口に出ても不思議はない。我侭で傲慢という印象しか抱けないな今のところ。好ましく思う理由も無い。


「君らだけがあの町を襲っているの?」

「どうかな。森には妖怪以外にも獰猛な動物や化け物は居るから行商人は襲っても可笑しくない。縄張りもあるしな」

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