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異世界狩猟物語  作者: 田島久護
カイテン防衛編

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首都を駆ける

「そんな簡単にやられるかよ!」


 転がりながら隙を突いてオルランドの腹目掛けて蹴りを叩き込む。僕を追い詰めていると言う状態にかなり興奮していたようでもろに腹に入って吹き飛ぶ。幾ら弾力がありそうな肌とは言え内臓があるし何で僕の変身した姿がアリをモチーフにしてるのかは知らないけどパワーはクニウスにさえ勝る。


――ああ最初私が変身した姿をデザインしたけどいまいちでさ。他の星でアリ人間の母親にお願いしてリファインしたから――


 なんでリファインする必要があったんすかねぇ……それにもう少し人選をどうにか出来なかったんだろうか。恐竜とか虎とかさどう考えても強いぞ! っていう種族。


――フォルムの問題とか出産出来る数の問題とかよ。少数しか産めない種族に頼めないでしょ?――


 それを言われるとぐうの音も出ない。となると僕はどっかで一度アリ人間として生活してたのかぁ……感慨深いなぁ。


「グェアッ!」


 一旦堀の中へ落ちてしまい探しに行こうと思ったけど杞憂だったようで堀から飛び出し飛び跳ねてこちらへ戻ってきた。チャンスを逃して悔しいという顔をしながら斬り付けて来たのでこの動揺を見逃す手は無い。


言語能力も低下しいつもなら顔に出さない様なものも出てしまうんだろうなと思った。それまでの教科書のようなものは鳴りを潜め荒い太刀筋は予測はそれまでと比べて幾らか読み辛いもののまるで考えていない、振り回しているのに等しいもので戦場でのものと似ていたから避けられる。


歩兵がひしめき合い何処から斬撃が来るか分からないあの状況を生き抜けたのは大きい。うちの兵士たちも生き残った者たちは精鋭でこれから鍛錬を積み重ねれば首都の兵に勝るとも劣らないだろう。


どうか僕がしたかったような皆で支え合いながら生きる社会を形成するよう努力して欲しいと願わずには居られない。僕の中に何か予感めいたものを感じたからそんな思いが出たのだろう。


「オルランド、そろそろ決着だ!」


 斬撃を避けて剣腹を叩いて弾きバックラーに前蹴りを入れて距離を取らせる。能力は不足なく発揮されただろうけどオルランドらしい部分も消えてしまった。オルランドらしい部分も残しつつあの動きをされて冷静さを保たれたらもっと苦戦していただろう。


高校時代テストの時付け焼刃一夜漬けをしたけど僕の場合全く身にならなかったのを思い出す。時は等しく与えられていた。その中でどういう努力をし何を成し遂げたいかで結末は変わる元引き籠りの僕が言うのも何だけど。


オルランドがオルランドらしく努力してたら負けてた。オルランドは自分の良さを全て放棄して夢にのぼせてしまわなければ結末は違ったものになったと確信している。それくらいの能力をもってなきゃこれだけの人を巻き込んで硬い首都を急襲なんて絶対に出来ない。


 最後の隠し玉があるのかそれとも別の人間が仕掛けてくるのか。一応警戒しつつ何かあれば首都を離れて被害が出ない様にしないと。


「お前、負ける!」


 ビタビタ音を鳴らしながらオルランドカエルは間合いを詰めて渾身の斬撃を繰り出すもその全てを見切り小さな円を描くように避け逸らし背後を取る。


「夢の終わりだ」


 背後を取った瞬間、両拳を上下に並べ突き出し右足を前へ。気を練りながら腰を落とし準備完了。オルランドが振り向き腹が見えた瞬間


「風神拳!」


 師匠から教えて貰った必殺の拳をそこへ突き上げる為潜り込み放つ。オルランドカエルは最後の一撃を加えてこようとしたけど間に合わず、体は宙を舞う。


それから長い間空の旅を楽しんだオルランドは地上へと帰還し城の中庭へぽとりと落ちた。オルランドは白目を剥き血を吐きながらも気絶していただけでまだ生きている。近くに居た兵士の人に大きな袋を持ってこさせて首から下を入れて身動きを封じた。


この変身が解けるかは知らないけど身体能力が凄いし肌はカエルそのものだから縄で拘束しても逃げられてしまうので袋を用意してもらった。


「なるほど、流石だ勇者よ」


 初めて聞く大きく低い声が中庭に響く。辺りを見回すと塀のところに人影が見えた。目を凝らして見ると赤い髪を逆立て首には大きな数珠を付け袴を履いた筋骨隆々の上半身裸の男が居る。手には赤土色の大きな棍を持ち仁王立ちし気が炎のように全身から噴き出しているその姿は迫力しかない。


「またか……勇者勇者ってそんな言われる程の仕事はしてないんだけど」

「謙遜もそこまで行くと嫌味だ」


 鼻で笑われた後そう言われ首を傾げる。僕としては本当にそう思っているだけで謙遜もクソも無いんだけど。


「何か御用です? コイツを引き取りに来たとか」

「代償を受け取りに来た」


 代償? ……ああもしかして教団の方かな? となると戦わざるを得ない。僕は兵士の人にオルランドカエルを運ばせようと後ろを向いた瞬間、炎を纏った風が僕の横を通り過ぎオルランドへ向けて走る。あまりの速さに何も出来ずそれは直撃しオルランドは燃える。


「おいおい冗談だろ」

「冗談で首都襲撃などやらんだろ? そいつの望みを叶えてやったのだからこちらの望みも叶えて貰う」


「望みとは?」

「首都爆破」


 向き直り改めて顔を見ながら問うと、そう大真面目な顔でそう答えた。竜神教(ランシャラ)は過激派だなぁ相変わらず。呆れながらもどうやって爆破するのか考えたけどオルランドの体に何か仕込んだと考えるのが妥当だろう。


「ほう……貴様も炎を物ともしないのかそのフォームで」


 となればやる仕事は一つ。オルランドの体を首都から離すべく抱えて行くだけだ。地面に転がり燃えるオルランドを担ぎ上げ首都から離れるべく駆け出す。滅茶苦茶熱いし燃えそうだけど我慢だ。何故かこの熱さには覚えがあるので耐えられる。


ていうかこの人貴様もって言ってたけどこの人どっかで見た覚えがある……何処だっけ。デラウンじゃないしカイビャクでみたんだっけな。炎……ああそう言えば月読命の本拠地だったところで女神様と太陽を押し合ってた人だ! 漸く思い出した!


「逃がすと思ってるのか?」

「久し振りの再会だからのんびりと御茶でもしながら話したいところだけど、何としてでも逃げさせて貰う!」


 足の速さには自信があったけどあっさり追いつかれ並走される。僕の言葉に微笑みながら付いてくるんだからこの程度は余裕なのだろう。更に庭から堀までの石畳を走りながら棍の打撃加えて来たけどそれを避けつつオルランドを運ぶ。


「大将お待たせ!」


 掘り近くまで来るとクニウスが駆け付けてくれた。ラッキー! と喜ぶ暇も無く足止めしようと打撃は更に鋭く早くなる。


「待てようちの大将はやらせないぜ?」

「お前は竜神教(ランシャラ)ではないのか? 良いのか? こんな真似をして」


「知らんが。こんな真似を許せと言われた覚えが無いのでねぇ。消えて貰うぞ!」


 変身しているクニウスは更に強い。僕は負けるつもりは無いけど確実に勝てるかと言われたら勝てないと即答してしまう。


「ここは任せろ!」


 蹴りを入れて並走を妨害し背後からクニウスの声が聞こえ振り向かず頷く。どれだけの距離を走れるか分からないけど出来るだけ遠くに逃げないと。僕は堀に掛けられた橋を渡り町へ出るも直ぐに家の屋根を伝い塀へと移動、首都からも離れるべく塀の上を全速力で飛ばす。


その風で火が消えてくれないかと思ったけどそんな都合良くは行かないらしい。見ればオルランドカエルの腹はさっきより膨らんでいてその腹に何か仕掛けてあるのが分かるレベルだ。


この世界じゃまだ爆弾とか見た覚えが無いし、考えられるとすれば月読命たちの残党の研究かブラヴィシが信仰を集めて得ている魔術粒子(エーテル )によって作られた魔法や魔術(ミシュッドガルド )の類だろう。


となるとその爆発もえげつない範囲になるのは間違いない。最後まで粘った後空へ向かって放り投げよう。流石の僕も爆発して粉々になったら戻れる気がしない。


「うぉ!?」


 音も無く殺気は近付き背後から斬り付けて来た。それに寸でのところで気が付き跳躍し避ける。足を止める訳にはいかないので振り返らず走り続ける。


「見つけたぞ勇者!」


 勇者勇者五月蠅いなぁ……いつ誰が勇者になったのか勇者認定したのかキッチリ詰めて問い質したいくらいだ。この忙しい時に言われるだけで不快感は更に増すってのに。


「やっぱ来たのかデュマスロス兄弟」

「名前を纏めるな!」


 両手に片手斧を持ち筋肉を隆起させて塀の上に立ち塞がるデュロス君。背後は勿論デュマス君だろう。取り合えず構ってる暇は全く無いので大きく跳躍する。

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